第44話 謎の男とアンダーワールド


 フィフシスの変わり果てた現状に俺は打ちのめされ、項垂れていた。

 すると俺達の前に一人の男が拍手をしながら現れた。


 

 男は眼鏡をかけ、サラサラとした髪を綺麗に分け、ヨスガでもフィフシスでも見た事がない綺麗な格好をしていた。


 

「誰だテメェ……!? まさかテメェがこれをやったんじゃねぇだろうなぁ!?」

 

「そうだとしたら……ここで……斬る!」

 

「被害者の方と僕達を除いてここに居るとすれば……犯人だけですよね……?」


 俺が絶望し項垂れている中、三人はその男の方を向き、戦闘態勢をとった。


「いやいやいやいや。何を言っているのですか? 私がこんな惨い事をするはずがないでしょう?」


 男は首を横に振りながら、三人の言葉を真っ向から否定した。


「じゃあテメェはここで何してやがんだ!?」

 

「何って確認ですよ、確認。しっかり村が潰れているか、生き残りがいないかどうかを見に来たのですよ」

 

「何だと……!?」

 

「貴様……誰の指示だ……!?」


 男の言葉にグレンは声を荒らげ、サナエは静かに怒りを滲ませる。

 

「いやいや。恐いですね。皆さんは何を怒ってらっしゃるのでしょう? 私がここを潰したと言っているわけでもないのに」

 

「じゃあ誰がやったんですか……!?」

 

「それは教えられませんねぇ。ですが、ここまで真相に辿り着いた皆さんにだけ、特別にヒントを差し上げましょう」

 

「ヒントだぁ……!?」


 男はそう言うと人差し指を立て微笑んだ。


「ここをこんな風にした犯人のヒントは……ズバリ! 地上にいる人間です」

 

「地上……」

 

「やっぱりあるのか……ヨスガの里の上にも……」

 

「んな事ァわかってんだよ! 他にもっとマシなヒントはねぇのかよ!?」

 

「あらあら。もうそこまでわかってらっしゃったとは……。さすがですねぇ。ではこんなのはどうでしょう? その地上人とはズバリ――――王族です……!」

 

「王族……?」

 

「へっ……。地上にはそんなもんがいんのかよ」

 

「僕らが知らない世界だね……」


 すると男はパンッと手を叩き、この話を終わらせた。


「はいっ! ヒントはここまでです。さて、あなた方はこのヒントから何を導き出し、何処まで来られるのか……。楽しみですねぇ。――――それより……そこの貴方。この状況に打ちひしがれて、項垂れている貴方ですよ」


 男は不敵な笑みを浮かべそう言った後、俺を指さした。


「貴方、ここの生き残りでしょう?」

 

「「「…………!?」」」


 男の言葉に三人は驚き絶句した。だが、俺は男を睨みつけ口を開いた。


「――――何故そう思う……?」

 

「ふっふっふっ。いやいや。この凄惨な現場を見て項垂れるなんてここの生き残りとしか考えられないでしょう。私をなめているのですか?」

 

「ふっ。まぁ確かにそうかもな……。で? ここの生き残りである俺を、お前はどうするつもりなんだ? 村の人達と同じように殺すか?」


 俺は男を睨みつけながらそう言うと、男は両手を上にあげながら首を横に振った。


「殺す? そんな事するわけないでしょう。言ったでしょう? 私はここへ確認をしに来ただけだと。それ以外の事は何も命じられていないので、私は何もしませんよ」

 

「あっそ……。じゃあ俺の故郷を潰されたこの怒りとか憎しみとか理不尽とか絶望とか……。その全部は何処にぶつけたらいい……?」


 俺はそう言いながらゆっくりと立ち上がり男に問い詰める。すると男は俺を見つめ、ニヤリと笑った。

 

「いいですねぇその表情……。憎しみに満ちていらっしゃる……! ゾクゾクしますねぇ……」

 

「は……? お前がゾクゾクするとか知らねぇよ。なぁ答えろよ……。俺はどこに行けばいい……? 誰をぶっ飛ばせばこの気持ちは晴れる……?」

 

「さぁ? 先程も言いましたがそれは教えられません。ここで教えてしまったら何も面白くないでしょう? 私が与えたヒントだけで地上まで辿り着いて下さい」


「そうか……。じゃあ待ってろ……。俺は必ず俺の故郷を潰したお前らに復讐してやる……!」


「くっふっふっ。えぇ。お待ちしておりますよ……」

 

「あぁ。それとお前の名前は何だ……?」

 

「おっとっと……私とした事が。名前を言っておりませんでしたね。――――私はグレゴールと申します。以後お見知り置きを……」

 

「そうか……覚えておく……」


 そして俺は決して消える事のない復讐の炎を心に宿した。するとグレンが横から話に割り込み叫んだ。


「おい、待て。名前とかヒントとか、んな事ァどうだっていいんだよ。テメェ知ってんだろ……? この世界は一体何なんだ!?」

 

「ふっふっふっ。それもあなた方自身で辿り着いて欲しかった事なんですがねぇ……。まぁいいでしょう。教えて差し上げます」


 そう言うとグレゴールは眼鏡をカチャッと掛け直し、この地中の世界について説明を始めた。

 

「この地中に埋まった世界は通称『アンダーワールド』と言い、その名の通り地上の世界の下に作られたものです。この潰れた層はフィフシス、その上にヨスガ、その上に……。――――くっふっふ……。これ以上言うと、後々の楽しみがなくなってしまいますねぇ……。まぁ……? 勿論、最後は地上ですよ……?」

 

「やっぱり僕達の仮説は間違ってなかったんだね……」

 

「その地上とやらにも人がいるのだろう? そやつらは何をしている? フィフシスをこんな目に遭わせて何がしたい?」

 

「何がしたい……。さぁ、何がしたいのでしょうねぇ。私にはわかりかねます。――――さて、アンダーワールドの説明もしましたし、確認も済みました。私はそろそろ地上へ帰らせて頂きますね」

 

 グレゴールはサナエの言葉に何かを含ませる様にそう言うと、手の平から空中に黒いモヤのような物を発した。


 

「あぁ!? 何だァそれは!?」

 

「あぁ、これですか? これは私のスキル【ワープ】によるワープゲートです。任意の場所にすぐ移動が出来るので便利ですよ」

 

「便利とかそんな事を聞いているのではない!」

 

「そうでしたか。これは失敬。…………あぁ、そうそう。あと一つ言い忘れていた事がありました。お伝えしておきますね」

 

「言い忘れていた事……ですか?」


 グレゴールはワープゲートへ入る寸前で俺達の方へ振り返る。そして予想だにしなかった言葉を口にする。

 

「――――シルキーはお元気ですか?」

 

「「「「は……?」」」」


 グレゴールのその言葉に俺達は驚愕した。

 この時の俺達は皆、同じ事を考えていただろう。――――『何故グレゴールがシルキーの事を知っているんだ』と。


 

「くっふっふ……。驚いている顔もまた格別……。まぁそれはいいです……。――――では皆さん。次は地上でお会いいたしましょう。ご機嫌よう」


 そしてグレゴールは絶句している俺達を見て不敵な笑みを浮かべると、そのままワープゲートの中へと消えていった――――――


 

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