第60話 シルキー②
国王を石化させる為、王城へと来ていたヴァイツェンとシルキーは王の間で国王と謁見していた。
部屋の中には王国騎士やメイドといった様々な人間が両脇に整列し、三人を見ていた。
「どうしたヴァイツェン? 改まって謁見など」
「いえね。最近我が娘のシルキーが、よくご子息と遊んで頂いているそうでお礼をと思いましてね……」
「ハッハッハッ! そうかそうか。こちらこそ、シルキーにはうちの息子達と遊んでもらって感謝しておるよ。さぁシルキー、こっちへおいでー?」
高らかに笑う国王モルトの声は部屋中に響いていた。
そしていつもそうしているのだろう。
モルトはごく自然にシルキーを近くへ呼んだ。
「はあい……!」
するとシルキーは笑顔で返事をし、モルトの元へ駆け寄った。
そしてモルトはシルキーの腰ヘ手を回し、抱き寄せた。
その瞬間――――
「きゃあっ!!」
――――シルキーがわざとらしく悲鳴を上げた。
「どうした、シルキー!?」
更にわざとらしくシルキーを心配するヴァイツェン。
「こ、国王陛下が私のおしりを触ったの……」
「なにぃ……!?」
シルキーの発言を聞き、ヴァイツェンは驚いた表情を見せる。
「ハッハッハッ! それはすまんかったな、シルキー。悪い事をした。いやはやシルキーも大きくなって、もう立派な大人の女性だなっ!」
モルトはそんな事を気にもとめず笑い飛ばした。
シルキーへ優しい言葉をかけつつ。
「な、何ですか陛下、今の言葉は……! 我が娘はまだ十二歳ですぞ!?」
「そうだが? だから大きくなったなと言っておるだろう? それがどうかしたのか?」
ヴァイツェンは怒りが込み上げているような演技をしつつ、顔を伏せた。
そしてニヤリと笑った。
「陛下は十二歳の子供の尻を触り、大きくなったと申すのですか……!? なんと卑猥な……!!」
ヴァイツェンはわざとらしく大声で騒ぎ立てる。
すると周りにいた者達もつられ始め、部屋の中はざわつき始めた。
「おいおい、何だ何だ? 俺はそんなつもりで言ったのではないぞ? 普通に考えてわかるだろ?」
「今のはよくありませんな。わざわざ自分の傍に呼び、尻を触りそんな発言をなさるなんて……!」
「おいこらヴァイツェン!! いい加減にせぬか!!」
「ひぃっ……! 自分の都合が悪くなればそうやって怒鳴りつけて……! ワタシから娘も奪うのですか……!?」
「何……!?」
ヴァイツェンの演技にまんまと乗せられたモルトは思わずシルキーを抱く腕に力が入ってしまう。
「いたっ……!」
「シルキーどうかしたのか!?」
「陛下が私の腰を強く締め付けたの……」
「かぁーーー…………。卑猥な発言の次は暴力ですか……!? とんでもない国王陛下だ……!! 皆そうは思わんかね!? 国王はご乱心なされてしまわれたようだぞ!?」
「おい、ヴァイツェン!! 何を言っておるのださっきから!! …………っ!?」
モルトはヴァイツェンの言動に怒りを露わにし、椅子から立ち上がった。
その時、彼の太腿にチクリとした痛みが走った。
「……ふぉっ」
それを見たヴァイツェンは静かに笑った。
「シルキー……? 今俺に何かしたか……?」
「ふっふふ。 何もしてないよ……? さよなら、おじさん……」
モルトの問いかけに薄ら笑いを浮かべそう答えたシルキー。
その貼り付けられた笑顔でモルトは全てを察した。
「ヴァイツェンーーー!!!!!」
モルトは怒り、腰に手を回し抱いていたシルキーをそのまま持ち上げヴァイツェンの元へと投げ付けた。
「どうされましたか、陛下……! シルキーを投げ飛ばすなど、おかしくなってしまわれたか!?」
ヴァイツェンの言葉とモルトの一連の行動に納得させられたのか、傍観者達もモルトを非難し始めた。
「子供を投げ飛ばすなんて……」
「尻まで触ったようだしな」
「最低の国王だわ……」
「ふぉっ……」
そんな声が部屋中に響き渡る中、ヴァイツェンはもう少しだと自分に言い聞かせ、笑うのを堪えた。
「ヴァイツェン貴様……俺に何をしたァァァ!!!」
モルトがヴァイツェンに怒り叫び、足を踏み出そうとしたその時。
彼は自分の身体に起こった異変に気が付いた。
「足が前に出ない……?」
そしてモルトは自らの足を確認した。
するとその足は既に石に変わっていた。
「な、なんだこれは……!? おい、ヴァイツェン!? 何の真似だこれは……!?」
「あぁ、なんと……! 陛下の非道な行いに神が鉄槌を下されたのだ……! あぁなんと哀れな……」
そう言いヴァイツェンは天を仰いだ。
そしてモルトに起こった石化はどんどんと勢いを増して彼の身体を固くしていった。
「貴様……ヴァイツェン……。許さんぞ……! これを知った者達が……必ず……貴様を……」
そして最後の言葉を言い切らない内に、モルトは完全に石化した。
するとヴァイツェンは部屋の中にいた者達に演説を始めた。
「貴様ら! 今見た事は決して口外してはならんぞ! これは神による裁き。そんなものを陛下が受けたと知れば王族の、貴族の、ひいては国の品位が下がる! よいな!?」
ヴァイツェンの演説が終わると、その妙な説得力に皆は頷き従った。
そして彼は石化したモルトを別室へ運ばせると、シルキー以外誰もいなくなった部屋の中で一人笑った。
「ふぉっふぉっふぉっ! 上手くいったぞよ……! これでこの国はワタシの物だァ!! シルキーもようやったぞよ」
「ありがとうございます……お父さん」
自らの策が上手くいった事に喜び高笑いをするヴァイツェンだったが、そうは問屋が卸さなかったのだった――――
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