第39話 新時代


 新しい里長がダイモンに決まり、ヨスガの里の大改革が始まった。



 まずはじめにダイモンは、今回の戦いで命を落としたヨシユキとヨシロウ、そしてダイモンの葬儀を執り行った。


 ヨシユキとヨシロウについては曲がりなりにも将軍一族だった事もあり、里の人々はそっと手を合わせ花を手向けていった。

 しかしそこに涙はなかった。



 反対にマサムネについてはマサムネのことを知らない若い世代を除き、皆が涙を流しながら葬送した。


 そしてとりわけ世話になっただろうサナエとサナエの父マサオは、マサムネの墓標に深く頭を下げ感謝の意を示していた。


 

「師匠、今まで本当にお世話になりました。私は師匠のおかげで立派な武士になる事が出来ました。私はこれからも鍛錬を続け、師匠を超える立派な侍になりたいと思います。これからもどうかこんな私を空から見守っていてください」


「お久しぶりですね、マサムネさん。マサオです。マサムネさんが城を追われてからも度々話をしに行っていたのが昨日の事のように感じます。そしてサナエが生まれてから一度顔を見せに行ったきりでしたものね。そんなサナエの師匠がマサムネさんだと聞いた時は驚きましたよ。まさか親子二代に渡ってお世話になるとは思いませんでしたよ。――――これからサナエはもっと強くなりますよ。私達が想像する遥か上の立派な侍にきっとなります。ですので後はゆっくりと安らかにお眠り下さい。本当にお世話になりました」


「父さん……」

 

 マサオが言葉をしめるとサナエは彼の方へと向き直る。

 するとマサオは微笑み、サナエの頭をポンと叩き、「頑張れよ」と呟いた。

 サナエはそれに涙を堪え「うん……!」と頷いた。


 その後、俺とグレン、ルドルフとシルキーもマサムネの墓標に手を合わせ花を手向けた。

 

 ダイモンは三名の墓標にそれぞれ里長になった報告と、これからより良い里にしていく事を誓いその場を後にした。


 ◇



 それからというもの、ダイモンの活躍は凄かった。

 

 手始めに侍制度を取り払い、ゲンブ、タイガ、スザクから刀を取り上げると、これまでのような横柄な態度をとらない様に一般の役人と同じように雑務をさせた。

 三人は文句を言いつつも雑務をこなしていて、心なしか侍でいる時よりもいい表情をしているように感じた。


 そしてこれまでヨスガの里にあった格差をなくすべく、里の人々の前でダイモンは宣言した。


 

「ヨスガの里の皆に問う!! 人に格差はあると思うか? 否! そんなものはない! 皆、平等だ!! サクラ町に住んでいるからなんだ!? 集落に住んでいるからなんだ!? 役人だからなんだ!? 貧しいからなんだ!? 金持ちだからなんだ!? そんなものは全て関係ない! 私が里長になった以上、人に格差をつけ、差別することはこのダイモンが許さん!」


 ダイモンのこの宣言は里中の人々の胸に刺さり、今まで当然のようにあった格差による軋轢がなくなっていった。


 誰もが労働に対する正当な対価を貰えるようになり、

 誰もが当たり前のようにサクラ町で商売や買い物が出来るようになり、

 誰もが役人の間違いを臆せず指摘出来るようになり、

 誰もが里長に意見を言えるようになった。

 里の全ての人に自由に生きる権利が与えられた。


 そしてヨスガの里は段々と、初代将軍ヨシツグが目指した『みんなが笑って暮らせる里』に近付いていた。


 ◇



 一方、俺達はというと……。

 将軍一族を倒したせいか、何でも屋稼業がかなり忙しくなっていた。

 主な依頼内容は、城の修繕や集落の民家の再建の手伝いだった。



「だァーーー! もう忙しすぎんだろ! やってられるか! 誰だ! 何でも屋なんかやろうつったの!」

 

「兄さんでしょう!? 口じゃなくて手を動かしてよ! って……そこ! シルキー! 寝ないよ!!」

 

「すーーー。すーーー」


 グレンは山積みになった書類を前に癇癪を起こし、ルドルフは黙々と作業しながら、グレンにツッコミ、シルキーに声をかけていた。

 ルドルフは本当に有能である。

 そんな俺もルドルフの手伝いで書類整理におわれていた。

 

「サナエ、シルキーを起こしてあげて……」

 

「私がか!? リオンが起こせばいいだろう? 私は今手が離せない」

 

