第102話 女王のスキル
ラナがいたはずの牢の隅から現れたのは見覚えが無い
「ううっ……こわいよぅ……」
「だ、誰じゃ……!? こんないたいけな子供を牢に入れたのは……!? 即刻処刑してやるぞ……!!」
突如として現れた子供は泣きべそをかきながら、ゆっくりと女王に近付いた。すると女王は血相を変えて叫び散らし始めた。
俺達はこの状況が掴めないまま、ただ黙っている事しか出来なかった。
その後、発狂した女王は俺達に――――『貴様らの処刑は明日の正午じゃ。どんな声で鳴くのか、楽しみにしておるぞ?』とだけ言い残し、その小さな女の子を連れて牢を後にした。
◇
――俺達……明日、死ぬのか?
そんな言葉が脳裏を過ぎるも、それをわざわざ口に出す者は誰一人としていなかった。サナエを連れて行かれた以上、俺達も既に当事者。"脱走"という選択は有り得ない。
「これからどないしよかー?」
そんな中、やけに呑気に、そして明るい声色で口を開いたのはハンスだった。
「おいおい、えらくのんびり構えてやがんな? サナエが連れて行かれたんだぞ?」
「連れて行かれたもんはしゃあないやろ。でもなぁグレンちゃん。ワイかて、なんぼ付き合い短い言うても君らの事は仲間や思うとるねんで? 何も思わんわけないやろ……」
グレンの言葉にハンスは冷静に返す。言葉だけを聞けば冷酷で無慈悲なようだが、彼の表情は冷静とはかけ離れた
「そういやハンス。さっき女王にやたらと積極的に絡んでたけど、何を聞き出したかったんだ?」
「リオンちゃん、君は本間に、人の事をよう見とるね。せや? ワイは女王から"とある事"を聞き出す為にわざとあんな絡み方をしたんや」
「とある事ォ……?」
俺の問いにハンスはやたらともったいぶった様子で答える。グレンも気になるのか、目線をハンスに向けていた。
「ワイが聞きたかったんは二つや。一つは女王は本間に一人なんかっちゅう事――――」
「――――は!? 何言ってやがる!? あんなもん二人もいたらたまったもんじゃねーぞ!?」
「まぁ落ち着きやグレンちゃん。大丈夫や。女王はワイの質問に全て女王として、主観的に答えた。つまり、女王はあの人だけ。それは確定や」
ハンスの一つ目の狙いに、早速声を荒らげ始めたグレン。だが、ハンスはそれを軽くいなし、狙いに対する答えを淡々と述べた。
「……じゃあ二つ目は何だ?」
「二つ目は女王のスキルが何かについてや。まぁこれに関しては女王に勘づかれて聞きそびれてもうたけどな」
そしてグレンは早速次の狙いを聞いた。ハンスもそれに答え始めるが、俺はそこである事を思い出す。
「けど、その時ハンス……笑ってなかったか?」
「さすがはよう見とるな。せや、笑ったで。なぜなら、あの少しの問答である程度のスキルに絞れたからや」
「っ……!? 女王のスキルがわかったのですか!?」
ハンスの言葉を受け、先まで背を向けていたティアがおもむろに振り向き、取り乱した様子で口を開いた。
「完全にではないけどな。一応、何となくや」
「いちいちもったいぶってんじゃねーよ! さっさと女王のスキルを教えやがれ!」
「もうー、グレンちゃんはすーぐ怒るなぁ。ちょい待ちーな。まぁ……端的に言うなら女王のスキルは能力から考えて二つのパターンやな」
グレンが声を荒らげると、ハンスは指を二本立て答えた。
「二つ……?」
「せや。女王の年齢は恐らく最低でも60は超えとる。せやけど見た目からはそれが一切感じられん。つまりは何らかのスキルで若返っとるっちゅうわけや」
「なるほど……」
「ほんでや。ここが重要なんやけど、スキルでいくら外見を若返らせたところで体内は老化していくはずや。体内の機能が衰えたら人は簡単に死ぬ。それは細胞も同じや」
「さ、さいぼー……?」
ハンスの話す事は難しく、俺達が知らない言葉も沢山飛び出した。グレンもティアも、相槌を打ってはいるがどこまで理解しているのかわからない。だがハンスは説明を続ける。
「人間は様々な細胞で出来とる。それは外から見えるもんも例外やない。そん中でも特に年齢による影響が出やすいのが、肌や髪、ほんで声や」
「なるほど。だけど、女王のそれらはとても年寄りには見えなかったし、聞こえなかったな?」
「せや。つまり女王は体内をも若返らせとるっちゅうわけや。外見だけのハリボテやのうてな」
ハンスは淡々と説明を続け、俺とティアは何度か相槌を入れながら聞いていた。すると、中々核心に迫らないハンスの話に苛立ったのか、グレンは再度声を荒らげる。
「ダラダラなげーんだよ、テメェの話はよ! さっさと結論を言えよ!」
「えー……。今から言うとこやったやん……。はぁ……。つまり……以上の事から考えて、ワイの知っとる中で体内まで若返らせる事が出来るスキルは、"魂を操作する"【ソウル】か、あとは若返るとは少し違うけど"不老不死"の【ヴァンパイア】の二つや」
グレンに急かされ、ため息混じりではあるものの、遂に答えを出したハンス。
「【ソウル】と【ヴァンパイア】……。どちらも手強そうだな」
「手強いなんてもんやないで……。特にヴァンパイアは戦闘においても一級品のスキルや。何をさせても万能に強い。もし女王がそれならヤバいな……」
「女王のスキルがソウルであれば、問題ないのですか?」
ハンスは二つのスキルを口にし、特にヴァンパイアというスキルの強さを語る。するとティアがおもむろに口を開き、そう聞いた。
「うーん……問題ないことはないけど、ヴァンパイア程ではないし、戦いようはあるかな?」
「そうですか。なら問題ありませんね」
「何を根拠にンなこと言ってやがんだ? まだ女王のスキルがソウルだって決まったわけじゃねーだろ」
「いえ。ハンスさんが言うように女王のスキルがそのいずれかなら、答えはソウルで決まりです」
ハンスからの答えが意図していたものだったのか、ティアは安堵の表情を浮かべる。そしてグレンが珍しく冷静に詰め寄るも、ティアは女王のスキルをソウルだと言い切ってみせた。
「何でそう言い切れるんだ?」
俺はティアに理由を問うた。すると次の瞬間。ティアの口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「なぜなら、【ヴァンパイア】のスキルはラナ様のものですから」
「「「…………っ!?」」」
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