第21話 将軍一族
町民達の善意によって城に軟禁されていたヨシツグだったが、侍達の目を盗んではサクラ町へと出掛けていた。
「ヨシツグ様! またサクラ町へ行っていたのですか!? 貴方はこの城にいてくださいとあれ程言っているでしょうが!」
「なぁ、マサムネよ。そんな堅苦しい言葉遣いと俺の名前に様を付けるのはやめてくれねぇか。昔みたいにヨシツグって呼んでくれよ。それに俺は、こんなとこでじっとしてられる人間じゃねぇことくらいわかってんだろ?」
「そうですね。あなたは昔からじっと同じところにいるなんて出来ない人でしたね……。わかりました」
「おぉ! わかってくれるか! さすがはマサムネよ!」
そう言うとヨシツグは目を輝かせて俺を見た。
「わかりました。これからはじっと出来ないヨシツグ様を城の外へ出さぬよう、城の門に見張りを二名、常に立たせることにします」
「はぁ!? ふざけんなマサムネ、テメェ……!」
こうして俺は暴れるヨシツグを強引に部屋に入れ、役人数名に交代で城の門に見張りとして立つよう命じた。
◇
それから暫くの間、ヨシツグは城から出ずに大人しくしていた――――と思っていたのだが、数ヶ月が経ったある日。
サクラ町でヨシツグを見たという情報が入ってきた。
しかし門番に聞いてもヨシツグは門から外へは出ていないという。
ならば、どうやって抜け出したのか。
しかしいくら考えても見当がつかず、俺はヨシツグを一日見張る事にした。
◇
朝ヨシツグは目を覚ますと、用意された食事を摂り、服を着替え足早に城の一階へと降りた。
やはり門からか……! と俺が思ったのも束の間。
ヨシツグは城の出入口とは反対の物置部屋へと向かった。
この物置部屋は城の出入口から一番奥の部屋で外の大きな土壁と面しているところだった。
俺はヨシツグの後を追いその部屋に入ると、そこにはもうヨシツグの姿はなかった。
部屋の中を隈無く探していると、壁際に明らかに変に積み上げられた木箱があった。
俺はその木箱を恐る恐るどけてみると、そこには人が余裕で入れるであろう大きな穴が開いていた。
ヨシツグは壁に大穴を開け、数ヶ月の間これを掘り続け外まで貫通させたのだ。
「おいおい、ここまでやるか、普通……?」
俺は呆れながらも、その穴の中へ入り後を追った。
すると徐々に光が見え始め、穴を抜けるとそこは本当に城の外で、サクラ町よりも外側の田畑の広がる地域の中でここだけ田畑がない空き地になっていた。
そしてヨシツグはその空き地から堂々とサクラ町へ入っていたのだった。
その後、俺は町中を探し回りようやくヨシツグを見つけた。
わざわざこんな穴まで掘って何をしに来ていたのか。
それはすぐにわかった。
ヨシツグは一人の町娘に恋をし、一生懸命に口説いていた。
ここで声をかけるのは野暮だと思い俺は城へと戻った。
◇
暫くしてヨシツグが二七歳になった頃。
ヨシツグはその町娘と結婚し夫婦となった。
その後二人は子を成し名をヨシイエとした。
ヨシイエが生まれてからというもの、ヨシツグはめっぽう可愛がり城を抜け出す事もなくなった。
◇
それから更に一五年後。
ヨシイエはすくすくと育ち一五歳となった。
そしてヨシツグは四三歳、俺は四六歳になり、里は安定期に入り生活は穏やかで豊かになっていた。
しかしそんな時、流行り病が里を襲った。
町民から侍までもが命を落としたこの病は、どんな治療を施そうとも完治することはなかった。
病が流行り始めてからヨシツグは積極的に町に出ては、町民の看病や仕事をした。
しかし病はそんなヨシツグにさえも牙をむいた。
二年間の闘病期間を経て、初代将軍ヨシツグは四五歳で死んだ。
死の間際、ヨシツグは俺とヨシイエを呼び、話をした。
