第48話 【閑話】地上の皇帝


 ◇



 ここはにある世界で最も力を持つ国〈アルステンド帝国〉。

 隣接する国々からは、その圧倒的な武力により恐れられていた。


 そして帝国の皇帝である"ジルベスター・アルステンド"は、その強力なスキルの能力によって誰も逆らえない程の絶対的な支配権を握っていた。



 ◇



 ――――〖皇帝の間〗


 

 ジルベスターはだだっ広いその部屋で、大きな椅子に深く腰かけ、頬杖をつき退屈そうな表情を浮かべていた。


 

「陛下! 御報告致します!」


 そこへ一人の帝国騎士が現れた。

 

「何だ?」


「東の国。サイルブ王国の者が、誤って我が帝国の領土へ踏み入った様です! 如何いかが致しましょうか!?」


 それはアルステンド帝国の東側に位置するサイルブ王国の民が、誤って帝国の領地へと侵入したという知らせだった。

 

「チッ。たかが虫が一匹入り込んだ程度でやかましい奴だな。…………さっと殺せ。一々そんな事を報告して来るな。わずらわしい。」


「はっ。失礼しました……!」


 しかし絶対的強者たるジルベスターにはそんなものは小バエが飛んでいる程度にどうでもいい事だった。

 そんな彼には、気にしている事が他にあった。


 

「それで? 今月のからの献上品はどうなっている?」


「はっ! 各階層、しっかりと納められております!」


「ほぉ。やるではないか。これからも励む様にと各階層主に伝えておけ」


 ジルベスターは帝国のに広がる"アンダーワールド"からの献上品の納品状況を確認すると、とても御機嫌な様子でそう言った。

 


「承知しました! ただ……」


「ただ?」


フィフシス村からの献上品は未だ滞ったままでございます」


 しかし、ただ唯一。

 献上品を納められていない階層があった。

 それはアンダーワールドの最下層に位置するフィフシス村だった。

 

「そうか。最後に献上品が上がってきたのはいつだ?」


「約百年前と伝え聞いております!」


「そうか……。クックックッ。俺も丸くなったものだなァ……。そんなゴミ共を百年も放置するなんてなァ……」


「…………っ!」


 ジルベスターは不敵な笑みを浮かべると、屈強な帝国騎士ですら声を出せず怯む程の殺気を放った。

 そして彼はとんでもない事を言い始める。


 

「――――潰せ」


「はい……?」


「地上へ献上品を納められないゴミ共は生きている価値が無いから潰せと言っているのだ。わからんか?」


「潰せと仰られても、具体的にどうすれば……」


「知るかそんなもの。適当に上の階層を落として潰してしまえば良いだろうが」


「そんな……!? あそこには沢山の人が……!」


 ジルベスターのとんでもない発言に帝国騎士は戸惑いつつも、フィフシス村の住人の事を気に掛けた。

 しかし――――


「先も言っただろ? 献上品を納められないゴミ共は生きている価値がないと。俺が潰せと言ったら潰せ。いいな? 今日中にだ」


「し、承知しました……!」


 ジルベスターの権力は圧倒的であり、騎士はただそれに従うしかなかった。


 ◇

 


 そして数時間後。


 ジルベスターの命令通り、ヨスガの里がフィフシス村に落とされ潰されたのだった。



 ◆



 フィフシス村が潰されてから数ヶ月後。

 

 ――――〖皇帝の間〗



「おい、そこの者。グレゴールを呼べ」


「はっ! 承知しました!」


 ジルベスターがいつもの様に椅子にふんぞり返りそう言うと、側仕えの男はグレゴールという男を呼びに向かった。

 すると一分も経たない内に側仕えは、グレゴールを連れ皇帝の間へと戻った。


 そしてグレゴールは皇帝の間へ入るやいなや、膝をつき頭を下げた。



「お呼びでしょうか、皇帝陛下」


「おお。よく来たグレゴール。この間、最下層の……何といったか……」


「フィフシス村にございます」


「おぉ、そのフィフシス村とやらを潰したから様子を見てこい。生き残りがおらんかを含めてな」


 ジルベスターがグレゴールを呼び付けた理由。

 それは彼にフィフシス村の確認へ行かせるというものだった。

 

「ふっふっふっ。また面白い事をなされたようで……。承知しました。ですが万が一、生き残りがいた場合如何致しましょう?」


「チッ。煮るなり焼くなり好きにしろ。……わかったならさっさと行け。貴様のその何を考えているのかわからん笑い方が鬱陶しい」


「ふっふっふっ。承知しました。皇帝陛下。直ちに確認して参ります」


 そう言うとグレゴールは再度深くジルベスターに頭を下げ、その場を後にした。



 グレゴールが去った後、ジルベスターは側仕えに彼の愚痴をこぼす。


「まったく、気色の悪い男よ……。何を考えているのかさっぱりわからん。俺の顔を見て不敵に笑いやがって……」


「ですが、陛下。グレゴールは非常に優秀です。『三銃士』の中でも彼の強さは別格です。まぁ性格に多少難はありますが……」


「多少ではないわ……! チッ、あんな奴を三銃士にしたのはどこのどいつだ!?」


「陛下でございます」


「…………っ。チッ。とりあえず落とした階層を引き上げておけ。グレゴールがフィフシスへ行けるようにな。あぁ、そうだ……。奴がそこへ入ったら、もう一度上の階層を落として潰しても良いぞ?」


「陛下……。――――と、とにかく落とした階層を引き上げるよう指示を出しておきます」


「ふんっ……」


 側仕えの男がその場を後にし、一人取り残されたジルベスターは、不満気な表情を浮かべ再び椅子にふんぞり返る。

 

 

 ◇



 それから暫くして。

 潰れたフィフシスの様子を確認しに行ったグレゴールはリオン達と出会い、そして生かす選択をする。

 

 その理由や目的とは一体何なのか。

 それはまだ、彼しか知らない。


 そして地上の皇帝ジルベスターは、更なる暴挙を企てようと、不敵な笑みを浮かべているのだった。



 

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