第67話 新たな危機の予感


「――――オン! リオン! リオンってば!!」


「……んあ? あぁ、ごめんごめん。少しボーッとしてた。フィフシスの事はもういいよ。忘れた訳じゃないけど、俺はもう乗り越えた。それにやる事も決めたから……」


 俺が復讐心に飲み込まれそうになっているとシェルミが必死な顔で俺を呼び掛けていた。

 それに気が付いたおかげで俺は何とか我に返る事が出来た。

 

「そうなのですか。大丈夫……ですか?」


「うん。ところでシェルミはフィフシスに起きた事を知ってるみたいだし、それならヨスガの里に起きた事も勿論知ってるんだろ?」


「そう……ですね。正直、あの件に関して地上では放置していた……としか言いようがありませんね」


「そうなのか。それは将軍がしっかり献上品を納めていたからか?」


 俺がそう聞くとシェルミは何故俺がその事を知っているのかと驚いた表情を見せたが、すぐに申し訳なさそうな表情に変わり黙ってこくりと頷いた。


「やっぱりそうか。ここからは俺の推測だけど、フィフシスが潰されたのも、その献上品と何か関係している……?」


 俺が更にそう問うと、シェルミはまたも黙ってこくりと頷いた。


「やっぱりそうだったのか……。フィフシス村は貧しかったし、地上に献上する余裕なんてなかったもんな……」


「どうしてリオンはそんな事を知っているのですか……?」


 シェルミはバツが悪そうにそう聞いてきた。


「サンドレアに来た時にとある人から聞いたんだ。俺はその時、この可能性に気が付いた。もしかしたらってね」


「そうだったんですね。献上品というシステムは何年も前から続いていて、ヨスガの里はここ数年でようやく。フィフシス村は約百年もの間、未納が続いていると聞いています」


 シェルミの話を聞いても『やっぱりそうか』という感情しか湧かず、それよりも他に気になる点に気付いてしまった。


「そうだったのか。……ところで一つ聞きたいんだけど、フィフシスは献上品が何年も納められなかったから潰されたんだよな?」


「はい……。皇帝がそう命じたそうです……」


 シェルミはまた申し訳なさそうに俯きながら口を開いた。

 しかし俺は更に話を続けた。


「ヨスガの里はここ数年でようやくって事は将軍家が里の長になってからって事だよな……?」


「恐らくは……」


「ってことはその将軍を俺達は倒してしまって、新しい里長をダイモンに就かせたわけだけど……。俺達はその時献上品なんて知らなかったから何も伝えてないんだけど、これって結構まずい……よな?」


「まずいかもしれません……」


 献上品が納められなくてフィフシスが潰されたってことは、それは勿論ヨスガの里も例外ではなかった。

 俺はそんな大事な事に今気がついた――――


「次の献上品の納期はいつだ!?」


「この間がその前の納期だったので――あと約一ヶ月後です」


「割とすぐだな……。これは急がないとヨスガの里が危ない……!」


「私も今度は何とかして止めようと頑張ってみます!」


 俺は慌てて次の納期を聞き出した。

 するとシェルミは今度こそと目付きを変え、そう言った。

 

「うん! 頼んだよ! じゃあ俺、そろそろ起きないと。こっちも結構色々とあって急がないとなんだよ」


 そして俺はヨスガの里を救う為に、そしてシルキーを助け出す為に先を急ごうとした。

 しかしシェルミにはあまり慌てた様子はなく、何ならかなり落ち着いているように見えた。

 するとシェルミはその理由を話し始めた。


「そうなのですね。でも大丈夫ですよ。ここで流れている時間は現実よりもかなりゆっくりなので、まだ数分も経っていないと思います」


「え!? そうなのか!? なんだぁー。よかったー」


 そして俺はシェルミのその言葉を聞き、少しホッと胸を撫で下ろした。


「なのでもう少し、私とお話していきませんか?」


「んーまぁ、そんなに話してる余裕はないけど……いいよ?」


「ありがとうございます。では早速ですが次に私が話したかった事はスキルについてです」


「スキル? 前にスキルを貰った時にある程度聞いたし、その後も色々と教えて貰って割とわかってると思うぞ?」


 俺がそう言うとシェルミは首を横に振り更に話を続けた。


「いえ。そういう事ではなくてですね。……今回リオンは四階層から一つ上の三階層へ上がったことでスキルレベルが上がったという事をお伝えしたかったのです」


「え……!? 本当に!? いや、ていうかちょっと待て。色々と情報が多すぎて。その前に……四階層から三階層って何だ?」


「なるほど……。では、そこについてもお話しないといけないですね……。スキルとこのアンダーワールドについて。ひいてはアルステンド帝国の歴史について――」


 シェルミが真剣な表情でそう言うと、俺は生唾を飲み込んだ。



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