代償θ【WEB版】〜転生に出遅れたけど、才能溢れる大貴族の嫡男に生まれたので勝ち組かもしれない
漂鳥
第一部
第一章 門
第1話 転生門
真っ暗な空間の中、不思議な門がある。
正確に言えば、俺たちを中心として十字方向にひとつずつ、合計四つの門が光り輝いていた。
「やっべえ。謎の空間移動かよ」
「ザ・神隠しだったりして」
ふざけた二人の男子の声が、張り詰めた静寂を破った。
「はにゃ? やだ、ここどこ?」
「ちょっとぉ、マジ洒落にならないですけどぉ」
「暗いし〜ピッカリンだし〜意味わかんない」
口調だけはいつもと同じノリの女子たちの声が、続けて聞こえてきた。
見回せば、一緒に行動していた八人全員が、この見通しがきかない暗い空間にいた。そして、当然のことながら、みんなひどく戸惑っているように見える。
「さ、
「俺だって、なにがなんだか分からないよ」
隣にいた
「だ、だよね。こんなの変。普通じゃない」
「ああ。どう見ても異常事態だ」
なにしろ、ここに来た経緯さえ、
鎮守の森。苔むした鳥居。
急な勾配で森の奥に続く、石造りの狭い階段を見上げた。
そこまでは覚えている。でもそれ以降の、この状況に至るまでの直近の記憶が、すっぽりと抜け落ちていた。
「あの青く光ってるの、なんか門みたいに見えない?」
「見える。でも、向こう側は真っ暗だ」
白い二本の柱が上部で円弧状に繋がっていて、柱間の開口部にあたる部分は、人が二人並んで通れるくらいの幅がある。パッと見て門かなって思ったけど、杵坂も同じ印象を抱いたみたいだ。
「なんだろうね、あれ。とても目立つし、すっごく気になる。咲良くんは?」
そりゃあ気になるさ。だってこの場所には、それしかないから。
門が放つ透んだ青い光が、俺たちの顔や身体を照らしている。なのに、辺りは墨で塗り潰したように真っ暗で、他には何も見えやしない。ただ門と俺たちの姿だけが、不自然に青白く浮き上がっていた。
「それより、周りが暗すぎないか? 外なのか建物の中なのかも分からない」
「確かに暗いね。あの門みたいなのが、あんなに光ってるのに変だよね」
ここで、前にいた女子三人が一斉に振り返り、俺たちの会話に入ってきた。
「ねぇ、杵坂。気になるなら、あのピッカリンなやつを調べてきてよ」
視線の先の門を指差し、杵坂に指示を出す
「うんうん。美波が適役だね!」
「私もそれがいいと思う」
「えっ、私が?」
乾井に追従する
「他に誰が行くっていうの? 美波が責任取って調べてきてよ」
「だよね。自分でも分かってるんでしょ。さっき、どうしようって言ってたじゃない」
「そ、それは、確かに言ったけど……」
「私も聞いた。あれって、自分のせいだって思ってるから出たセリフだよね?」
選択授業の地域研究で、二班一緒に行動していた。地域に残る古い伝承をテーマにしよう。そう提案したのは杵坂だ。そして、訪れた曰くつきの神社で、何かがあった。だからといって、責任を取れと迫るのは違うような気がする。
「おい、なに揉めてんだよ」
「杵坂が何かしたのか?」
残りの男子たちが、女子たちの背後から顔を出して声をかけてきた。
「美波がアレを調べてきてくれるって」
「へぇ。そりゃあ助かるな」
「でも、一人じゃ危なくね?」
「そう言うなら、
「は? 俺? ついて行くなら咲良じゃね? だって班長だろ」
だっても何も、お前らに押し付けられた班長じゃないか。迂闊に近づきたくないのに、黙っていたら何をさせられるか分からない。
「もう少し様子を見てからの方がよくないか? なんか得体がしれないから」
ここは、素直に従ってはやらない。
入れと誘うかのように、これみよがしに存在する四つの門。爽やかな色の門柱とは対照的に、開口部には暗闇が覗いていて、とても気軽に調べに行く気はしない。
「咲良、随分と腰が引けてるじゃねえか」
「当たり前だろ」
こんな超常現象に巻き込まれて、強気でいられるわけがない。虚勢ですら無理だって。
「もう、あんたたち。男のくせに頼りにならないんだから。美波、私がついていってあげるから、一緒に見に行こう。ね?」
「えっ、穂乃果ちゃん?」
"ね?"に対する同意がないまま、乾井が杵坂の腕を取り、強引に背後の門に引っ張っていく。なんかいつになく積極的だ。
二人は門を正面から眺め、続いて門の周りをゆっくり目にぐるっと一周すると、再び正面に戻ってきた。
「うーん。門だけ見ると綺麗なのです」
「後ろには何もなかったわ。っていうか、歩くのも怖いくらい真っ暗。だから要は、これを潜るとどうなるかよ。美波、ちょっと中を覗いてみようよ」
「中を? でも、あんな暗闇ですよ」
「だからよ。こんな形をしてるんだもの。門を境に景色が変わるとか、外に出られるとか、そういう仕掛けがありそうじゃない?」
ああ、なるほど。随分とフットワークが軽いと思ったら、国民的人気アニメに出てくる便利なドア。あのイメージなのか。
「でも……」
「ちょっと覗くだけよ。さ、やるわよ」
乾井が杵坂の背中に手を回し、門の暗闇に近づいていく。
「やっぱり私、無理。やめようよ」
眼前に門が迫るくらいになって、杵坂が躊躇う様子を見せた。
「ここまできて、無理なんて言うわけ? ダメに決まってるじゃん」
「だって……えっ、あ、危な……きゃっ!」
小さな悲鳴を残して、杵坂の声がプツリと途絶えた。声だけでなく、その姿も忽然と消えてしまった。俺たちの目の前で。
乾井が押したからだ。思いっきり、杵坂に体当たりをするように。
「何やってんだよ!」
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