第61話 シルキー③
ヴァイツェンとシルキーにより国王モルトが石化させられてから数日が経ち、国中でモルトが何かの病気になり乱心して城に姿を隠したと噂になっていた。
そして国王を代理で立てるべきだという声が民達から上がり始めていた。
しかしヴァイツェンの思惑とは大きく逸れ、国王代理はモルトの息子であるグレンに任命される。
それを機にヴァイツェンはグレンとその弟ルドルフを疎ましく思い始めた。
そして彼はシルキーに二人を消して来いと命じた。
方法は何でも良いとも――――
◇
そしてヴァイツェンにグレンとルドルフを消す事を命じられ王城へ向かっていたシルキーは、一人で王城への道を歩きながら幼い彼女の小さな頭で様々な事を考えていた。
「私、やっぱりグレンとルド君を殺したくないよ……。でも私がやらなきゃ今度は二人がお父さんに殺されちゃう……。どうしよう……!?」
シルキーはヴァイツェンによる厳しい指導を経て完全に感情を失ったかに見えていたが、実はグレンとルドルフに対する感情だけは微かに残していた。
しかし、必死に二人を助け出す方法を考えている内に、ものの数分でシルキーは王城へと到着してしまった。
「もう着いちゃった……。でも私が二人を守らなきゃ……」
シルキーは王城の門に手を掛け一言呟いた。
そしてそこで二人を助け出す唯一の方法を思い付く。
◇
王城の中へ入ると庭でグレンとルドルフが遊んでいた。
シルキーはそんな二人に声を掛けた。
「グレン、ルド君久しぶり。お父さんは大丈夫?」
「ほんとだよ! 最近全然遊びにこねぇから心配してたんだぜ?」
「僕も心配した! ……お父さんは部屋に閉じこもったきりで出来てないんだ」
二人はシルキーの問い掛けにいつも通りに返答した。
どうやら二人はあの一件にシルキーが関わっていた事は知らないようだった。
「そっか。ごめんね心配かけて。そうだ! 今日は二人にお土産があるんだ……!」
そう言いシルキーはポケットの中から飴玉を二つ取り出した。
「お! 飴玉だ! くれんのか!?」
「飴玉! 飴玉! 僕も欲しい!」
二人はシルキーが取り出した飴玉に大喜びだった。
そしてシルキーはその飴玉を二人に手渡した。
【記憶喪失性の毒】を付与して……。
「はい、どうぞ……!」
「へへっ! ありがとよ、シルキー!」
「ありがとう! シルキー!」
二人はシルキーに礼を言い嬉しそうにその飴玉を口の中に放り込んだ。
そして暫くして二人の様子が変わっていく。
「グレン……? ルド君……? 大丈夫……?」
シルキーはそんな二人に声を掛けた。
すると二人は虚ろな目でゆっくりと口を開く。
「君は誰……?」
「僕は誰……?」
シルキーの毒はしっかりと二人に効いており、完全に記憶を消す事に成功していた。
そしてそんな二人にシルキーは涙を流し、優しく声を掛けた。
「ごめんね……。本当にごめん。これも二人を守る為なんだよ……。許してね……」
「どうして泣いているの?」
「何か辛い事でもあったの?」
そんなシルキーを二人は不思議そうな顔で見つめる。
そしてシルキーは涙を拭き笑顔で話を続けた。
「……ううん。何でもないよ! お姉さんはね、君達の名前、知ってるんだ。教えてあげるね。君はグレン、君はルドルフ。どう? 覚えた?」
「俺はグレン……」
「僕はルドルフ……」
二人は虚ろな目で自らの名前を呟いた。
シルキーはそんな二人を見つめ悲しそうな表情を浮かべた。
「そ! 二人とも偉いね……! じゃあ今からお姉さんと遊ぼっか!」
「「うん……」」
そう言うとシルキーはグレンとルドルフの手を引き、二人の母親であるオリビアの元へと向かった。
◇
シルキーは二人を連れオリビアの部屋の前まで来ていた。
コンコンとノックをすると部屋の中から明るい返事をするオリビアの声が聞こえて来た。
そしてシルキーは何も言わず部屋の扉を開いた。
「あら……シルキーちゃん。どうしたの?」
やはりオリビアは国王の一件にシルキーが関わっていた事を知っていたのか、先の明るい返事とは違い、少し声のトーンを落としてシルキーに声を掛けた。
「二人は私が守る……。二人は私が守る……」
シルキーはそんなオリビアに目もくれずただひたすらに何かの呪文の様にそんな言葉を呟き続けていた。
「シルキーちゃん……? どうかしたの……?」
シルキーのただならぬ様子を見て流石に心配になったのかオリビアは三人の元へと駆け寄った。
「王妃様……。王妃様のスキルって【転送】だよね……?」
