第66話 二度目の邂逅


 俺とサナエを気絶させ、その場を後にしたグレンとハンスは貴族街へと向かっていた。



「よかったんか? あの二人仲間やったんやろ? それにサナエちゃんにまであんな事せんくてもえぇやん。あぁ、サナエちゃん可哀想に……!」


「うるせぇ奴だな。いいんだよ、アレで。ああでもしねぇとアイツら俺を殺してでも止める気だったからな。ンなことより、テメェ。アイツらともう既に会ってたんだな?」


 ハンスはグレンの一連の行動に何を感じたのか、そう問い掛けた。

 するとグレンは真剣な表情でそれに返答した。

 そしてハンスが俺達と既に出会っていた事を追求し始めた。


「おぉー、グレンと会うちょっと前になぁ。あれ? 言うといた方がよかったか? 別に隠すつもりはなかったんやけど」


「いや、いい。それより急がねぇと。アイツらタフだからよ。あのくらいで諦めたりする玉じゃねぇ。起きたら必ず追ってくるぞ」


「え、そうなん!? あんな事されてまだ追ってくるって言うんかいな!?」


「それが仲間ってもんだ……」


 ハンスは驚きながらグレンにそう聞き返した。

 するとグレンは笑っているのか泣きそうなのか、よくわからない複雑な表情で呟いた。


「あっそう……。てかスキル、あのままでえぇんか? グレンのスキルは他人に影響を及ぼすやつやろ?」


「大丈夫だ。俺のスキルは触れてから数分しか使えねぇ。その内効果は切れる」


 ハンスはグレンのスキルの影響を受け続けている俺とサナエの様子を気にしていた。

 しかしグレンは表情を変えずに淡々とそれに答えた。

 

「そっか。ほなまぁ大丈夫か……!」


「あぁ。ンな事いってねぇでさっさと行くぞ……!」


「あ、おい! ちょい待ってーなー!」


 グレンはハンスが自分の話に納得している事を確認すると、少し意地悪に早足で先へと進んで行った。

 そしてハンスもそれを追うように早足でグレンについて行った。



 ◇◇




 一方その頃、気絶していた俺は夢を見ていた――――



「もし? もし? リオンー? 聞こえますかー? おーい!」


 そして俺はあの時と同じ様に彼女の声で目を覚ました。


「……ん? 何だここ? あぁ……あの時の……」


「やっと起きてくれましたね……! もう、中々起きないから心配しましたよ」


「起きるって言っても、ここも夢の中なんだろ? じゃあ起きてないのと一緒じゃん」


「リオン……あなたは相変わらずの減らず口ですね。私は【神の巫女】のシェルミですよ? 忘れたんですか?」


 そう言いながら頬を膨らませ怒っている彼女の名はシェルミ。

 俺が故郷を失ったあの日見た夢に出てきたモヤがかかっていた女性だ。

 だけど今回は前回とは違いモヤが無く、顔がくっきりと見えた。


「ははは。ごめんごめん。ちゃんと覚えてるよ。ていうかシェルミってそんな顔してたんだな?」


「え!? あ、そうですね。前回は私との距離が遠くてモヤがかかっていたのでしたね。それで? どうです、私の顔を初めて見た感想は?」


「可愛いんじゃない? 普通に」


「何ですか、普通にって!! 可愛いだけでいいでしょう!?」


 せっかく褒めたというのにシェルミはご立腹の様だった。

 俺は本当に可愛いと思っている。

 サナエの方が可愛いとは思うけど。顔だけは……。



「そんな事より、いきなり俺の夢に出てきたって事は何か話があるんだろ?」


「そ、そんな事よりって……! あなたは本当に……。まぁいいですけど。……こほん。リオンの言う通り、私はあなたに話があってここへ来ました」


 そして俺は怒っているシェルミに用件を聞いた。

 あれから一度も俺の夢に出てくる事なんてなかったのに、急に出てきたという事はなにか事情があるのだろうと察したのだが、やはり当たっていたようだ。


「それで? 話って何?」


「はい。まずはフィフシス村の件……本当にごめんなさい……!!」


「え……? 何でシェルミが謝るんだ……?」


「私は神の巫女などと名乗っておきながら、奴の悪行を止める事が出来ませんでした……。なので謝らせて下さい……! 本当にごめんなさい!!」


 そう言いシェルミは何度も俺に頭を下げた。


「シェルミは何にも悪くないだろ? 悪いのは全部、俺の故郷を潰した地上の王族なんだろう?」


「そこまで知っていたのですね……。えぇ。そうです。悪いのは全部、現アルステンド帝国皇帝、ジルベスターです……!」


 シェルミは俺の言葉を聞き暗い表情を見せた後、怒りを滲ませた目付きでその名を口にした。


 

 ――ジルベスター……。

 俺の故郷を潰した犯人で、復讐すべき相手。

 覚えたぞ、その名前……。

 一生忘れない。必ず俺がこの手で復讐してやる……!


 俺は再度そう心に誓った。

 何度も何度も頭の中でその名前を念仏のように唱えた。

 殺意とも呼べるこの復讐の火を決して消さないに。


 そして俺は我を忘れ、段々と暗くて深い復讐心という闇の中へ飲み込まれていった――



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