第91話 謎の塔
集落の人々の異変に気付いた俺達は、階層の中心地へ行く事にした。
そして暫く歩き続け、漸く中心地へと辿り着いた俺達は、そこで得体の知れないものを発見する。
「何だこれ……」
「あん……? 壁の中に壁……だと……?」
俺とグレンが思わず声を漏らしたソレは、中心地全体を覆うようにそびえ立つ高い壁だった。
「まるでもう一個のアンダーワールドみたいやなぁ」
「確かに。壁に囲まれた中は一体何があるというのか……」
ハンスの言葉は的を得ていた。俺達の目の前にある大きな壁は、この世界と同じく円柱状になっており、外からは決して中を覗き見ることは叶わなかった。
サナエは中の様子を怪訝な表情で伺っていた。
「真っ白い壁があるだけで、入口なんて何処にも無いぞ? 何処から入ればいいんだ?」
「いや、ちょい待ちリオンちゃん。コレ……扉ちゃうか……?」
俺の言葉を聞き、ハンスは壁をよく観察し始めた。そして何かを見付けた様子で壁を指さした。
「確かに僅かだが、ここに隙間があるな。だが、肝心の持ち手がないぞ? これでは外から扉を開ける事が出来ないではないか」
「チッ……。持ち手がねぇーってことは、そもそも外から人を入れる気もねぇーんじゃねぇか?」
サナエが壁にあった僅かな隙間を見付け、ハンスの言う通り、コレが扉なのだと俺達は認識した。だが、肝心の持ち手が無く、グレンは舌打ちをして壁を睨み付けた。
「それにしても何なんだこれは……? 外からは入れない円柱……いや、塔か……?」
「まぁお察しの通り、十中八九こん中に人はおるやろうなぁ」
「だが何の為にこんなものを? 外の人達はあのような劣悪な環境で働かされているのに対し、この中の人達は何をしているのだ?」
「ンなもん聞いてみんのが一番じゃねぇか」
「せやけど、グレンちゃん。中に入られへんことにはどうする事も出来ひんで?」
グレンの言葉にハンスは両手を上にあげ、お手上げ状態をアピールした。俺達はここに来て、行き詰まってしまった。とどのつまり、八方塞がりだ。
すると、突然扉がズズズ……と動き出し、俺達は咄嗟に壁伝いに死角へと回った。
「何で隠れる必要があんだよっ……!?」
「シッ……。グレン、静かにしろって。誰か出てくるかもしれないだろ……!?」
「そらぁ出てくるやろー。扉が開くんやから……」
俺達は息を殺し、扉の中から出てくる人物を待った。
すると、扉はゆっくりと外側に開き、中から若い女性が姿を現した。
「誰か出てきたな……。若い女……? 武士では無さそうだな……」
「あたりめぇーだろーが……! テメェはほんっとうに馬鹿だなァ……!?」
「お前らうるさいぞ……。ん……? あの人、誰かを探しているのか?」
俺はその女性が辺りをキョロキョロと見回しているのに気が付いた。するとその女性の元へ遠くから一人の男性が走って来た。どうやら服装から察するに集落の人のようだ。
「はぁ……はぁ……。すみません、待たせてしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ。それで、約束の物は……?」
「はい……。ちゃんと持ってきました……!」
そう言うと男性は、女性に手のひらくらいの大きさの袋を手渡した。
「あ? ありゃあ金か……?」
「いや、もしかしたら魔石かもしれへんで?」
「ふっ。馬鹿共め。アレは木の実に決まっているだろう……!」
「いや、お前らほんと……。ちょっと静かにしてくれ。二人の会話が聞き取れなくなるだろ……!?」
俺はくだらない話を続ける三人に注意をしつつ、二人の会話に聞き耳を立てた。
「そ、それで……! 約束の物はお渡ししました……! なので、あの……!」
「すみません……。女王様の許可が得られなかったので、今回も……」
「そ、そんなァ……!? や、約束と違うじゃないですか……!!」
何やら男性は、以前交した約束を反故にされたのか、絶望した様子で膝から崩れ落ちた。そんな男性に対し、女性はひどく申し訳なさそうにしていた。
「すみません……。では私は失礼します……」
そう言い残し、女性は中へ戻ろうと身体を反転させる。しかし男性は諦めきれなかったのか、大きな叫び声を上げた。
「待ってください……!! 十年……。十年ですよっ……? 十年間も娘に会っていないんです……。お願いですから……娘に……。一目だけでもいいですから……!!」
「すみません。それは出来ないのです……。それでは……」
そう言い女性は、男性に軽く頭を下げ、中へと入って行き、扉を閉めた。
残された男性は地面に額を擦り付けながら涙を流していた。
「あの人……。娘が中に……? しかも十年も会えていないなんて……」
「これはなんや、きな臭くなって来たなぁ。中では一体何が起こっとるんやぁ?」
「わからない。だが、あの絶望に満ちた男の表情……。あれは集落にいた人達と同じだ」
俺とハンスとサナエの三人が、泣いている男性と先の女性について思案していると、グレンが男性の元へと駆け出した。
「お、おいグレン……!?」
「ンなことより、今はあのおっさんに話を聞く方が早くぇーだろ! それに……生きてんなら、親子は一緒にいた方がいいに決まってらァ……」
俺の呼び掛けに振り向いて答えたグレンは、男性の元へと駆け寄ると、背中を優しくさすり声を掛け始めた。残された俺達も急いでグレンに続いた。
この階層では一体何が起きているのか。俺達はその男性から衝撃の事実を聞かされる事になる。
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