第99話 狂った長話


 新たに他のマザー達が現れた事により、今目の前にいるマザーの名がティアだと明らかになった。その事実に俺達は驚愕していた。



「そんな……嘘だろ……? てことは、お前は昨日……実の父親・・・・の対応をしていたってことか……?」


「…………はい」


 俺の問いにティアは俯きながら答えた。その表情は悲哀に満ちていた。


「なんちゅう残酷な話や……。まさか自分の父親の対応を実の娘にさせるやなんて、ティアちゃんが可哀想過ぎるやろ……」


「いえ、それが私の選んだ道ですので……」


 ハンスはティアに同情し、ひとりでに声を漏らした。だがティアは表情を元に戻し、淡々とそう言った。


「ん……? あのおっさんは昨日、娘に10年会えてねぇって言ってたぜ? だが、テメェはどっからどう見ても10歳のガキには見えねー。どういう事だ? テメェは赤ん坊の時に連れてこられたんじゃねーのか?」


「それは……」


 グレンの鋭い指摘にティアは何かを言おうとして言い淀む。すると先程声を掛けてきた他のマザーが俺達の元へ到着し、口を開いた。


「あらあら、えらく同情を誘っているようねぇ。この子が言えないのなら私が教えてあげるわ」


「ちょっとやめて、ミレーヌさん……! 聞きたくありません……!」


 ミレーヌと呼ばれるマザーは、ティアの制止を無視し、俺達に物凄く長い一人語りを始めた。


「じゃああなたは耳を塞いでいるといいわ。――――うっふふ……。あのねぇ、外の人間達はねぇ、子供が産まれた時点でその子を奪われるのよ。

 それだけじゃないわ。錯乱を始めた大人は放置しておくと必ず面倒事を起こすからと、女王様の意向で洗脳するの。"自分は家畜。子供などいない"ってね。

 ただその洗脳も完璧じゃあないわ。永遠に続くわけではないの。だいたい10年くらいかしら? それくらいの月日が経てば自然と洗脳は解ける。ふふふ。そしたらどうなると思う……?

 子供を奪われた親達はそれらを全て思い出し、涙を流しながら塔の前で私達に懇願するのっ……! 『お願いします、子供を返して』ってね……!

 でも私達だって鬼じゃあないわ。その親達に一ヶ月程の猶予を与えるの。『女王様が喜ぶ物を持って来なさい。さすれば女王様のご慈悲を賜り、お子さんに会える事が出来るでしょう』ってね。

 それから馬鹿な親達は洗脳されていないのにも関わらず、それをまんまと信じて無様に必死に働き始めるわ。でも面白いのはここからよ……?

 一ヶ月の猶予の間に親達は色々な物を集めて約束の日に持ってくるわ。でもそれが土や石、木の実なんかのガラクタばかり……。そんな物で本当に女王様がお喜びになると思っているのかしら……? キャッハハ……! そんな訳ないでしょう……? まぁ何を持って来ても結果は変わらないけれど。

 だから私はその馬鹿で無様な親達に優しく・・・・丁寧に・・・言ってやるのよ――――『あなたが必死で働いている間に、あなたのお子さんは家畜になりました。残念ですが、もう会うことは叶わないでしょう。なのであなたが持って来たそれ・・は何の役にも立たなくなりました。どうぞお引き取り下さい』ってね……!

 ぷっ……! そしたらどう……? 子供に会えると本気で信じていた親達は一気に絶望のどん底に落とされる! 泣きながら発狂、錯乱を始めるわ……! その絶望に満ちた表情ったらもう最っ高よ……!?

 私はねぇ、それを見る度に再認識出来るのよ。"コイツらは家畜"で私はそれらに有無を言わせず搾取する側の"人間"だってね……! キャッハハハハ……!!」


 ミレーヌは残酷で無慈悲な長い話を、時折笑みを浮かべながら語り、最後は恍惚な表情で不快な高笑いをして締めた。


 ミレーヌの話を聞き、外の人達に対する考え方や対応の仕方がそれぞれ違うのだと感じた。

 ミレーヌが残酷な仕打ちに恍惚な表情を浮かべているのに対し、昨日のティアは実の父親が相手だったという事もあるかもしれないが、優しく丁寧に、少なくともミレーヌの様に見下して嘲笑う様な事はしなかった。

 

 そしてミレーヌの長話の間、俺達は耐え難い苦痛を味わう。だが、貴重な情報を相手が勝手に話してくれているのだからと、グレンは怒りに震えながら、サナエは目を瞑り精神を統一、ハンスは苦虫を噛み潰したような表情で、そして俺は怒りを必死で抑える為に歯を食いしばっていた。

 そんな中、一番に口を開いたのはやはりグレンだった。

 


「よぉ……。最低に胸糞悪い話をありがとうな……。で? テメェらがわざわざ他のマザーを引き連れて来たのには理由があんだろ? 俺達をどうするつもりだ?」


「ふっふふ……。あなた達は侵入者よ? 捕らえて女王様の所へ突き出すに決まっているじゃない。その後はどうなるか知らないけれど」


 ――やはりそうか……。

 ミレーヌ達がここに来たという事は、恐らく女王とやらにも俺達の侵入は気付かれているのだろう。

 相手はティアを含めてマザーが五人。

 抵抗……は出来なくもないが、子供達を人質にとられたら俺達は動けなくなる。

 なら、どうする……?



 俺がそんな思案を重ねていると、ミレーヌがおもむろに口を開く。


「ふふ……。大人しくしてねぇ? ――――【操糸 捕縛術ワイヤーキャプチャー】」


 刹那。俺達の身体は針金のように硬い糸で巻き付けられ、遂には拘束された。


 

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