シルキーは俯いたままオリビアのスキルについて口にした。
するとオリビアは怪訝な顔をしながらシルキーの顔を見つめた。
「何故シルキーちゃんがそれを知っているの……?」
「それは……言えない……ごめんなさい。でもそのスキルでして欲しいことがあるの」
「……して欲しい事?」
そう言うとシルキーはオリビアの目を真っ直ぐに見つめた。
オリビアはそんなシルキーを怪しみつつも、そう聞き返した。
「グレンとルド君を……どこか遠くに逃がして欲しいの」
「え……!?」
突然のシルキーの言葉にオリビアは言葉を失った。
何を言っているのかわからないといった様子だった。
「いきなりそんな事言われてもわからないよね。でも二人を守る為なの。お願い……王妃様。二人を逃がして……?」
するとオリビアはそんなシルキーの鬼気迫る表情と、グレンとルドルフのいつもと違う様子にこれはただ事では無いと気付いた。
そしてオリビアは腹を括り、真剣な表情でシルキーの目を見つめた。
「何処へ逃がせばいいの……?」
オリビアはそのままの表情で転送先をシルキーに問うた。
「出来るだけ遠く……」
するとシルキーはボソッとただ一言、そう呟いた。
「…………わかったわ」
オリビアは少し間を開けて、それに了承した。
「ありがとう……王妃様……」
「えぇ。これが二人を守る為なのよね……?」
「うん……」
「わかったわ……。最後に二人と話をいい?」
「いいよ……」
そしてオリビアはグレンとルドルフを力強く抱きしめた。
二人は彼女が誰なのか、何故突然抱きしめて来るのか、それすらもわからないままオリビアに体を預けた。
「グレン……ルドルフ……。元気でね……。愛してるわ……!」
そう言うとオリビアはスキル【転送】を発動させた。
そして二人は音も無くその場から消えた。
「これでよかったのよね……シルキーちゃん?」
「うん……。大丈夫。あとは私が何とかするから……。二人は私が守るから……。それと……あの二人をどこへ転送したの?」
「私の能力で飛ばせる一番遠い場所。ここの下の階層、ヨスガの里よ」
「そっか……。ありがとう。それじゃあ私行くね」
そう言い残しシルキーはオリビアの元から去って行った。
◇◇◇
そして屋敷へと戻ったシルキーはヴァイツェンの元へ報告へ来ていた。
「ふぉっふぉっ。戻ったかシルキーよ。あの二人はしっかり始末して来たのだろうな?」
「いえ。私が向かった時には既に王妃が二人を逃がした後でした」
「なにィ!?」
シルキーは嘘をついた。
しかしヴァイツェンはそんな事には一切気付いていなかった。
「でも王妃から二人の居場所を聞き出しておきましたので私がそこへ監視しに行きます」
「何を言っているのだ!? ワタシは監視ではなく、二人を消して来いと言ったのだ……!」
ヴァイツェンはシルキーの突然の言葉に激怒した。
しかしシルキーはそれに動じる事無く話を続けた。
「大丈夫です。二人が飛ばされた場所はサンドレアの中ではありませんので、お父さんの邪魔にはならないかと」
「何……? まさか……下か……?」
「はい……」
それだけの言葉で全てを察したヴァイツェンは不敵な笑みを浮かべ始めた。
「そうか……。ふぉっふぉっふぉっ。奴らは下へ逃げたか。そうかそうか。ならばシルキーよ。お前も下へ行く事を許可してやる。その代わりしっかりと監視するのだぞ? 決して奴らをサンドレアに戻すでないぞ?」
「はい、わかりました」
「それと月に数回、必ずワタシの所へ直接報告に来るのだ」
「わかりました。……でもどうやって上と下を行き来すれば……?」
シルキーがそう問うとヴァイツェンは棚の引き出しから妙な石版を取り出した。
「この石版にはグレゴール様のワープゲートが刻まれておる。これを使えば上と下の行き来が一瞬で可能になる」
「……わかりました。では行ってきてます」
シルキーはその石版を見てそのワープゲートを見て一瞬戸惑いを見せたが、その後すぐにグレゴールのワープして行く姿を思い出しその意味を理解した。
そしてシルキーはヴァイツェンに少し頭を下げるとヨスガの里へとワープして行った。
◇
その後、時期を見て自分も記憶を失った孤児のフリをして二人と合流し監視を続け、時折サンドレアに戻ってはヴァイツェンに報告をするという生活を続けた。
そして現在に至る――――
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