第51話 グレンの過去
俺の提案を快く聞き入れ、グレンは自分の昔の話を始めた。
◇
――――十年前、俺が十歳の時だ。
俺は気が付いた時には既にヨスガの里のサクラ町の影町にいた。
初めは苦労したぜ。金も家も無かったんだからよ。
それでも何とか生きる為に俺は【グラビティ】の能力を駆使して盗みや喧嘩を繰り返していたんだ。
そんな時、俺の前に二人の子供が現れた。
それがシルキーとルドルフだったんだ。
その時のシルキーは十一歳で、金髪で大きい目が特徴的だった。
ルドルフは今と変わらず、色黒で俺とは違って頭の良さそうな顔立ちをしていたな。
話を聞くと二人も親がおらず、金も家もないらしく、俺と同じ様に幼少期の記憶が無いと言っていた。
そして俺達は境遇が似ている事から三人でよく行動を共にするようになった。
その時の影町は、俺達のような孤児や働けなくなった者、軽度な罪で住処を追われた者が何十人と集まって来ていた。
表の住人は誰一人として寄り付なかった。
◇
それから暫くして、三人で行動して一年が過ぎた頃。
盗みがバレてシルキーが役人に捕まったんだ。
俺とルドルフは何とかシルキーを逃がし事なきを得たがこのままじゃダメだと思い、三人でこれからの事を話し合うことにしたんだ。
「今までは生きていく為に盗みをやってきたわけだが、このままじゃダメだ! んでこれからどうしていったらいいと思うかいい案があれば言ってくれ!」
「やっぱり真面目に働くのが一番だと思うよ。今回みたいな事はもうコリゴリだよ」
ルドルフは当時から真面目な奴だった。
盗みをすること自体、嫌なはずなのに、加えて誰かが捕まるかもしれないとなるとそう答えるのも無理ないだろう。
なのに何故かこの頃から俺の事を兄と呼んでとても慕ってくれていた。
「えー!盗みやめちゃうのー? じゃあこれからどうやって生きていくのー?」
「てめぇが捕まるようなドジすっからだろうが! ていうかいつも何かやらかすお前がいたら計画的なでかい盗みとかできねぇだろうが!」
シルキーは当時からドジでバカな奴だったっけな。
思った事をなんでもすぐ口に出しちまう。
要は何も考えてねぇ大バカだ。
その時も、盗んだ食料を町で堂々と食い始めたもんだから店主にバレて役人に捕まったんだ。
「うぇーん。ルドくーん、グレンが怖いよぉー」
「うんうん、そうだね。兄さんあまりシルキーを怒らないであげて」
「てめぇシルキー! 嘘泣きやめろ! あとルドルフ! あんまシルキーを甘やかすんじゃねぇよ!」
「うぇーん! …っていうか、グレンより私の方がお姉さんなのに、どうしてグレンはいつもそんなに偉そうに怒ってくるのー? 女の子にはもっと優しくしないとダメだよー!」
「てめぇ俺に少しでもお姉さんらしいことしたことあんのかよ! バカなこと言ってねぇで少しはルドルフを見習って考えろバカ!」
「うぇーーーん! 小さい時はよく一緒にお風呂に入ったり、お母さんに怒られて泣いてるグレンを慰めてあげたりしたのにーー!」
「んなことされてねぇよ! ていうか俺もてめぇも小さい頃の記憶ねぇだろが!!!」
「うぇーん!!」
「もう! 兄さん!」
この三人で行動するようになってから、こんな不毛なやり取りは何度もしてきた。
こんな話し合いがなんの意味もない事くらい自分達が一番よくわかっていた。
そして数時間の話し合いの末、俺は一つの結論を出したんだ。
「俺達はまだガキだ。働こうにも誰も雇ってくれねぇ。たとえ雇ってくれたとしても安い賃金で奴隷のように働かされるのはまっぴらごめんだ!」
「じゃあ兄さん、これからどうしていくの?」
「ふふん、それはなぁ。自分達で何でも屋をする!」
「何でも屋ー? 何でも屋って何をするのー?」
「シルキー、お前は本当にバカだな! 何でも屋やって言ってんだろ! 頼まれたら何でもやんだよ!」
「確かに困ってる人の助けにもなるし、それに対価としてお金も貰える。盗みをするより断然いいね!」
「えーー私そんなことできるかなーー」
「「できるかじゃなくてやるの!」」
こうして俺とルドルフは駄々をこねるシルキーを何とか黙らせて、何でも屋を開業したんだ。
始めの内は何でも屋といっても店を構えているわけじゃなかった。
じゃあどうやって客を集めてたかっつーと、町に出て困ってそうな奴に片っ端から声をかける。
助けてやるから金をくれってな。
町の役人に頼むほどじゃねぇが、少し困ってるくらいのことは意外とあるようで、俺達の何でも屋稼業は割と順調に進んだ。
◇
それから俺達は、何でも屋を始めて一年程で店舗兼住居を手に入れた。
少し古いが昔役人が住んでいたという家を買い取ったから三人で住むにはあまりに広く、玄関はサクラ町に面していて裏口は影町に面しているという俺達にとってはこれ以上ない物件だった。
「うわぁー! 広いねぇー! こんな所に住めるなんて私達頑張ってきてよかったねぇー!」
「そうだねシルキー! これからも頑張っていこうね」
「お前らはしゃぎすぎだバカ!」
広い部屋の中をバタバタと走り回るシルキーとそれを嬉しそうに見るルドルフ。
そう言う俺も内心はめちゃくちゃ嬉しかったっけ。
◇
それからというと俺達は影町の住人をまとめあげ、何でも屋の従業員とし、店を構えることによって客が客を呼び、みるみるうちに事業を拡大していったんだ。
そして資金を十分に確保出来てきた俺達は、かつて影町と言われた屋敷の裏の土地を全て買取り、従業員達の住居を作った。
それからシルキーが全員の身なりを整え、ルドルフが礼儀作法等を教えて、今では一端の商人として皆、俺の元で働いている。
こうして今ではヨスガの里でも一目置かれる何でも屋『オアシス』が誕生したんだ。
◇◇◇
「とまぁ、こんくらいかな。俺が覚えてんのは。それから二年後くらいか? リオンと出会ったのは」
「そうなんだ。結構苦労してたんだね」
「うっうう……。拙者、感動してしまったよ……」
「よくもまぁ人の身の上話でそれだけ泣けるね、サナエさん」
「うぅぅ……だってぇ……!」
サナエが泣きすぎていることはともかく。
グレンの昔話を聞いていくつか違和感があった。
それはグレンとルドルフが同じ時期に、同じ境遇で出会った事。
それとサンドレアでは王子だったグレンとルドルフが、なぜ記憶を無くしヨスガの里にいたのか。
そこへ何故同じ状況でシルキーがそこにいたのか。
グレンとルドルフは王子だから何かの陰謀に巻き込まれたという線が有力だろうけど。
シルキーって一体何者なんだ?
もしかしてシルキーもサンドレアの住人なのか?
それじゃあ何故、シルキーはヨスガの里にいたんだ?
そういった考えが俺の頭の中を交錯している時。
噂の荷車と妙な男達が、集落へとやって来た――――
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