第三章 サンドレア公国 編

第49話 衝撃の事実


 ヨスガの里を脱し、上の階層へと足を踏み入れた俺達は、一先ず人が居る場所を探し、歩き始めた。


 

「やけに砂が多くて歩きづらいな……」


あるじ! 拙者がおんぶしようか!?」


「いや、大丈夫。自分で歩けるから。ていうかその拙者っていうの何?」


「いやー、だって拙者は主の侍になったからなー! 侍になったら自分の事を拙者と呼ぼうと決めていたのだ!」


「そうなんだ……。いいんじゃない? 好きにすれば」


「なんだよ主ー。冷たいなぁ。あ! 語尾もござるに変えようか! うん! そっちの方が侍らしいな! あっ! ――――らしいでござるな!」


「ぷっ……。うるさいぞ! サナエ! あとござるはやめとけ! 何だか馬鹿っぽいし、侍らしいの前に女の子らしくないぞ」


「そ、そうか? じゃあござるはやめておこうかな」


 俺とサナエが話しているのを後ろからついてきているグレンとルドルフも聞いていたようで、話に割って入ってきた。

 


「お二人さんよぉ。仲がいいのは結構な事だが、目的を忘れちゃあいねぇか? 特にテメェだ、サナエ……!」


「私か……!? あ、いや、拙者か!?」


「サナエさん……。それはもういいですよ……」


 グレンはシルキーが居なくなった事で少し気が立っているのか、先を急いでいるように見えた。

 サナエはグレンの言葉に反応したが、その一人称にルドルフはため息をつく。

 

 ――ルドルフもシルキーの事が心配なのだろう。

 そしてそれは勿論、俺も同じだ。



「だが、主が言うようにここは砂が多くて歩きづらいのは確かだ。とてもじゃないが人が住める様な環境ではないぞ?」


「この砂が沢山ある場所は砂漠って言うんだ。こんなとこに人なんか住まねぇよ」


「ん……? あれ、ちょっと待ってよグレン。何でそんな事知ってるんだ? サナエはともかく、俺は砂漠? なんて言葉初めて知ったぞ」


 俺がグレンの言葉に違和感を覚えると、グレンは首を傾げていた。


「あ? ……確かに言われてみればそうだな。何で俺、ンな事知ってんだ? ヨスガの里にこんなとこ無かっただろ……」


「兄さん……? どうかした……?」


 突然変わったグレンの様子にルドルフは心配そうにしていた。


「それにしても、砂もそうだが、この暑さも堪らないな……」


 そう言いサナエは着物の胸元をばたつかせる。


「確かに俺も少し暑い。何でグレンとルドルフは平気なんだ?」


 サナエはこの暑さに参り始めていた。

 そして俺はこの暑さでも平気そうに歩く二人にそう尋ねた。


「うーん……。わかりませんけど、僕は昔からこの暑さに慣れていますからね」


「昔? ルドルフは拙者と歳が近いが、ヨスガの里ではここまで暑いと感じた事はなかったぞ……?」


「あれ……? 何で僕そんな……?」


 するとルドルフまでもグレンと同じ様に様子がおかしくなってしまった。

 二人はあるはずのない記憶がある事に戸惑っている様子だった。


「どうしたんだ? 二人とも。何かさっきから様子がおかしくないか?」


「わからねぇ。でもこの階層に来てから色んな事が頭に浮かぶんだよ」


「僕も兄さんと同じです。見覚えのない場所なはずなのに、何故かどこも見た事がある気がするんです……」


 俺の質問に対し二人はそう答えたが、俺には到底理解出来るものではなかった。

 二人は一体どうしてしまったんだろうか。


 ◇


 

 そうこうしている内に俺達は人が住んでいるであろう集落へ辿り着いた。


 その集落は砂による被害がまだ少なく、井戸もあり少なくとも人が暮らせる環境ではあるようだった。

 そしてその井戸の近くでは、十数人の男達が汗を流して畑を耕していた。


「こんな砂まみれの場所に畑なんてあるのか……!?」


「みてぇだな。だが見た所……順風満帆って訳でもなさそうだ」


 グレンは冷静にそう言いながら、その集落を何とも言えない表情で眺めていた。

 するとそこへ一人の老婆が近付いて来た。


「ちょっとそこの人達? あんたらここの人ではないねぇ? どっから来たんだい?」


 老婆は俺達の格好からこの階層の住人ではないと判断し声を掛けて来たようだった。

 

「俺達はこの下から来たんだ。なぁお婆さん、ここの事を詳しく教えてくれないか?」


「下……? ちょっとよくわからんが、ここはサンドレアという国じゃよ?」


 俺がそう尋ねると老婆は少し不思議そうな表情でこの場所の名前を教えてくれた。


「サンドレア……」


 するとグレンはそうポツリと呟き俯いた。


「兄さん……大丈夫……?」


 ルドルフは心配そうにグレンの肩に手を乗せた。

 するとそんな二人を見た老婆が血相を変えて、おおよそ老婆とは思えない程の速度で二人に近付いた。

 そして二人の顔をよく見て衝撃的な言葉を発した。


「も、もしかしてあなた方は、グレン様とルドルフ様ではありませんか……?」


「あん……?」


「え……?」


 老婆の突然の言葉に二人は反応こそしたものの、それ以上の言葉は出なかった。


「様……? どういう事だ、お婆さん? グレンとルドルフに何で様なんか付けるんだ?」


「ヨスガの里の将軍に対する呼び方のようだな」


 俺が老婆にそう問いかけるとサナエは顎に手を置き、首を傾げながらそう言った。

 すると老婆は俺とサナエの方を向き怒鳴り声を上げる。

 

「様を付けんか、様を! このお二人はサンドレア公国の"王子"じゃぞ!!」


「「…………っ!?」」


 老婆はグレンとルドルフをこの国の王子だと言った。

 そして二人はとても驚いた表情を見せ、言葉を詰まらせた。

 

「えぇ!? グレンとルドルフが王子だと……!?」


「いやはや……流石にこれは拙者も予想していなかった……」


 俺とサナエも信じ難い事実に驚きを隠せなかった。


 果たしてこのサンドレア公国とは何なのか。

 そしてグレンとルドルフの正体とは一体……。

 

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