第112話 三銃士 ドルチェ


 戦闘の最中。突如として出現したワープゲートから一人の男が姿を現した。

 


「……ったく何をやっているのかしら。あらぁ? 階層主ちゃんがピンチねぇ? アタシ、もしかしてナイスタイミングだった?」


 しかし、そこに現れた男はグレゴールではなく、見覚えのない髪の長いスラリとした男だった。



「誰だ、お前……?」


「あらぁ? 見ない顔ねぇ? アタシはドルチェ。アルステンド帝国の三銃士よぉーん」


 俺は思わずその男に問うた。するとこちらを振り向いたドルチェという男は丁寧に答えた。


 ――アルステンド帝国の三銃士ドルチェ……。

 アルステンドといえば地上にある国の事だよな……?

 それに三銃士……。そういう括りがあるということは恐らく強者に違いない。



「そうか……。で? 何故、お前はグレゴールのワープゲートから出てきた? ここへ何しに来たんだ?」


「もぉうん……。質問が多い子ねぇ。アタシはグレゴールに探し物を探すように頼まれてここへ来たの。多分ここにあるはず・・・・だからって」


「探し物……?」


 変わらず気色の悪い話し方を続けるドルチェだが、俺の問いには素直に答えてくれる。そして辺りをキョロキョロと見渡すと、ニヤリと笑みを浮かべた。



「あったわぁ〜。アタシのさ・が・し・も・の・♡」


「…………っ!?」


 ドルチェの笑みは不気味だった。そして何より不可解だったのは、彼の見つめる先にはミシェルしかいなかったことだった。


 ――探し物を見付けたと言ってミシェルを見ている……?

 どういう事だ……?

 探しているのは物じゃないのか?


 俺は怪訝な表情を浮かべる。そして見つめられているミシェルはひどく怯えた表情を浮かべていた。



「ミシェルちゃぁーん? こっちにおいで〜?」


「…………」


 ドルチェは不敵な笑みを浮かべたまま、ミシェルを呼んだ。しかし彼女は黙って俯いたままその場を動こうとはしなかった。


「もうっ……。せっかく優しくしてあげてるのに全然言うことを聞かないじゃないの。はぁ……。まぁいいわぁ。とにかく持ち帰ればいいだけだしぃ?」


 持ち帰る・・・・――――その言葉の響きに妙な違和感を覚えた俺は瞬時に両手を口に変え警戒。そして一瞬だけミシェルに目線を移し無事を確認してから目線を戻す――――が、そこには既にドルチェの姿は無かった。


「なっ…………!?」


 俺は慌てて視線をミシェルに移した。しかし既にミシェルはドルチェに顔を鷲掴みにされ宙に浮いていた。



「んんっー! んんんーー!!」


 口をもドルチェの手に覆われているミシェルは、足をばたつかせながら何かを叫んでいた。


「もうー、ちょっと大人しくしてちょうだいよぉ〜」


「何してんだよ!? ミシェルを離せ……!!」


 腕をめいっぱい伸ばし、自身の体から鬱陶しそうにミシェルを遠ざけるドルチェ。俺はそんな彼に対し右手の口を突き出して突貫した。



「鬱陶しいわねぇ……。アンタは関係ないでしょ〜?」


 ドルチェはそう言うと何も無い・・・・空間を蹴り上げた。


「何して――――ぐぁっ……!?」


 俺が口を開いた瞬間――――俺の身体に切り傷がついた。その傷口は、まるで鋭い刃物で切り付けられたかのような綺麗な直線だった。


 ――斬られた……?

 いつ、どうやって……?

 アイツは空中を蹴っただけ……それなのに何故だ?


 俺は状況を理解出来ずにいた。加えてドルチェは俺がミシェルに視線を移したほんの一瞬で少し離れたミシェルの元へ辿り着き、顔を掴んでいた事も不可解だった。



「何がなんだかわからないって顔してるわねぇ。可愛い……痛ァッ……!?」


 ドルチェはまたしても気色の悪い笑みを浮かべた。その隙にミシェルはドルチェの指に思い切り噛み付いた。

 あまりの痛さに思わずドルチェはミシェルから手を離した。



「リオン……逃げて……! ドルチェのスキルは【切断】! どんなものでも切る事が出来る能力よ……!!」


「は、はぁ……? どういう事だ!? 何でそんなこと、ミシェルが知ってんだよ……?」


 そして自由の身になったミシェルは俺に向かって叫んだ。俺はわけがわからずその場で立ち尽くしていた。



「ミーシェールー? アンタ、よくもアタシの指を噛んだわねぇ……?」


 俺が立ち尽くしているうちに、ドルチェはミシェルを睨み付け腕を振り上げていた。



「やめろォォォ……!!!」


「リオン……地上で待ってる……。必ず来て……」


「はい、お疲れ様ぁ〜」


 俺の叫び声の後、ミシェルは意味深な言葉を呟いた。そしてその背後からドルチェが腕を何度か振り、宙に線を描いた――――かと思えば、ミシェルは格子状に細かく切断された。


「………………っ!!」


 俺は咄嗟のことで声が出なかった。そしてミシェルが最後に残した言葉――――『地上で待ってる』。これに物凄く聞き覚えがあった。

 現状、色々な事が起きすぎて今すぐには思い出せないが、いずれ思い出す時が来るだろう。


 

 それよりも俺はとある違和感に気が付いた。


「ミシェル……? 何で……?」


 俺はバラバラになってしまったミシェルを見た。しかしそこには一滴の血も流れていなかった。


「そりゃそうよぉ。だってコレ……ただの人形・・だもの〜」


「は……?」


 俺はまたしても理解が追いつかない。するとずっと口を閉ざしていたラナが口を開く。


「落ち着けリオン。ミシェルは死んでおらん」


「…………? そうなのか?」


「ミシェルは前に妾に言うた。『これは私のスキルで生み出した分身体。本体は別のところにいるの』とな」


「…………っ!?」


 今の話を聞き、俺は思い出した。


 ――ミシェル……分身体……スキル……地上……。

 そうか……。そういう事だったのか……!



「ミシェルはシェルミだったんだな……。流石は"神の巫女"だな」


 俺はそう言葉を漏らす。ラナはぽかんとしていたが、それを聞いたドルチェはハッと息を呑んだ。



「これは……。あの子も生かしてはおけないわねぇ……」


 ドルチェは舌なめずりをして俺を見つめていた。




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ここまで読んでくださりありがとうございます!

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レネゲード(反逆者)〜国家に仇なす反逆者として世界に蔓延る悪政をチートスキル【悪食】で全て喰らい尽くして成り上がる!〜(最終的には諸悪の根源に復讐します) 青 王 (あおきんぐ)👑 @aoking1210

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