第75話 突入
ヴァイツェンの屋敷へと到着した俺とサナエはそこに広がる光景に唖然としていた。
「門が開いてる……。グレン達はもう中に入ったのか?」
俺が既に開かれていた門を見て思案していると、サナエはすぐさま門をくぐり、屋敷の敷地内へと入って行った。
「主……! こっちで人が穴の中で倒れているぞ!」
「え!? 穴の中? 何で?」
俺は言葉の意味がよく理解できず、ひとまずサナエの元へと駆け寄った。
そしてそこにあったのは地面にあけられた大きな穴とその中でぐったりとしている騎士達の姿だった。
「これはグレンとハンスがやったのだろうか?」
「どうだろう。少なくともグレンのスキルでこんな事は出来ないと思う。となれば――」
「ハンスの仕業だな」
サナエは俺の話の途中で口を挟み、推理していて一番気持ちのいい所を持って行った。
「……うん、そうだな。でも屋敷の中から何も物音が聞こえないし、まだヴァイツェン達との戦闘は始まってないんだと思う」
「さすがは我が主。凄い推理だな!」
「よせよ、恥ずかしい。それより俺達はグレン達よりも先にシルキーと合流しないとだな」
「だな。で、どうやって中に入る?」
「どうせ誰かに見付かれば戦闘になるだろうし、コソコソ隠れて行くよりは正面から入った方が早いかもな」
「はは! 主のそういう所、グレンとよく似ているな!」
そう言い茶化すようにサナエは笑った。
「は、はぁ? どこが!?」
「いや、何でもない、気にするな! よし、では参ろうか!」
「なんだよそれ!? おいサナエ! 待てよ!」
サナエはそう言うと俺よりも先に走って屋敷の中へと入って行った。
俺もそんな彼女を追うように後へ続いた。
◇
屋敷の中へ入るとそこには誰もおらず、俺はあまりの静けさに違和感を覚えた。
「なぁ、屋敷に侵入者が来たっていうのに静か過ぎないか?」
「確かに。拙者達よりも先にグレン達も来ているはずなのに、それに気付いた様子もないのは不自然だな」
そして俺達は辺りをぐるりと見回すが、やはり誰もいない。
屋敷は二階建てで、大きな階段を中心に左右に長い廊下が一本伸びており、そこに幾つもの部屋が並んでいた。
このどれかの部屋の中にシルキー達がいる可能性が高い。
「仕方ない。とりあえず一部屋ずつ確認して回ってみるか」
「そうだな。では拙者は左から見て回るから主は右を頼む!」
「うん、わかった。気をつけろよ?」
「主もな」
そう言い残し、俺達は左右に分かれて屋敷中の部屋をくまなく捜索して行った。
◇
俺は一階を暫く捜索し、二階へと上がると廊下の一番奥に他より一際豪華で大きな扉を見付けた。
「これは……あからさまに主人の部屋って感じだな」
俺はその扉を恐る恐るノックした。
しかし中からは何の反応も返って来なかった。
「ん……? 誰もいないのか?」
そして俺は左手を口に変えた。
その時、ふととある事に気が付いた。
――ん? 俺の手の口ってこんなに大きかったっけ……?
しかしその時はあまり深く考える事もせず、中の気配に最大限の警戒をしながら勢い良くその扉を開けた。
すると俺の鼻先が部屋と廊下の境を超えたと同時に、部屋の中からシルキーが俺の首元を目掛けて針を突き刺しにかかって来た。
俺はせっかく左手を口に変え警戒していたというのに、シルキーの速度が速すぎて左手はピクリとも動かす事は出来なかった。
――くそっ……。やっぱり中にいたのか!
この速度じゃ俺の左手は間に合わない……。
俺、このまま石にされちゃうのか……?