「二代目将軍はヨシイエ、お前に任せるぞ。お前ならきっといい将軍になれる。俺は一五の時に将軍になったんだ。一七歳のお前なら大丈夫だ」
そう言うとヨシイエは涙を流し何度も頷いた。
「おう。マサムネ。お前とは長い付き合いになったなあ。お前がいなかったら俺は将軍になんてなれてなかったかもしれねぇなあ。お前にならヨシイエを安心して託せるなあ。この里の未来……を。笑顔の絶えねぇ……いい里にしてくれよ……な」
そう言い残しヨシツグは微笑みながら死んだ。
俺とヨシイエは涙を流しヨシツグを見送った。
◇
その後、ヨシイエはヨシツグの遺言通り立派な将軍になった。
病で俺以外の二人の侍を亡くした為、ヨシイエは新たに三人の優れた武士を侍に選任した。
俺はその侍達の指南役として城に残った。
ヨシイエはヨシツグによく似てとても優しい男だった。
里の皆が平等で平和であることを真に願っていた。
ヨシイエはサクラ町に出て行ってはヨシツグと同じ様に皆の手伝いをした。
まるで将軍である自分ですら皆と同じだというかのように。
しかし光ある所には影がある。
サクラ町には平和な部分だけではなく、役人達により罰を受けた罪人達が住む"影町"なる地域が出来ていた。
一度大きくなった火は中々消す事は出来ない。
ヨシイエと侍達を筆頭に役人達も尽力したが、影町の勢力が衰える事はなかった。
そして影町の住人達は自分達を虐げたという曲がった復讐の意を込めて、役人を無差別に襲うようになった。
そして当然ヨシイエもその標的にされてしまい、ある日、それらの手によって暗殺されてしまった。
ヨシイエは父親のヨシツグよりも短い、二十年間を将軍として民を導いた。
しかし町に広がる影に気付くのが少し遅れたが為に、愛する民の手によって三七年という短すぎる生涯を終える事となった。
◇
その後、ヨシイエが二○の時に設けた子、ヨシユキが一七歳で将軍となった。
ヨシツグは強く逞しい、ヨシイエは優しく誰にでも手を差し伸べる心を持っていた。
しかし三代目将軍ヨシユキはそれらとは大きく違い、かなりの臆病者であった。
物心ついた頃から泣き虫で弱虫であったが、父であるヨシイエが町で殺された事を知ると、臆病さに拍車がかかった。
ヨシユキは自分の傍に置く侍はとにかく強い者をという理由で、腕に自信がある者を町中から募り、それらを戦わせ上位三名を自らの侍とした。
そして前任の三名の侍を、先代を守れなかった罪とし処刑し、俺が六八歳の時に指南役を解任し町から追放した。
◇◇
そして現在。
「それから二十年もの間、ヨシユキは臆病な姿勢で将軍の座に就いとる。その間、昔のよしみでワシに会いに来るバカな男が一人おって、そいつが色々と城の内部の事を教えてくれるのじゃ」
「へぇ、そうなのか……」
「ヨシユキは自分の身に何が起こってもいいようにと、将軍の座についてすぐ子を成し、それにヨシロウと名付けたそうじゃ。
また、ヨシロウは今一九歳で、普段は無口で殆ど喋らないそうじゃが、怒るととんでもない殺気を放つとか何とか言っておった」
「将軍の息子、ヨシロウ……か」
「それと、ヨシロウは幼い頃から剣術が得意で今では将軍の侍をも凌ぐ実力じゃそうで、その上、内に秘めた凶暴性から何をしでかすかわからないと父親である将軍ヨシユキですら放任しているらしいのじゃ」
「父親が放任してしまうほどの凶暴性……ですか」
「ワシの話はこれで終いじゃ。さてと、それじゃあそろそろ城へ向かうとするかの」
マサムネはそう言うと、家から一本の刀を持ち出し俺達を自宅の裏へと手招きした。
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