第52話 久々の再会


 色々な考えが俺の頭の中を交錯していく中、噂の荷車と妙な男達が、集落へとやって来た。



「き、来た……! 皆! 早く貢物を持ってくるのじゃ……!!」


 老婆が集落の人達に声を掛けると、皆は慌てて家へと戻り、野菜や自家製の服や装飾品を持ち出して来た。


 すると荷車の後ろから短い顎髭をたくわえた小太りの男が姿を現した。

 男は集落の人とは違い、綺麗な格好をしていて偉そうな歩き方をしている事から、さっき集落の人が言っていた大臣のヴァイツェンなのだろうと俺は直感でそう思った。


「ふぉっふぉっふぉっ。皆の者、しっかりと働いているかぁ? 今日も国王への貢物を回収しに来てやったぞよ? 感謝しろ?」


「……あ、ありがとうございます」


 男は皆と顔を合わせるなりそう言うと、集落の人達は頭を下げお礼を言っていた。


「ふぉっふぉっふぉ。それじゃあお前達、さっさと貢物を回収して荷車に載せろ」


 男は荷車を引いていた男達にそう命じ、積み込みをさせた。

 すると老婆がその男の前まで行き、口を開いた。


「あのー……、ヴァイツェン様……? 出来ればもう少し貢物の量を減らしては頂けないでしょうか……? このままでは私どもは食べる物も無くなり飢えて死んでしまいます……」


 すると小太りの男ヴァイツェンはその言葉を聞き、老婆の頭に優しく触れた。


「ふぉっふぉっ。そうか。それは悪い事をしたなぁ。よし、わかったぞよ。これからは貢物の量を減らしてやる――――なんて言うと思ったか? 貴様ら愚民共はワタシ達の様な貴族や国王の為に黙って働いておればいいのだ! それが出来んようなら全員……石に変えてしまうぞよ!?」


 そう言うとヴァイツェンは老婆の頭を掴み、横へと投げ飛ばした。


「なっ……!?」


 俺はヴァイツェンのその非道な行いに思わず反応してしまい声を出した。


「んー? なんだァ……貴様はァ?」


 するとヴァイツェンは俺達に気が付いたようで睨み付けてきた。


「貴様ら、見ない顔だなぁ? んー? ――――がっ、あっ……! グ、グレン、それにルドルフ……!? どうしてここに……!?」


 そしてヴァイツェンは俺、サナエ、グレン、ルドルフの順に顔を見て行き、最後の二人の顔を見た瞬間に、顔を青くして後ろに倒れ尻もちをついた。


「あん? 誰だテメェ? 俺はテメェの事なんか知らねぇぞ?」


「僕もあなたの事は存じ上げませんね。何処かで会いましたか?」


 二人はヴァイツェンに向かってそう言うと、彼はゆっくりと立ち上がりまた気持ちの悪い笑い方を始めた。


「ふふふふ。ふぉっふぉっふぉっ! そうか……。こんな所にいるからと少し冷や汗をかいたが、まだ記憶は戻っていないようだなぁ?」


「さっきから何言ってんだテメェ? 俺はさっきヨスガの里からここへ来たとこなんだよ! それにここのヤツらは俺とルドルフの事を王子だなんだ言いやがるしよ!? 俺達はここの王子だったっつー記憶なんて一つもねぇんだよ!」


 グレンは声を荒らげ激高した。


「ふぉっふぉっ。知っておるよそんな事。貴様ら二人の事は逐一報告を受けていたからな」


「何……!?」


「何で……誰に……?」


 ヴァイツェンの言葉にグレンとルドルフは驚いた表情を見せる。

 それを見たヴァイツェンは後ろの誰かに向かって手招きをした。

 するとフードを被った女性がゆっくりとこちらへ歩いて来た。


コレが下にいた貴様らを見張り、ワタシに逐一報告をしておったのだ。なぁ? ――――シルキー?」


 ヴァイツェンはそう言うと、したり顔をし、女性のフードを剥がした。

 するとそこには見覚えのある顔があった。


「な、なんでテメェがここにいやがんだよ、シルキー……!?」


「……ごめん。グレン、ルドルフ。リオっちもサナエっちもごめんね……」


「シルキー……どうして……?」


 グレンはシルキーの顔を見ると何とも言えない表情でそう叫んだ。

 シルキーは俯きながら俺達に謝った。

 ルドルフは信じられないといった表情で首を横に振りながら彼女の名前を呼んだ。


「ふぉっふぉっふぉ! 感動の再会だなぁ!」


 ヴァイツェンは俺達を馬鹿にするかの様に手を叩いて笑った。

 グレンはシルキーを見つめたまま何も話そうとはせず、ルドルフも同様に口を噤んだまま動かない。

 そして我慢出来ずに俺は口を開いた。


「どういうつもりだ、ヴァイツェン! シルキーに一体何をした!?」


「何をしただと? ふぉっふぉっ。ワタシは何もしとらんぞよ?」


 俺の言葉はヴァイツェンに一切響かず、奴はただ笑ってそう返答した。

 すると今までずっと黙っていたサナエも続けて口を開いた。

 

「じゃあ何故シルキーが今まで貴様なんかに従っていたと言うのだ!? おかしいじゃないか! あんなに優しくて仲間想いのシルキーが……!」


 サナエはそう言い目に涙を溜め、奥歯を噛み締めた。


「ふぉっふぉっ。貴様ら、何を勘違いしているのだ? これではまるでワタシが悪人みたいではないか。そこの王子二人と共に下へ行きたいと言ったのはシルキーであるぞ?」


「なっ……!?」


「そんな訳……!?」


 俺とサナエは揃って同じ反応を示した。

 シルキーに限ってそんな事があるはずがないと。

 

 ――もし本当にヴァイツェンが言った通りなら、シルキーはグレンとルドルフを十年間、俺とサナエを数ヶ月の間、騙し続けていた事になる。

 シルキーはそんな奴じゃない。

 そう信じたかった。

 だが……。


「本当の事だよ。私がお父さんにグレンとルドルフについて行きたいってお願いしたの。ごめんね、今まで騙してて」


 シルキーは自分の口からヴァイツェンが言った事は全て真実だと告げた。

 そしてシルキーはヴァイツェンの娘であるとも。


 

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