第86話 神の所業
「待て! リオンちゃん! そんなもん出来るはずがない! 死んだ人を生き返らせるなんて、そんなもん神の所業やないか……!!」
「だったら俺が神になるだけだ……!」
俺はハンスにそう言い放つと、そのまま時間属性が付与された獣の口をシルキーの首元へと噛み付かせ、それと同時に言葉を添える。
「帰って来いシルキー……。【リセット】……!」
刹那――
目が眩む程の白い光がシルキーの身体を包む。
そしてその光は倒れているシルキーの身体をふわふわと浮かせ上体を起こし直立させ、彼女の腕をまるでナイフで突き刺した時の様に首元まで持っていった。
「これって、まさか……?」
「あ……あ、あぁ……」
サナエは死んでいるはずのシルキーの動きに淡い期待を抱き始め、ハンスは口をパクパクと動かし、声にならない声を上げていた。
そして悲しみに暮れ、自らも命を絶とうとしていたグレンはその様を固唾を呑んで見守っていた。
「シルキー帰って来い……!! 俺達はお前の死なんか望んじゃいない! 生きてたらきっといい事があるはずだから……!」
俺は光に包まれるシルキーに向かって思いの丈を叫んだ。
するとそれに感化されたのか、サナエとハンスも続けて心情を吐露し始める。
「シルキーとはまだ付き合いは浅いが、それでも拙者はシルキーを仲間だと思っている。まだまだ沢山したい事も話したい事もあるんだ。だから……シルキー! 帰って来るんだ……!」
「シルキーすまんかった。ワイは君の計画を知りながら、石化を解く方法を解明するどころか、君を止める事すらも出来んかった……。ワイだってシルキーに死んで欲しくなかったんや……! せやから頼む……。シルキー、帰って来てくれ……!!」
二人はそう叫び終えると涙を流しながらシルキーの名を何度も呼んだ。
しかし未だシルキーは白い光に包まれ直立したまま動かない。
するとグレンが徐に立ち上がり口を開いた。
「シルキーテメェ……!! いつまで寝てやがんだ!? さっさと起きろ! 馬鹿シルキー……!!」
刹那。グレンの心からの叫びがシルキーに届いたのか、彼女を包んでいた白い光は突如として霧散した。
そして――――
「グレン。大好き……。――――――うぐっ……!?」
――――シルキーは言葉を発し、そして何も持っていない手を自らの喉をナイフで突き刺す様にぶつけた。
「ゲホッゲホッ……! 何……? あれ、私、ナイフは……?」
そう言いながら辺りを見回すシルキー。
そして全員が涙を流し自分を見ている事に気付く。
「みんな泣いてる……。てかグレン……何であなた動け――――っ!!」
「勝手に死んでんじゃねーよ馬鹿が!! 最後にあんな言葉残していきやがってよォ……。残される俺の身にもなりやがれ……!!」
シルキーがそう言いかけたその時。
グレンはシルキーをもう何処にも行かせないと言わんばかりに力強く抱きしめ、そして胸の内をぶちまけた。
――
「は……はぁ……? 何言ってんの……? 私まだ死んで――――っ!?」
そう言いかけたシルキーだったが、グレンの言葉と周りの状況を見て瞬時に全てを理解した。
「まさか私……一度死んだ……?」
「あぁ。死んだ……。そんで、リオンがヴァイツェンのスキルを使ってテメェを生き返らせてくれたんだ」
そう言うとグレンはシルキーを抱きしめるのを辞め、代わりに手を握った。
シルキーはその手をぎゅっと握り返し、目に涙を浮かべ俺達を見た。
「ありがとう……。リオンはこんな私を……救ってくれたんだね……。本当に……ありがとう……」
「へへ……。何言ってんだよ。俺達、仲間だろ?」
「そうだぞ、シルキー! 拙者達は共に将軍を打ち倒した同士! だから拙者達をおいて、先に逝くなんて……うぅっ……うぅ……!」
シルキーは涙を流しながら礼を言う。
そして俺が涙を拭いて笑顔で返すと、サナエも続いて笑顔で返した――が、最後は泣き出してしまった。
「ありがとう……二人とも……。ハンスも、ごめんね。私のせいで沢山悩ませちゃったよね……」
「ええよ細かい事は! それよりシルキー、帰って来れてよかったな……! リオンちゃんは神の所業をやりよった。これは歴史的偉業やで!」
ハンスも涙を浮かべながら笑顔で返した。
するとシルキーは何かを思い出したように突然慌ててジタバタし始める。
「ど、どうしたんだよシルキー!? 急に何だ!?」
「感動してる場合じゃないよ……! 私が生き返ったってことは、街のみんなが……! 石化した人達はどうなるの!?」
シルキーは慌ててグレンの手を握ったまま、窓の方へと向かおうとする。
しかしグレンの力には適わず、一歩も動けない。
そこへハンスが神妙な面持ちで口を開いた。
「シルキー残念やったなぁ。君の計画は失敗に終わった」
「え……っ!?」
ハンスの言葉にシルキーは驚愕し、今にも膝から崩れ落ちそうな程に肩を落とした。
「シルキーの計画は自らの死を持って石化した人達を元に戻す事やろ? でも今シルキーは死んでへんやん。せやから計画は失敗っちゅうわけや」
「そんな……」
するとハンスは先とは打って変わって、いつもの調子でヘラヘラと笑みを浮かべながら再度口を開く。
「まぁ一回目のシルキーの死で石化した人達は元に戻ったけどな! ニッシッシ!」
「な、なんだ……。よかった……」
ハンスの表情と言葉でシルキーはホッと胸を撫で下ろす。
するとグレンが鬼の形相でハンスに怒鳴り始めた。
「ハンス、テメェ! シルキーをビビらしてんじゃねーよ!」
「おーこわ。シルキーの旦那さんは怒ったらかなんわー!」
「だ、旦那さん……!?」
「ば、馬鹿! テメェ……!!」
「何を隠すことがあんねんー? シルキーが眠ってる間、『好きな女が〜』っちゅうて言うてたやん!」
ハンスは茶化すようにグレンに返した。
するとグレンは頬を赤くして俯いてしまった。
「グレン……今の話、ほんと……?」
「…………っせぇよ! ほんとだ、本当……! ったく、好きじゃなかったらテメェが死んだからって、テメェにここまで怒ったりしねーよ」
グレンにそう言われるとシルキーも顔を赤くして俯いた。
思い返してみればグレンはシルキーに対して怒鳴ってばかりだったような気もするが俺は何も言わないでおいた。
それとグレンとシルキーは気付いていないかもしれないが、傍から見れば手を繋いで顔を赤らめている二人は正に恋人同士のそれにしか見えなかった。
「ハンス! そのくらいにしたらどうだ!? 二人の熱い恋模様を茶化すものではないぞ!」
「サナエ……それ、あまり助けになってないと思うぞ?」
「アハハハハ!! サナエちゃん、それ最高やな! せやな、サナエちゃんの言う通り! ワイもあんまり二人の恋模様を邪魔したらあかんな!」
「テメェ……ハンス、コラァっ!!!」
「…………ふふふ」
ハンスに顔を赤くしながら怒鳴りつけるグレンの横で、彼の手を握りシルキーは心底嬉しそうに笑った。
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