第19話 サナエの行方
人斬りを捕縛し奉行所へ引き渡した翌日。
俺達は何故か罪人にされ、役人に追われオアシスを飛び出しサクラ町の外へと逃げた。
しかし、道中サナエと合流する事は叶わず、俺達は俺が特訓した空き地にて状況を整理することにした。
「どういう事だ? 何でサナエが処刑される……!? 何で俺達が罪人だァ!?」
「落ち着いて兄さん。それを今から整理しようって話だから」
「わーってるよ! ったく……訳がわかんねぇよ!」
グレンは相当荒れていた。ルドルフも冷静に見えるが、表情はかなり怒っているようだった。
「とにかく、俺達はもうサクラ町には戻れない。恐らく手配書が回ってる。町全体が敵だと思った方がいい」
「えーー! 町のみんなが敵なのー? どーするのー? これから!」
俺がそう言うとシルキーは悲しそうな表情を浮かべる。
「まず原因を探らないとまずいですね……」
ルドルフは一言呟くと、顎に手を置き、続けて話し始めた。
「兄さんの読みは正しかったんだ……。人斬りは役人以上の武士。ただその正体はもっと上。恐らくだけど侍以上の……」
「そうだ。そうじゃなかったら役人を動かして俺達を捕まえて処刑するなんて出来ないはずだからな」
「リオンさんの言う通りです。つまり人斬りの正体は、強大な権力を持った誰かで、それを隠す為に僕達を犯人に仕立て上げてこの騒動を終わらせようとしている。――――それに僕達を捕らえるのが将軍の命って言っていたのも気になります。これがもし、役人の嘘だとしたら大問題だけど、さすがにこの里の人が将軍の名前を使ってそんな事をするとは思えない」
「つまり……?」
俺は段々と早口になっていくルドルフのペースを戻すためにあえてゆっくりと相槌を入れた。
すると、「ふぅ……」と一息入れルドルフは結論を口にする。
「人斬りの正体は将軍ヨシユキ、もしくはその息子のヨシロウ……で間違いないと思います」
――やっぱりそうなるのか。
将軍に息子がいたとはな……。
いや、先代から今の将軍に代替わりしていた事を考えれば別に普通か。
俺はルドルフの話に納得した。グレンもそれは同じだったようで、驚いた様子はなかった――――が、ただ一言「腐ってやがる……」そう言った。
「ってことは俺達の敵は将軍一族って事だな」
「そういう事だな。俺達は反逆者になっちまった。もう後には退けねぇ……。なら、将軍一族も侍もぶっ倒してこの腐った里を綺麗にすんぞ……!!」
グレンは声高々に宣言し、俺とルドルフはそれに頷く。するとシルキーが先まで閉ざしていた口を開いた。
「ねーねー。そんな難しい話はともかくさー、サナエっちは無事なのかなー?」
「あぁ……そうだな。元はと言えば俺の作戦に乗っちまったせいでサナエは人斬りにされちまったんだよな……」
「僕達が巻き込んだんだから……」
「――――俺達が助けないと駄目だよな……!!」
「うん! みんなでサナエっちを助けに行こー!」
こうして俺達の意思は固まった。将軍一族を倒し、サナエを助けて全てを終わらせる。それが俺達の当面の目標になった。
「で、だ……。将軍とその息子の顔って、誰か見た事あるのか?」
俺がそう言うと、全員が目を逸らした。
「「「……………………」」」
「もしかして、みんな知らないのか?」
「「「……………………」」」
「ふりだしじゃないか!!」
俺が何を聞いても三人は黙ったまま目を合わせようとはしない。
――どうやら、本当に誰も将軍達の顔を知らないみたいだな……。
これじゃあ人斬りについて何もわからなかった時と同じじゃんか……。
どうしよう……?
サナエが処刑されるまで一刻の猶予もないというのに……!
