第20話 初代将軍ヨシツグ


 サクラ町を追われ、町外の空き地へと逃げた俺達は、人斬りの正体は将軍一族の誰かだと結論付けた。

 

 そして将軍一族をよく知るサナエの師であるマサムネと出会い、サナエを助ける事に協力してもらえる事になり、城へ突入する前に将軍一族について語り始めた。


 ◇

 

 ※ ここからはマサムネ視点での構成となります。




「あれはワシがまだ一五の時じゃったかのう。あの頃はヨスガの里も荒れとっての。刀を持ったゴロツキ共が町に溢れかえっておったんじゃ。ヨスガの里にまだ将軍なぞおらんかった。そんな時代じゃった」

 

「ワシも、町の中じゃあ喧嘩では負け無しの、割りと名の知れたゴロツキじゃった。そんな中で、何回ぶっ飛ばしてもワシに向かってくる歳下のガキがおった――――」


 

 五○年前

 

 

「おい! マサムネ! 今日も俺と勝負しろ!!」

 

「またお前かヨシツグ! 何回ぶっ飛ばしゃわかるんだテメェは!?」

 

「俺はお前に勝つまで何回だって挑み続ける! 毎日な!」

 

「お前なぁ……。俺もそんなに暇じゃねぇんだよ!」

 

「うるせぇ! 勝負しろー!!!」

 

 そう言うとヨシツグは俺に殴りかかってきた。

 しかし結果はいつも同じ。

 二、三発殴ってやれば大人しく引き下がる。


 

「明日も来るからな……! マサムネ! 首洗って待ってろ!!」

 

「待たねーよ、ばーか!」


 

 それからも毎日ヨシツグは俺に挑んできた。

 そしてそんな毎日が続いたある日。

 俺は一つヨシツグに質問をしてみた。

 

「なぁヨシツグよ。なんで俺にそんなに突っかかってくるんだ?」

 

「別にお前に突っかかってるわけじゃねぇよ! 思い上がんなボケ!」

 

「あぁ!? テメェ、もっぺん殴ってやろうか!?」

 

「今日はもういいよ!! ――――別に俺はお前にこだわってるわけじゃない。これは本当だ。俺は強くなりたいんだ。誰よりも強く、みんなを守り、導けるように」

 

 ヨシツグはそう言うと遠くの空を見つめていた。

 まるでこの里の未来を見ているかのように。

 

「お前そんなに強くなってどうすんだ?」

 

 素朴な疑問だった。

 だがヨシツグには俺に想像も出来ないほどの野望があった。

 

「今この里には長がいない。力が全てだ。力がない者は淘汰され虐げられる。力が強い者が暴れ回り支配する。俺はそんな里の未来は見たくない。だから俺はこの里で誰よりも強くなってこの里の将軍になる! そんでこの里をみんなが笑って暮らせる里にする!」

 

「はははは! んな事出来るわけねぇだろ! たかが、一二歳のガキによぉ!」

 

 ヨシツグの言葉に多少、面を食らったがこの時はまだ信じられず俺はただ笑い飛ばした。

 しかしヨシツグは動じなかった。

 

「いーや! 俺はいつかぜってーお前にも勝って、この里の将軍になる!」

 

 そう言いヨシツグは帰って行った。

 俺はヨシツグの話をあまり真に受けず、いつもの日常に戻っていった。


 ◇

 

 

 そして三年が経ったある日。

 

 あれからも毎日俺に挑んできていたヨシツグに俺は初めて負けた。

 一五歳になり、強くなったヨシツグに勝てる者はこの里にはもう誰もいなかった。

 それだけヨシツグの強さは圧倒的なものだった。

 実際、俺が誰かに負けたのは人生でこの一回だけだった。

 

 

 俺は仰向けに倒れ、そして負けたのに笑っていた。

 

「いやぁー! 負けた! しっかり負けたぞ! ヨシツグ! テメェは強い! はははは!」

 

「何笑ってんだボケ!」

 

 そう言いヨシツグは俺に手を差し伸べた。

 そして笑顔でこう続けた。

 

「マサムネよ。俺に力を貸してくれないか? 一緒にこの里を変えよう!」

 

「はははは! わかったよ! 手ぇ貸してやる! 俺はお前について行く! どこまでもな!」

 

 そう言い俺はヨシツグの手を掴み笑い、答えた。


 ◇


 

