第69話 ジルベスターの秘密


 シェルミの話を最後まで聞いた俺はその事実に驚愕していた。


「ちょっと待って……。ジルベスターって千年も前から生きてるのか?」


「いえ、正確に言えば千年前の彼はもう生きてはいません。ですが、現在もジルベスターという男は存在しています」


「え、意味がわからないんだけど……。どういう事だ?」


 俺はシェルミの言葉を聞いても尚、その意味が理解できなかった。

 すると彼女はゆっくりと口を開き、神妙な面持ちで説明を始めた。


「ジルベスターは確かに千年前に生きて、国王エルダーを処刑に追い込み、この帝国を作り、初代皇帝となった人物です。ですが彼の意思は今も尚、生き続けているのです。普通の人間にこんな事が出来ると思いますか?」


「無理……だろうな。恐らくジルベスターが授かったスキルに理由があるんだろう?」


「その通りです。彼のスキルは【共有】。スキル名だけを聞くと大した事がない様に聞こえますが、とんでもなく恐ろしいスキルです……」


 シェルミは俺の言葉に一度相槌を入れ、その後酷く怯えた様子でジルベスターのスキルを明かした。


「共有……。確かに言葉だけ聞くとそんな恐ろしい物のようには思えないな」


「そうですよね……。ですが事実、恐ろしいのです。その理由は――彼のスキル【共有】が自分の思考や記憶、感覚や意識、そしてスキルまでをも他者へと共有する事が出来るからです」


「なん……だよそれ……?」


 俺はシェルミによるジルベスターのスキルの概要を聞き驚愕し、震えた。


「彼はそのスキルを使い、何代にも渡って自らの子孫に先程上げた五つ全てを共有して今まで意識だけを生き長らえて来たのです」


「え、ちょっと待って……。それってつまり自分の子供とか孫の中身を乗っ取って来たって事か……?」


 そしてジルベスターが行なってきたその恐ろしい行為に、俺は酷く動揺していた。


「簡単に言えばそうなります。自らの子供の中に彼の意識、記憶、思考、感覚、そしてスキル。全てを共有するとどうなると思いますか?」


「考えたくもないけど、外見は別人で中身はジルベスターそのものになるって事か……?」


 ジルベスターの異常とも言える『生への執念』に俺は震えが止まらなくなっていた。

 これが奴に対する恐怖によるものなのか、それとも怒りや憎しみによるものなのかは定かではなかった。


「そういう事です。そしてこれにより、更にジルベスターを恐ろしい存在へと変貌させる事が出来るようになります」


「な、何だ……? 奴はこれ以上に何をしたって言うんだ?」

 

 そしてシェルミはこの一連の行動により更にジルベスターが恐ろしい存在になると明言した。

 俺はこれ以上に何をするのか想像もつかなかった。

 その後シェルミは怒りにも似た真剣な表情でゆっくりと口を開いた。

 

「彼のスキルの能力の中にはスキルの共有もあります。それにより自らの死をもってしても、何代にも渡りスキルや意識を含めた全てを、共有して来られたのです。それはつまり――子孫達のスキルをも共有する事が出来るようになるという事を意味します……」


 シェルミが話した内容を聞き、理解した俺はあまりの衝撃に言葉を失っていた。


 ――【共有】ってスキルだけでも厄介過ぎるのに、加えて今まで共有して来た子孫達の全てのスキルをも共有出来るって厄介とかそういうレベルの話じゃないだろ……。

 それにジルベスターが自分の子孫以外にも【共有】をしていたら、奴は幾つのスキルを持っている事になるんだ?

 

 サナエから聞いたヨシロウが持つ二つのスキルとそれを手に入れる事が出来た理由も驚愕だったが、これはもう次元が違う。

 俺は本当にこんな奴に復讐なんて出来るのか……?


 俺はその衝撃的な内容に打ちひしがれていた。

 するとシェルミは俺を元気づける為かこんな事を言い始めた。


「ですが、そんな彼のスキルにも制限はあります」


「制限……?」


「はい。彼の【共有】は『感覚』を除く、四つのものは同じ血を引く者、加えて男性にしか使えない様です」


 俺はその制限を聞きほんの少しだけ安堵した。

 その制限がある以上、少なくとも子孫達以外のスキルは共有出来ていないという事になる。

 つまりこれにより俺が想定した最低最悪のスキルを大量に持った相手では無くなったのだった。

 

「そうなのか……。でもシェルミはどうしてそれがわかったんだ?」


「私には彼を千年に渡り観察した記憶があるからです」


「は……?」

 

 俺は自分の耳を疑った。

 ジルベスターだけでなくシェルミも約千年間の記憶を持っているという事に――


「私のスキル【神の巫女】はジルベスターと同じ様に代々、王家の女性に受け継がれて来ました」


「じゃ、じゃあシェルミも王族って事なのか……?」


「はい……。なので彼がフィフシスを潰した事を知った時は怒りと悲しみに打ちひしがれました。そしてそんな彼を止められなかった事に酷く後悔をしました……」


 シェルミはそう語り深刻な表情を浮かべた。

 俺は先の彼女の謝罪の真意に気付き、複雑な感情を抱いた。

 

「そうだったのか……。それで、その神の巫女ってスキルはどうやって受け継がれていくんだ……?」


「私のスキルの能力の一つに【信託】というものがあります。これは自らが伝えたい事を他者に伝える能力です。そしてこれは他者に自らのスキル【神の巫女】を与える事と同義です」


「……つまりその【信託】って能力によって代々王家の女性に、スキルとジルベスターについての記憶を受け継いで来たという事か……?」


「はい。ジルベスターの悪意を消し去り、彼を止める事。それが初めて神の巫女となったリファの願いであり想いなのです」


 俺はその話を聞き再度驚愕した。

 ジルベスターの生への執念もとんでもないものだと思ったが、リファのジルベスターへの憎しみや、奴を止めたいという想いも計り知れないものだと思った。


「シェルミはリファの子孫で、その想いとスキルを引き継いで来たわけだけど、それはリファの想いであってシェルミのものとは違うだろ? シェルミはどうしたいんだ? 何が目的なんだ?」


「仰る通りです。私の中にある彼への想いはリファのものです。ですが私も彼の悪意を止めたいと心の底から思っています。リオンの故郷を潰した事も、これからやろうとしている恐ろしい企みも全て。私は許す事が出来ません」


 そう語るシェルミの表情は怒りに満ちていた。

 そしてそれは俺と同じ感情を持った者の表情だと俺は感じた。


「そうか……。それならよかった。それで? 奴がしようとしている恐ろしい企みって一体何なんだ?」


 俺がそう聞き返すと、シェルミはそのままの表情で口を開いた。


「彼は……。ジルベスターは……。厄災を復活させようとしているのです……!」


「なん……だって……?」


 それは聞くだけでも恐ろしい言葉だった。




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