俺が思案していると、俺達の元へ一人の老人がやって来て声をかけた。
「おーい、そこの若造ども。さっきから人の家の前でやかましいのう……。何を騒いどるんじゃあ?」
「あん? 誰だあんた? 俺達は今大事な話をしてんだよ! あっち行ってろ!」
「に、兄さん……! 初対面の人にそんな事言ったら駄目だよ……! ――――すみません。僕はルドルフと言いまして……」
ルドルフはグレンの言動に注意を入れると、俺達の紹介を始めた。
◇
「ほっほっほ。丁寧に説明してもらってすまんのう。ワシの名はマサムネじゃ。昔は侍をやっておったが、今はこの町外れで静かに隠居しとるもんじゃ」
「「「マサムネー!?」」」
するとサナエの話を聞いていなかったシルキー以外の全員が老人の名を聞いて驚愕した。
――そうか、ここは俺が特訓したところでもあり、サナエが鍛錬したという空き地でもあったんだ。
つまりここは初代将軍の筆頭侍、マサムネさんの家の前だ……!
マサムネさんなら、将軍一族について何かわかるかもしれない!
そして恐らくそれはシルキー以外の全員が思っていた。俺達は声を揃えてマサムネにこう告げる。
「「「将軍一族についてわかること全部」」」
「教えてくれ!!!」
「教えてください!」
「教えろ!!!」
ルドルフはグレンの口を手で押えもう一度頭を下げた。するとマサムネは、ニコリと笑い口を開く。
「ほっほっほ。将軍一族はめったなことがない限り役人以下の者には姿を見せんからのう。何も知らんくても無理ないのう。――――して、若造ども。一体何があった? お前達の何がそうさせるんじゃ?」
その後、途端に顔色を変えたマサムネにそう問われた。俺達は思いのままを口にした。
「この腐った里を……変えてぇんだ!」
「僕達が思っている事が事実なら、将軍様一族のやり方は間違っていると思います!」
「私も捕まるのは嫌なんだよー!」
「俺は……サナエを救いたい……!」
俺達の意思を伝えると、マサムネの表情は更に険しくなり、尋常ではない圧を放つ。
「サナエに……何があった?」
マサムネにそう聞かれ、俺は今まで起きた事の全てを話した。するとマサムネは怒りに震えながらゆっくりと口を開いた。
「――――そこまで腐りおったか将軍一族は……!!!」
「いえ、まだ僕達の憶測でしかないのでまだ……」
「いや、もう確定だろ! 人斬りの正体が将軍一族なら今までのこと全てに合点がいく!」
グレンはルドルフの話に割って入り、諸悪の根源が将軍一族であると断定した。
――俺もそう思う……。
何人もの被害者が出たのに、人斬りの正体が一切わからなかったことも、今回の件も全て、将軍の権力で事実を捻じ曲げなければ出来ないことだ。
「サナエは……今、捕まっておるのか?」
マサムネのその問いに俺達は静かに頷いた。
「そうか……。なら、サナエは恐らく城の中じゃろう」
「え……!? 捕まった罪人は、奉行所の牢屋に行くのではないのですか?」
ルドルフは驚いた様子で反応した。
するとマサムネは首を横に振り、淡々と説明を始める。
「その牢屋は、ちょっとした罪を犯した罪人を捕えておくものじゃ。今回の件のような、町に甚大な被害を及ぼすような大罪人は城の中へ閉じ込める。しかも将軍に仕える三名の侍達による見張り付きでじゃ……」
「それは、とてもじゃないけど近付けないね……」
マサムネの話を聞き、いつも元気なシルキーまでもが俯きながらそう言った。
「それでも助けに行くんだ! サナエはもう俺達の仲間だろ!?」
俺の言葉に皆は強い意志を持って頷いた。
「ワシの可愛い弟子をそんな目に遭わせるとは……。将軍一族の腐った性根を叩き直してくれるわ!」
マサムネも将軍一族に対し、凄まじい怒りを露わにし、そびえ立つ城を睨みつけた。その後、俺達へと目線を戻したマサムネは、真剣な表情で口を開いた。
「それはそうとお主ら。将軍一族について知りたいんじゃったのう?」
「あぁ。敵の事はよーく知っとかなくちゃならねぇからな。知り得る情報は全部聞いておきてぇ」
「ほっほっ。戦闘についてよくわかっとるようじゃのう。ならばワシが奴らについて、一から話をしてやろう……」
そして、マサムネの口から将軍一族の過去が語られ始める。
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