第68話 昔話


「リオン。今から一つ、昔話をします」


「昔話?」


「えぇ。とある国の優しい王の話です」

 

 そしてシェルミは早速、その昔話を始めた。

 俺は普通では知り得ない事を聞くことになるのではと、生唾を飲んだ。



 ※ここから先はシェルミの語りで構成しています。



 ◇



 現在よりはるか昔――――


 世界には【スキル】などというものは存在せず、剣と魔法が力の全てでした。

 しかしその魔法すらも、存在しているものの人類の中に魔力を持つ者は一人もおらず、身体一つで魔法を行使する事は出来ませんでした。


 

 そして人類は何とか魔法を使おうと必死に研究を重ね、遂に魔道具なる物を完成させました。

 その魔道具を使えば、魔力を持たない人類にも魔法を行使する事が出来るようになったのです。

 

 それから人類は次々に新しい魔道具を生み出していき、それにより魔法を行使し、日々の生活に役立てていました。


 これにより世界の文明は格段に発展して行く事になるのですが――


 この発展の裏には大きな欠陥があったのです。

 それは『魔道具を制作する為には魔石が必要』になる事でした。

 

 魔石とは空気中の魔素が集まり結晶化した物で、いわば魔力の塊。

 それを魔道具に埋め込む事で魔法が発動するという仕組みでした。


 

 すると世界はたちまち魔石の利権争いを始めました。


 最初は各国の王たちによる口論でしたが、それは次第に規模を拡大して行き、遂には戦争にまで発展していきました。

 

 そして世界はその後、人類同士による争いが後を絶たない戦乱の時代が長く続きます。


 各国は魔石を独占しようと他国の王の暗殺や魔法による爆撃、遂には他国の者とわかった時点で相手を殺してしまうなど、皆我を忘れ躍起になっていました。


 

 その中で、唯一戦争には参加せず、領土と民を守る国がありました。


 その国の王であるエルダーは魔石を独占しようとはせず、世界中の国々に平等に分け与えるべきだと信条を掲げていました。

 そしてエルダーは各国の王に戦争をやめるよう必死に訴えかけていたのです。

 

 しかし愚かな王達は聞く耳を持たず戦争をやめませんでした。

 それでも諦めず、どれだけ煙たがられようとも、エルダーは彼らに説得を続けました。

 そして終いには誰も彼の話を聞く者はいなくなってしまいました。


 ◇

 

 そうして数年が経ったある日。

 物語は大きなうねりを伴い動きます。


 

 空気中の魔素が魔石ではなく、魔物を生み出し始めたのです。

 その中でも特に強大な力を持つ陸海空の三種の魔物は厄災と呼ばれ人類は為す術なく一瞬で蹂躙されていきました。

 

 するとエルダーがどれだけ呼び掛けようとも、幾度となく争い合って来た国々は、魔物と厄災の出現により幸か不幸かいとも容易く戦争を終わらせました。


 ◇

 

 

 世界が数々の魔物と厄災に蹂躙され、ある国は土地と民諸共滅び、またある国は怯え隠れ、またある国は立ち向かい無惨に散っていく状況を、エルダーは嘆き悲しんでいました。


 

 そこへエルダーの心に呼応するかのように世界の神が現れます。

 

 神は魔物や厄災に対抗する力として、エルダーとその息子と娘にそれぞれスキルを与えました。


 

 エルダーは与えられたスキルを使い、見事に厄災を封印する事に成功します。

 すると次第に暴れる魔物達の数も減っていき、世界に平和が訪れ、エルダーは世界を救った英雄王となりました。


 

 そしてエルダーはまた厄災が復活しても民や国をその驚異から守る為、スキルを使い自国の地下に縦に連なる様に、一番下から五階層フィフシス、四階層ヨスガ、三階層サンドレア、二階層トゥーン、一階層ワンスという五つの街を築きました。


 その後エルダーは王族と力ある貴族を地上に残し、弱き民達をそこへ住まわせ、月に一度、各階層へ食料や衣類などの生活用品を地上から贈るようになりました。

 

 そして厄災の被害にあった他国の民達を地上の空いた土地に招き入れ養い、その民達の働きにより王国は更なる発展を遂げていきました。



 ◇

 


 そしてまた数年が経ったある時――

 

 地上に住む元他国の民達は、自分達を救ってくれたエルダーに恩を返そうと毎日国の為に必死で働いていました。

 

 しかしエルダーによる地下への物資の供給は未だ続いていて次第に、この国が一向に豊かにならないのはエルダーが地下へ物資を送り続けているからだと声をあげる者が現れ始めます。

 

 その声は更に勢いを増し、大きくなり遂には国中へと広がっていきました。


 

 そしてエルダーの息子であり、エルダーと同じ様にスキルを与えられた王子は、反王派の貴族達と国民を先導し『国が豊かにならないのはエルダーのせい、厄災から逃げた苦しみを知らない地下の民にくれてやる物資など無い』とエルダーを愚王と責め立て失脚させてしまいます。


 

 その後、その王子が次の王位に即位してすぐ、地下への物資の供給を止め、更に地下に住む者は地上の民の生活を潤わせる為に働き献上品を毎月納めろと命令しました。

 それだけでは不安が残ると、見張り役として地上の貴族を各階層へ数名ずつ常駐させました。

 そしてその貴族らの事は階層主と呼ばれるようになり、各階層を自分好みに変えていきました。


 ◇


 その後エルダーは自らの無力さを悔やみながら、息子と娘、そして地上の民の前で無惨にも処刑されてしまいました。


 

 それから新たな王となった王子と私腹を肥やしたい貴族達による国の統治が始まります。

 

 そんな中、厄災なきこの時代において、力の持ち腐れとなっていた【神の力スキル】を、国力を上げる為に使えないかと考えた王子はエルダーの娘にして、自らの妹が授かった特殊なスキルに目を付けたのです。


 妹の名前はリファと言い、リファのスキルは私と同じ【神の巫女】というもので、神が王族に行ったような任意の者にではないが、スキルを他者へランダムに与える事が出来るというものでした。

 

 そしてそれを知った王子は地上の民全てに、スキルを与えるようリファに命令しました。

 

 神から直接スキルを与えられた王子の力は強大でリファは逆らう事ができず、巫女のスキルの一つである【降り注ぐ恵み】を発動させました。

 

 リファのスキル【降り注ぐ恵み】は、その名の通り空から雨のように降り注ぎました。

 そうすることで、地上にいる国民全てに余すことなくスキルが与えられたのです。

 

 その後王子は強いスキルを与えられた者を自分の傍に置き、貴族や騎士、四天王といった階級を与えました。

 

 こうしてその国は強大な力を持った国となりました。

 そして王子は以前までの国名を捨て、自らの家名から『アルステンド帝国』と名付けました。


 そしてその初代アルステンド帝国の皇帝となった王子の名は『ジルベスター』。

 それから千年も経った現在も、未だ彼のスキルにより彼の意識は生き続けているのです――――

 

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