第38話 終幕


 ルドルフとシルキーは一階にいたオアシスのメンバーと合流し、役人達から里の真実を聞かされた。


 そして城の上の方から大きな音がとめどなく聞こえ始め、それは戦闘が開始された合図でもあった。



「リオっち、派手にやってるみたいだねー!」

 

「ちょっとやり過ぎな気もするけどね……」


 二人が上を見上げていると、周りの役人達も祈るように上を見上げた。


 ◇


 そして暫くすると、とめどなく鳴り響いていた大きな音が止んだ。それは城の最上階で行われていた戦いの終わりを意味していた。

 


「終わったのか……?」

 

「終わったみたいだねー!」

 

「どっちが……どっちが勝ったんだ……!?」


 大きな音がしなくなった事で戦いが終わったと悟ると、城内は静まり返っていった。

 そしてシルキーとルドルフを含めた全員が、その階段から下りてくるであろう勝者を固唾を呑んで待った。

 その間、ルドルフの指示のもと、オアシスのメンバーは役人達の拘束を解いた。


 ◇


 暫くして、一階にいる全員の期待を一身に受け、戦いの勝者である俺達は、ゆっくりと階段を降りて行った。

 そして俺はグレンにおぶられながら、右手を上にあげ叫んだ。


 

「勝ったぞ、みんな……! もう将軍に支配される時代は終わりだ!!」

 

「「「「うぉーー!!!!!!!」」」」


 俺がそう言うと、一同は大きな歓声を上げ、ある者は涙を流し、またある者は大笑いしながら喜んだ。

 俺はそれを見てニコリと笑い、グレンとサナエも得意気に笑った。


 

「さすがリオっちー! 絶対勝てるって信じてたよー!」

 

「リオンさん、お疲れ様です。さすがですね! さぁ、兄さんとサナエさんと一緒に治癒を受けてください」


 そして俺とグレンとサナエの三人はオアシスの治癒士達に傷の手当をしてもらった。

 グレンとサナエは軽傷だった為、すぐに治ったが俺は重症だったこともあり、完全に治るまでに少し時間がかかるようだった。でも何とか一人で歩けるほどには回復してもらった。

 

 そして将軍達を倒した俺達は里の今後について話し合うことになった。


 ◇

 


「さて、里の今後の事だが……」

 

「ちょっと待って兄さん。その前に少し話があるんだ」


 グレンが今後について話を始めるとルドルフがそれを止め、先程聞いた里の真実を俺達に話した。



「なるほど……。そんな事が……あったんだな」

 

「チッ……。とことん腐ってやがったんだな将軍の野郎は……!」

 

「……つまり役人達は私達の同志というわけか」

 

「そういう事ですサナエさん。役人達は将軍の恐怖政治によって従わされていただけで、里の人達を想う気持ちはあったんですよ。だからきっとこれからも里の為に働いてくれると思います」


 俺はルドルフの話を聞いて将軍を倒した事がひとりよがりの正義なんかじゃなかったと思うことが出来た。

 そしてグレンとサナエも、役人達をこれから里を新しく作っていく同志として認めた。


 それから俺達は役人達も混じえ、今後について話し合った。


 

 そして話し合いの結果、あえて新しい長を決めず、将軍一族の悪行と今日起こった事を全て里のみんなに話す事を決めた。


 ◇


 そして俺達が城の正面からサクラ町へ出ると、城の前には沢山の人が集まってきていた。

 それもそのはず、城の天守閣の屋根は崩壊し、戦闘中は絶えず大きな音がしていたのだ。

 それによってサクラ町の人々も、城で何か騒動が起きている事に気付いていた。



「おい! 何があったんだ?」

「将軍様は無事なんだろうね?」

「ん? あの先頭にいる奴ら確か……」

「オアシスとかいう町の何でも屋じゃないか!」

「お前らー! そんなとこで何してるー!?」

「役人達ー! 説明しろー!」

 


 町の人々は俺達に向かって色々な事を言ってきた。

 その群集の中には城の中にいなかった役人達も混ざっていた。

 外の役人達は俺達を見て何かを察した様子で涙を流す者もいた。


 そして俺達は事の顛末を町の人々に包み隠さず全て話した。


 はじめは俺達が嘘をついているだとか、将軍様がそんなことをするわけがないと俺達を批難していたが、戦いの傷がまだ残っていた俺や、死んでしまったマサムネの姿を見て、町の人々の表情が一変した。


「お、おい、あの抱えられている老人って……」

「あ、あれは……!」

「マサムネさんだわ!」

「マサムネさんがいるということは……」

「コイツらが嘘をついているとは思えない」

「将軍の悪行は本当だったんだ……!」


 マサムネの生前の行いの良さもあって、町の人々は俺達の言葉を信じてくれた。

 

 ――マサムネがいなきゃどうなっていたことか……。

 俺達の中には役人もいたが、ほとんどが強面のオアシスのメンバーだった。

 そりゃあどう見てもこっちが悪人に見えるよね。


 

 すると町の人々は将軍一族が滅んだ今、この里を誰がまとめるのかという話でざわつき始めた。

 俺達はあえて里の新しい長を決めないと話し合って決めたが、町の人々はそうではなかった。


「お前達の言う通り、将軍がこの里を支配していたのはみんなわかった! でも、やっぱり俺達をまとめて率いてくれるそんな人が必要だと思う」


 誰かがそう言うと人々はそれに次々と賛同し始め、収拾がつかなくなってしまった。


「グレン、これはちょっとまずくない……?」

 

「まったくだ。つっても、どうすんだよこれ……」

 

「これは困ったね、兄さん」

 

「もういっその事、誰が長になったらいいかみんなに決めてもらったらいいんだよーー!」


「「「それだ……!!!」」」


 俺達が困っているとシルキーが口を開いた。

 俺達は全員でシルキーの方を向き、声を揃えてそう言った。



 そして里中の人々の意見を聞き、話し合いの末、新しい里長はダイモンに決まった。


 ダイモンは最初こそ戸惑っていたが、里の人々の説得や、俺達の後押しにより渋々ではあったが引き受けてくれた。


 ダイモンは役人としてもかなり優秀で奉行所を任されていたという実績があり、役人達をまとめあげ将軍の恐怖政治から里の人々を守るよう人知れず指示を出していたのも実は彼だった。

 

 普段から誰にでも優しく誠実で真っ直ぐな性格だった為、里の人々からの信頼も厚かった。

 

 それに加え、サナエが捕まった時の話を聞いた俺達はダイモンの人柄の良さが垣間見えた気がした。

 だから俺達はダイモンが里長になる事に反対しなかった。


「お前が俺達を捕まえに来た時の態度……忘れてねぇからな!」


  そして最後の決め手となったのはグレンのこの言葉だった。

 ダイモンはそれに何とか言い訳をしていたが、歯が立たず、グレンの圧力に屈した形で里長になる事を承諾した。



 こうして新しい里長にダイモンを据え、ヨスガの里の改革が始まるのだった。

 

 

 

 

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