俺が思案している内にもシルキーが振り下ろした手が首元まで迫って来ていた。
針先はあと一秒足らずで俺の皮膚に触れるだろう。
しかし俺の身体は未だソレに反応出来ずにいた。
頭では理解しているにも関わらず。
そう。頭ではシルキーの針がどこまで迫って来ているのかを俺は理解していた。
そして本当に一秒も経たない内にシルキーの針は俺の首元に突き刺さった――――かのように見えたが、俺は咄嗟に自分の首元へ口を発現させ、その針を噛み砕いた。
シルキーはそれを見て後ろへ飛ぶ様にして俺との距離をとった。
「危ねー……。スキルが間に合って良かったー……」
俺はひとまず最悪の事態を防げた事に安堵した。
――そうか。体が反応出来ずとも、頭でソレを理解していたらスキルで反応出来るのか。
そういえば将軍と戦った時も無数の罠に逐一スキルで反応してたっけ。
なるほど。俺の戦い方がようやく見えて来た気がする……!
俺がそんな事を考えているとシルキーが口を開いた。
「何で何度も追い返してるのにまた来たの? 馬鹿なの?」
「馬鹿でも何でもいいよ。俺はシルキーを連れ戻しに来ただけだから!」
「はぁ……。今私あんたの事、石化させようとしてたんだよ? それも本気で。その辺ちゃんとわかってる?」
俺の言葉を聞きシルキーはため息をつきながら淡々と話した。
「勿論わかってる。本気で石化させようとしてた事は。でも、そのはずなのに。シルキーからは一切殺気を感じなかった! やっぱり俺を殺す気なんてないんだろ!?」
「……気のせいじゃない? 私はあんたを本気で石化させようとした。その事実は変わらない」
「変わるさ! 殺気があるのとないのとでは全然違う!」
「あっそ。もういいよ。あんたが来てるって事はグレン達も来てるんでしょ?」
「あぁ……。みんな一緒だ」
「じゃあ早く帰って。みんな一緒にさ――」
「そのみんなの中にはシルキーも入ってるんだ! だからここへ来たんだ! ……ルドルフもまだ石になったままだし、それも可能なら治して欲しい!」
俺はシルキーを説得しようと必死に呼び掛けた。
しかし彼女の表情は揺るがず、俺が何を言おうと無表情を貫いていた。
「悪いけど、私に戻る気はないから。だから諦めて。じゃないと本当に殺すよ?」
「……やれるものならやってみなよ」
シルキーはそう言うと俺を鋭い目付きで睨んで来た。
そして俺もそれに習い同じ様に彼女を睨み返した。
ただ、シルキーは絶対に俺を殺したりはしないと心の底で信じながら。
「ふっ。言ったからね。死んでも恨まないでよね……!」
そう言うとシルキーは胸元から針を数本抜き、指の間に挟むように握ると、俺に向かって突進して来た。
俺はそれを間一髪で避けるが、次々と繰り出されるシルキーの毒突きにいつの間にか壁際まで追い詰められる。
「リオン。もう逃げ場はないみたいだけど、どうする? 観念して石になる?」
「はは……。いーや。まだ終わってないよ……!」
そう言うと俺は両手を口に変えた。
「またそれ? あんたのスキルがどんなのか私、知ってるんだよ?」
「そらそうだろ。仲間だからな……!」
「……ふん。笑わせないで。私はあんた達の事を仲間だなんて思った事は一度もないわ。この部屋だって本当はお父さんの部屋だけど、お父さんを隣の部屋に行かせて私は一人でここで待ってたの。馬鹿で単細胞なあんた達なら必ずこの部屋に入って来る。そしてここで全員石に変えるつもりでね……!」
「へぇー、そうなんだ……。ていうかヴァイツェンは隣の部屋にいるのか?」
「そうだよ? 丁度あんたがもたれかかっている壁の向こうにいるわ」
「そう……。それは好都合――」
「あんた、まさか……!? させないよっ……!!」
俺の考えを察したのか、シルキーは俺に飛び掛って来た。
余程慌てていたのか握っていた針を全て落とし、手を開いて俺の腕を掴もうとしている。
だがもう遅い。
俺は両手の口で後ろの壁を捕食し、大きな穴を開けた。
そして飛び掛ってきたシルキーの勢いも相まって、俺達は揉み合いになりながらも壁の穴から隣の部屋へと転がり込んだ――――
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