「手が離せないって刀見つめてるだけだよな!?」


 サナエは書類整理をせず、マサムネに貰った刀をひたすら黙って見つめていた。


「何してんだサナエ! テメェも仕事しろ!」

 

「兄さんが言えたことじゃないでしょ!?」

 

「みんなーうるさいよー……むにゃむにゃ」

 

「シルキー! 起きて!! 俺とルドルフだけじゃ書類整理が終わらないから!」

 

「…………………………。さて、どうしようか」


 俺達が大騒ぎしている中、サナエは刀をまだ見つめている。


 

「よし! 決めたぞ!!!」


 するとサナエは大声でそう叫び刀を持ち上げた。


「サナエっち……うるさい……」

 

「てめぇはさっさと起きろ! 馬鹿シルキー!」

 

「決めたって何を?」

 

「ふっ。この師匠に貰った刀の名前さ!」


 俺がそう聞くとサナエは自慢気にそう答えた。


「テメェ、仕事もしねぇでそんなくだらねぇ事考えてたのか!」

 

「くだらなくないだろう! 師匠に貰った大事な刀だ! 適当な名前をつけたくない!」

 

「いや、サナエさん? そういう事ではなくて、今それをしなければいけないかという話で……」

 

「ルドルフの言う通りだ……。で? 名前何にしたんだ?」


 俺は呆れながらもサナエに刀の名前を聞いた。

 するとサナエは嬉しそうに答えた。


「この刀の名前は……政宗にする……!!」

 

「「「まんまじゃねぇか!!!」」」


 サナエがそう言うと俺達の総ツッコミをくらい「えーー……だめかー?」と残念そうに言っていた。

 まぁサナエが決めたんならそれでいいんじゃないかという事でこの話は終わった。


 ◇

 

 そして全員で手分けし、夜になる頃には全ての書類整理が終わり、膨大な仕事量にようやく一段落がついた。


 

「やっと終わった……」

 

「疲れたぜ……まったくよ……」

 

「兄さんが初めから手伝ってくれればこんなにしんどくなかったよ……」

 

「私はもう書類を見たくないよーー……」

 

「ふっ。この程度の書類など、この政宗の錆にもならんな!」

 

 みんなが疲れ切っている中、サナエだけは元気だった。


 そして暫く休憩をしていると、グレンが俺に話をし始めた。


「なぁリオン。俺達のとこに来た依頼は粗方終わったから、そろそろお前の依頼に取り掛かろうと思ってんだけどいいか?」


 ――俺の依頼。

 それは『フィフシス村に帰ること』だ。

 色々な事があって後回しになっていたけど、俺がこのヨスガの里に来てしまった原因は未だにわからない。

 そして村がどこにあるのかすらわからない。

 

 そもそもこのヨスガの里もフィフシス村も壁に囲まれていて、他の町や村の情報が一切ないのも気になっていた。

 


「そうだな。そろそろ本腰を入れて調査しようか」

 

「勿論僕もリオンさんのお手伝いをしますよ」

 

「私も私もー!!」

 

「リオンの故郷? リオンはヨスガの里の生まれではないのか?」

 

「そうか、バタバタしててサナエにはこの話をしてなかったな」


  俺はそう言うとサナエに俺の故郷とヨスガの里に来た時の話をした。そして俺の故郷探しをみんなに手伝ってもらう約束をしていた事も。

 


「そんな事があったのだな。リオンも苦労したのだな。……よし! 私もリオンの依頼を手伝うぞ!」

 

「本当か!? ありがとうサナエ!」

 

「おし! じゃあ明日から早速情報集めに取り掛かんぞ!」

 

「「「「おーー!!!」」」」


 こうして俺達はフィフシス村についての調査に本格的に動き出す事になった。



 第一章 ヨスガの里編 ~完~

 

 


☆☆☆☆☆★★★★★


ここまで読んで頂きありがとうございます。


『1章良かったよ!』や、『みんなかっこよくて可愛いよ!』や、続きが気になる!と思って下さった方は

フォローと★★★で評価をいただけると筆者のモチベーションがぐぐーんと上がります!


どうか皆さまの評価を教えてください!

気軽に感想もお聞かせください!



この話で第一章ヨスガの里編が終了となります。

次の話からは第二章へ突入し、いよいよリオンの故郷探しが始まります。

リオンは故郷へ帰る事が出来るのでしょうか。


明日からも変わらず毎日20時10分に一話ずつ更新していきますので

是非また読みに来て頂けると嬉しいです


青 王(あおきんぐ)

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