第6話 人斬り
グレンが人斬りという言葉を口にするとその場の空気が変わった。
「人斬りの件か……」
「人斬り……?」
「そーだよ! 人斬りだよ! どーすんのさ!」
「そうだよ。役人が対応できないから僕達に依頼が来たって言うのにこれを放置することは出来ないよ」
三人は真剣な顔付きで考え込んでいる。
「なぁ、その人斬りってなんだ?」
「ん? あぁ。人斬りっつーのは夜な夜な何の罪もねぇ人を無差別に斬りつけて回る極悪人だ。しかも役人達は犯人の顔や名前すらわからねぇときた。男か女かもだ。町の連中は皆ビビりまくって夜も出歩けねぇ。んで俺らのとこに捕縛依頼が来たっつーわけよ」
俺の問いにグレンは真面目な表情でそう答えた。
――そんなに派手に暴れ回っていて、顔も名前も性別すらわからないって……そんな事あるのか?
でもどうやらその依頼を先に片付けないと俺の故郷探しは後回しになりそうな雰囲気だしな。
それに俺は金が無いから手伝ってくれても何のお礼も出来ない。
……あっ! そうだ!
「あの……さ。もし良かったらその依頼、俺にも協力させてくれないか? 俺の故郷探しを手伝ってくれるお礼って事でさ」
俺がそう言うとシルキーとルドルフがバッと俺の方に振り返り俺の手を取る。
「リオっち……君いい人だね……! 勿論大歓迎だよー!」
「リオンさん、本当ですか!? それは凄く助かります! 是非お手伝いを!」
「あ、あぁ! まぁ依頼の代金を支払えない代わりにさ……!」
「ちょ、ちょっと待てお前ら! ――って聞いちゃいねぇ……」
こうして俺はグレンの制止を他所に、オアシスの面々に加わり人斬りの捕縛依頼を手伝うことになった。
◇
そして早速俺を含めた四人で、人斬りを捕縛する為の作戦会議が開かれた。
とは言っても、まだヨスガの里に来て数時間しか経っておらず、右も左もわからない俺はとりあえずグレン達に色々と質問してみる事にした。
「それじゃあまず、グレン達が持ってる人斬りについての情報を教えてもらえないか?」
「そうだな。俺達が持ってる人斬りの情報は――――わりぃ……! 何もねぇんだ……!」
「なーんにもわかんないだよー!!」
「面目ないです……」
「はぁ!? ちょっと待てよ、みんな……? それ本気で言っているのか!?」
俺が再度確認の為、そう聞くと三人は申し訳なさそうに頷いた。
――まさかここまで何の情報もないとは……。
ていうかどうするんだ?
このままじゃ人斬りを捕まえるなんて夢のまた夢なんじゃ……?
そうなると、俺の故郷探しはもっと遠くなる……。
それはまずい……!
「――――だが、作戦はある!!」
俺がそう思案していると、グレンは声高々に叫んだ。
「作戦? 情報も何も無いのに?」
俺が怪訝な表情でそう聞くと、グレンは得意気な顔で何度か頷いて話を始める。
「あぁ。リオンの言う通り人斬りの情報は何もねぇ。だから相手の元へ踏み込むことも出来ねぇ」
すると次にルドルフが更に得意気な顔で口を開いた。
「ですから僕達は人斬りを割り出す作戦を立てました。その作戦とは――――今晩、誰も家の外に出ないよう町中に予め伝えておきます。城に住んでる将軍家と侍は滅多に町には出て来ませんし、そこにはあえてそれを伝えません。そうすれば今晩、サクラ町にいるのは僕達と、他にいるとすれば人斬りだけという事になります」
――あぁ、なるほど。
今のでだいたい理解出来たぞ。
捕縛するとなれば遅かれ早かれ人斬りとは対峙しなければならない。
でも、人斬りの情報は一切無いのには変わりは無いし、誰をどう捕縛すればいいかわからないのも事実。
なら町に自分達と人斬りしかいない状況を作れば、人斬りの情報が無くても、俺達の前に現れた奴が人斬りだと断定できるというわけだ。
「流石だな、ルドルフ! 頭が良いって言われてるだけはあるな!」
「いえいえ、それ程でもないですよ!」
俺がそう褒めるとルドルフは照れ笑いを浮かべながら頭を搔いていた。
その仕草はグレンにそっくりで、なんだか見ていて微笑ましかった。
「だが残念な事に、この作戦には穴がある」
俺がそんな気持ちでいるのを察してか、グレンは真面目な表情で俺にそう告げる。
「え? そうなのか? 聞いたところ、あまりそんな風には感じなかったけどな?」
「ごめんなさいリオンさん。兄さんの言う事は正しいです。というのも実は、この作戦には絶対条件があるのです」
「絶対条件……?」
俺がルドルフの言葉をそのまま返すと、彼は深刻そうな顔で説明を続けた。
「はい……。それは人斬りの正体が町の人達以外でなければいけないという事です。その理由は、人斬りが町の人だったら家から出るなと僕らが伝えた時点で作戦がバレてしまって町へ出てこないからです」
「あぁ確かに……。じゃあグレン達は人斬りが城に住んでる奴らだと思ってるってことか?」
ルドルフの説明を受け、俺はその絶対条件とやらを理解した。
そして俺は人斬りの正体が城に住んでいる奴らだと結論付けるとグレンに目をやった。
「あぁ。俺はそう睨んでる。この町に刀を持った奴はそういねぇ。いても役人か、他にいるとすりゃあゴロツキくれぇだ。は今やオアシスの従業員として俺の下で働いてっからその線は薄い。となると将軍家か三人の侍が怪しくなってくるだろ?」
「なるほど。でも町の人の中に人斬りがいる可能性も無くはないんだよな?」
「あぁ。俺達は町の奴らに外に出るなと伝える。だが今晩、人斬りが現れねぇとなると、サクラ町民の中に犯人がいるっつーことになるな」
グレンはそう思いたくないのだろう。
口ではそう言っていても、表情がそれを物語っていた。
「そうか。なら、今日で最悪の場合でも、人斬りがサクラ町民か、城に住んでる奴らかのどちらかに絞られるってわけだな」
「そういうこった。まぁ俺の中ではほぼ城の奴らだとは思ってんだけどな。――――それにしてもリオンは理解が早くて助かるぜ。シルキーを見てみろ、ポカンとしてんだろ」
そう言うとグレンはシルキーを指差す。
俺は言われるがまま、シルキーに目をやると彼女は口を大きく開けて宙を見ていた。
これがポカンとするという事かと、誰が見てもわかる程にポカンとしていた。
それを見たルドルフはため息をつきながら頭を抱えていた。
するとグレンはそんな空気を断ち切る様に、パンッと手を叩くと口を開いた。
「よし、んじゃあ早速今晩に作戦決行だ!」
「そうだね。さっさとこの案件を終わらせて、リオンさんの故郷探しをしないと……!」
「ルドルフ、ありがとう……」
「ん……? もう話は終わったぁー?」
「テメェ、マジでずっと寝てやがったな?」
グレンとルドルフ、シルキーと俺の四人は、それぞれの準備をして、人斬りが現れるという深夜になるのを待った。
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