 そして俺達は里を変える為、色々な事をした。

 手始めに町のゴロツキ達を一掃し、自分達の部下にした。勿論、逆らってくる奴もいたが俺達の前ではそんなものは無意味だった。


 

 次に俺達は、今まで力によって虐げられていた者達の元へ向かった。そしてヨシツグはその者達に向かって宣言した。

 

 

「俺はこの里の長、将軍になる! 悪いようにはしない! みんなが平等に笑える里を作る! 約束する!」

 

 しかしその者達は反発した。

 予想はついていた。

 今まで散々暴力で虐げられていたんだ。

 その中で一番力があるヨシツグが将軍、所謂この里の長になろうと言うのだ。

 これまで以上に劣悪な環境になる事を危惧するのは仕方がないことだった。

 

 しかしヨシツグは諦めなかった。

 

「俺は暴力による支配はしない! 俺が暴力を振るう時はお前達を守る時だ! 今すぐじゃなくてもいい。これからの俺達を見ていて欲しい! 必ずお前達が認める将軍になる! だからどうか俺達を恐れず受け入れてほしい!」

 

 ヨシツグのその言葉を、半分の者は信じ、また半分の者は相手にしなかった。

 そしてヨシツグは部下である俺達に人々の営みを手伝うよう命じた。


 ◇

 

 それから俺達は、文句を言いながらも皆ヨシツグの命令を聞き入れ必死に働いた。

 ヨシツグは町の者に暴力を振るおうとした部下にはしっかりと罰を与え、自分は誰よりも長い時間、誰よりも一生懸命に働いた。

 

 すると初めは俺達を煙たがっていた者達も徐々に受け入れてくれるようになっていった。

 半年もすれば俺達や町の者達を含めた全員がヨシツグを信頼するようになっていた。

 

 そんな時、ヨシツグは皆の前に立ち、話を始めた。

 

「みんな! こんな俺についてきてくれてありがとう! これからもより良い暮らしが出来るよう共に頑張ろう!」

 

 するとその声を聞いた者達から歓声が沸き起こった。

 

「「「「「「ヨシツグ様ーー!!」」」」」」


 その歓声はヨシツグにとって悲願だった。

 ヨシツグは涙を流し、こう宣言した。

 

「俺は……この里の将軍として、みんなを守り、みんなをより良い方へと導きたい……! だからこれからも俺についてきてくれ……!!」

 

「「「「「「おぉー!!!!」」」」」」

 

 ヨシツグの言葉を受け、俺達はこれからの里の明るい未来を見て、泣きながら笑った。


 ◇

 

 そしてそれからのヨシツグの活躍は目まぐるしいものだった。

 荒れ果てていた町を田畑と住居に分け、町民それぞれに土地と家を与えた。

 住居がある町をヨシツグはサクラ町と命名し、里の者全員を住まわせた。

 

 そして刀を持っていたゴロツキ共を武士とし、里の為に働く役人という仕事を与え、役人達は町の治安を維持する為、不当な暴力を振るう罪人を取り締まった、

 

 その役人の中でも特に優れた三名を将軍に直接仕える侍とし、侍達は役人達を指導する他、将軍の護衛を担当した。


 ◇


 

 

 そしてヨシツグが里を治めてから一年が経った頃。

 町民の一人が声を上げた。

 

「ヨシツグ様が俺達と同じように町で暮らすのはやめにしよう! ヨシツグ様に相応しい住居をみんなで作ろうじゃないか!」

 

「城なんか作らんくていい! 俺はみんなのためを思ってやっただけだ! 俺はこれまで通りみんなと暮らしていくんだ!」

 

 しかしヨシツグはこれを拒否。だが、ヨシツグの言葉には誰も耳を貸さず、そしてその声は町中に広がり、サクラ町の最奥、町全体を見渡せる位置に五年もの歳月をかけ城を建てた。


 ◇

 

「ヨシツグ様、これからはここに住んでください! あなたはここから俺達を見守っていて下さい。わざわざ町に出て来て頂かなくても俺達は大丈夫ですから!」

 

 そう言われ、半ば強制的に城に住むことになったヨシツグだったが、元々は町のゴロツキだったやんちゃ坊主。

 そんな生活に我慢出来るはずもなく、俺達侍の目を盗んでは城から抜け出しサクラ町へと来ていた。

 

 そしてそんな時、ヨシツグは一人の町娘と恋に落ち子を成した。

 後に二代目将軍となるその子はヨシイエと名付けられた。

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