第17話 人斬り捕縛作戦決行
サナエの過去を聞き、スキルだけでなくその人柄も知る事が出来た俺達はサナエのことを信用に足る人物だと確信した。
「これで私の話は以上だ。長々と話してすまない」
「いや、大丈夫。これでサナエも俺達オアシスの仲間だな!」
俺がそう言うとサナエは嬉しそうに笑い、ルドルフはブツブツと何やらまた独り言を言いながら頷いていた。
「何でリオンが仕切ってんだ!? オアシスのリーダーは俺だぞ!?」
グレンは不満そうに怒鳴ってきた。
一方シルキーは――――
「すーーー。すーーー。」
寝息を立てて爆睡していた。
しかし俺もオアシスの面々に慣れてきたのか、シルキーがおかしな行動をしたり、ルドルフが独り言を言ったり、グレンが怒鳴ったりしても動じなくなってきていた。
するとグレンが徐にその場に立ち上がる。
「よし、サナエも仲間になったことだし、人斬り捕縛作戦は今夜決行すっか! それまで各自準備しとけよ! 俺は――――寝る……!」
そんな宣言をするだけして、グレンはそのまま床に倒れ込み寝始めた。
「「えぇ……!?」」
俺とサナエが驚き、大声を出したが、グレンは一切起きる気配がない。勿論シルキーも同様に。
ルドルフは、未だブツブツと何かを呟いているかと思えば、よく見ると寝言を言いながら寝ているだけだった。
「あははは! みんな寝るの早いなぁ! やっぱりここは面白い、仲間になれて嬉しいぞ!」
サナエは嬉々とした表情を見せる。
彼女の過去を聞いても、仲間のような人は出てこなかった。俺と同じで初めての仲間なのだろう。
そんな彼女に俺は勝手に親近感を募らせる。
「よし、じゃあ俺もそろそろ寝るかー! サナエはどうする? 泊まってくか?」
「いや、私は帰るよ。心遣いに感謝する」
俺の誘いをキッパリと断ったサナエは、そそくさと自宅へ帰っていった。
◇
そして作戦決行の夜。
俺達はオアシスの前に集合していた。
「よし、全員揃ってんな! じゃあ作戦の概要を説明すんぞ! まず前にも言った通り、奴の標的であるリオンとシルキーは町中を普通に歩いていてもらう」
「了解っ!」
「オッケー! まっかせてー!」
俺とシルキーは威勢よく返事をした。
「次にその後ろから、俺とルドルフとサナエは物陰に隠れて奴が出てくるのを待つ」
「わかったよ、兄さん」
「うむ。承知した」
ルドルフとサナエは頷きながら返事をした。
「んで、ここからが本題だ。奴が現れたら隙をついて俺が出る。俺が奴に触れてスキルで動けなくする。その後、リオンは噛みつき、サナエは後方から一気に間合いを詰め奴に刀を突きつけ、ルドルフは足元を狙撃しろ。それで奴の動きは完全に止まんだろう。最後にシルキーの麻酔毒で眠らせて捕縛。これが作戦の概要だ」
「素晴らしい作戦だ! やはりグレンは頭がきれるようだな!」
「僕は後方から足を確実に狙撃しないとだね……。僕が失敗したらみんなに迷惑がかかる……。だから……ブツブツ……」
サナエはグレンの作戦を賞賛し、ルドルフは緊張しているのか、いつもの独り言を始めた。
「頑張ろーね! リオっち! 私達の責任重大だよ!」
「あぁ! そうだな! 俺達でグレンが突入できる隙を作らなきゃだし、頑張ろう!」
俺もシルキーも気合十分だ。
――人斬りは一度戦って負けてる相手。
特訓もして俺はあの時より強くなった。
次は絶対に負けない……!
「よし、行くぞ……!」
「「「「おぉー!」」」」
グレンの号令がかかり、俺達は作戦を開始した。
俺とシルキーは早速、二人で町を歩き始める。
◇
「そろそろ予定の一時だな……」
グレンがボソッと呟いてから暫くして、町の空気が変わった。ひんやりとした夜の空気の中に、ピリピリとした緊張が走る。
ザザッ……
すると、突然物陰から人斬りが姿を現した。人斬りは相も変わらず何も言葉を発することなく、刀を鞘から抜き構えた。
「よう、人斬り……。この間はどうも。殺し損ねた俺をまた殺しに来たのか? でも今回の俺は前より数段強い――――ぜっ……!」
俺はそんな啖呵を切ると、勢い良く人斬りに向かって突貫した。そして走りながらも冷静に左手を口に変え、間合いに入った所で奴の首元へ目掛けて突き出した。
すると人斬りは俺の攻撃にすぐさま反応し、一歩後ろへ下がると俺の左手に斬りかかる。
しかし俺が飛び出したのと同時にシルキーも走り出しており、奴の背後に回っていた。
シルキーがナイフで奴を斬りつけようとすると、それにもすぐに反応し、体を右回転させ刀で俺の左手とシルキーのナイフを受ける。
その間、奴の左脇腹が空いたのを俺は見逃さなかった。
「ガラ空きだぜ……! くらえっ……!!」
「………………っ!」
俺は右手を瞬時に口に変え奴の左脇腹に噛み付いた。
すると奴は俺とシルキーの攻撃を気力でなぎ払い、脇腹を押さえ立ち止まった。
奴は驚いた様子だった。
俺が奴に見せたのは左手を口に変えるだけ。
右手まで変えられるとは予測出来なかったのだろう。
無理もない。しかしこれはチャンスだ。
「グレン…………!!」
俺が振り返り叫ぶと、グレンは物陰から飛び出した。
「いい仕事してるぜ、テメェら……! このチャンス確実にものにすんぞォ……!!」
そしてグレンは、脇腹を押さえ立ち尽くす奴の身体に軽く触れた。
「重力操作
グレンが何やら技名を叫ぶと、奴はガクッとその場にひざまづいた。それ程までに重力が凄いのか、奴の重みで地面にヒビが入っている。
「…………ぐっ!」
そして奴は俺達の前で、初めて声を上げた。
――効いている……!
刹那――――。グレンは俺達に号令をかける。
「リオン! サナエ! ルドルフ! 今だ……!!」
俺達は互いの顔を見て頷き、一斉に突貫。
俺はは奴の首元に噛み付き、サナエは物陰から一気に間合いを詰め両腕を軽く斬りつけ刀を落とした。
そしてルドルフは二発の銃弾を放ち、奴の両足に命中させた。
「しゃあっ……! 次はシルキー、今だ……!!」
俺の声に反応したシルキーは、胸元から一本の細い針を取り出し、奴の首に刺した。
すると奴の身体から力が抜け、崩れる様に地面へ倒れ込んだ。どうやら麻酔毒が効いて眠ってしまったようだ。
その隙にルドルフが持参した縄で奴の両手両足を縛り、グレンが重力を軽くして奴を担いだ。
「よっしゃあ! これで作戦成功だな! じゃあ、このままコイツを奉行所まで連れてくぞ」
意気揚々と足早に歩くグレンの後を、俺達も急いで追いかけ、奉行所へと向かった。
因みに奉行所とは罪人を捕え、将軍の命令により役人がそれを裁く役所のことらしい。
◇
そして俺達は無事、人斬りを奉行所へと届けた。
奉行所には二人の役人がいて、役人達は俺達が人斬りを捕らえた事に驚いた表情を見せ、深く頭を下げ礼を言ってきた。
「ありがとう、感謝する。君達のおかげでこの町に平和が戻るだろう」
俺達は少し照れくさそうに、そして少し自慢気に奉行所を後にした。
◇
「いやぁ、俺の作戦がこうも上手く行くとはなぁ! ははは!」
グレンは嬉々とした表情で自慢気に笑っている。
「やったねやったね! 私達お手柄だよー!」
「うんうん。僕達は町の英雄だね」
シルキーとルドルフもかなり上機嫌だ。
「私も初めこそ心配もしたが、君達の連携は凄かった! 皆で無事に作戦が成功して本当によかった!」
サナエも興奮冷めやらぬといった様子で、皆の良かった点を挙げて喜んでいた。
――皆喜んでるなぁ。
俺も作戦が成功して、自分の特訓の成果も出せた。
とても嬉しい……はずなのに何故かスッキリしない。
本当にこれで終わりなのか……?
何だ? この違和感は?
「だぁーーー! 奴の面を外して顔見んの忘れたぁー!!! ちょっと、今から奉行所に戻って顔見てくる!!」
俺が思案していると、グレンが突然騒ぎ出した。
他の皆で何とかグレンを抑え、俺達はオアシスへと帰った。
◇
その頃奉行所では二人の役人が捕縛された人斬りを眺めながら、話をしていた。
「まさか世間を騒がす人斬りを捕まえる奴が現れるとはなー」
「まったくだ。アイツら、影町の連中を束ねて何でも屋をやってる……確かオアシスとかいう奴らだろ?」
「あぁ、アイツらか! まぁ何にせよこの人斬りを捕まえてくれたんだ。感謝しないとな。――――さて、さっさとコイツの書類を纏めて上に報告しよう」
「そうだな。ん? コイツ、鬼の面なんか付けやがって。……ったく、これじゃあ顔がわからないじゃないか」
役人達はやれやれといった様子で、人斬りの鬼の面を外した。
そして同時に彼らはそこで、人斬りの正体を知ることになる。
「お、おい……!」
「こ、これって……!? と、とにかく……今すぐ上に報告だ!」
「わ、わかった!」
二人が知った人斬りの正体とは一体――――
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