09 二つの分類
「さて、始めるか」
昼間、図書室で調べものをした。そのノートを広げ、書き物机の引き出しから、転生時のことをまとめた別のノートを取り出した。
そして、職業について書き留めたページを開く。
【職業】早成型
【基礎能力】◎
【応用能力】◯
【技能】◯
特典:
【職業】順成型
【基礎能力】◯
【応用能力】△
【技能】△
特典:
【職業】代償
【能力】未開花
【技能】―
特典:
あのとき知り得た情報は、簡潔過ぎて意味が分からなかった。これを、今日調べてきたものと見比べてみる。
この世界では、七歳になると奉職神殿で職業を授かることができる。しかし、その秘匿性から、職業辞典といった全てを網羅するような便利な資料は存在しなかった。
いろんな資料を引っ張り出して見つけたのは、職業型に関する次の記載で、保有する固有能力の数の違いにより、職業を3つの型に分類していた。
・1型:複数の固有能力(概ね3つ以上)を保有する。実務作業や修練を積むことによる技能向上が顕著で、実用的な派生能力が増え易い。市井の一般職や職人、下級から中級の戦闘職に多い。
・2型:固有能力数は1または2以下である。修行に邁進し貴職に至れば、強力で個性的な派生能力が芽生えることがある。闘気や魔術を扱う職業に多い。
・3型:固有能力はひとつである。授職時には能力が未発達なため有用ではないとされる。しかし、種族特有の試練を克服し、かつ適合条件を満たせば固有能力が大きく変化する。並人ではない特定の人種に現れる。
二つの分類を突き合わせると、基礎能力→固有能力、応用能力・技能→派生能力と置き換えられた。それにより、ずっと疑問だった◎◯△などの記号の意味が見えてきた。
「これって、能力の質についての優劣じゃない。たぶん固有能力の手軽さや、派生能力の獲得のしやすさだ」
転生直後から能力を発揮できるか否か。
転生した時代によっては、それが命運を分けることもあり得た。その観点からすれば、有意義な情報だと思う。不親切ではあるけどね。
職業型は、1型が早成型、2型が順成型に、ほぼぴったり当てはまる。そして、残る3型はというと。
【理皇】と被っている部分が多い。だけど、違う箇所もあるんだよな。
試練は十分過ぎるほどにあったが、種族特有とは言い切れない。固有能力に変化はないし、人種についても合致しない。今は改造の影響なのか人種欄が文字化けしているけど、生まれた時は、ありふれた並人だった。
結論を言うと、俺の職業は、ここにはない別の型、もしくは3型の亜型じゃないかと推測できる。
ちなみに、3型の説明にある「並人ではない特定の人種」。これが具体的には何かというと、獣の特徴を色濃く残す獣人や、爬虫類系の特徴を持った鱗人、小人系人種の窟人などを指しているらしい。
いまだそういった他人種を目にしたことはないが、彼らの国や集落は、大陸の東側の辺縁部や島、あるいは大陸西部に広がる山岳地帯の奥地や砂漠だと書いてあった。
辰巳が潜っただろう白い門。1型や2型とは色が違ったから、あれが3型なのかもしれない。もしそうだとしたら、辰巳は、ここから遠く離れた土地に生まれている可能性が高い。なら、一生会うことはないかな?
さて。【門番@】。これについて考える。
現状では、顕界(地上世界、現世)と幽明遊廊との境に階層間移動を可能にする穴を開けて、門として維持・管理することができる。
課金による門のクラスアップや機能拡張は、まだ試していない。
しかし、無課金のままでも、おそらく早い段階で、職業が有する派生能力が増えていくと予想している。その根拠は、【門番@】の職業型にあった。
職業:【門番@】
固有能力:【施錠】【開錠】【哨戒】【誰何】
派生能力:【管理台帳】
改めて生体サーチの結果をみると、固有能力が最初から4つもあることが確認できる。そう。この数が決め手になった。
分類通りに【門番@】が1型(早成型)なら、使えば使うほど、派生能力が生まれやすいはずだ。門に関する派生能力ってなんだろう? すぐには思いつかない。
当たり前だけど、【門番@】には転生特典である技能解説書が付属していない。だから、その都度湧きおこる閃きや直感頼みになっちゃうんだよね。それがじれったい。
いくら文献を調べても【門番】という職業は出てこなかった。【守衛】や【門衛】はあったのに。まあ、特殊な職業っぽいから、焦らず手探りでやっていくしかないか。
早成型といえば、青い門を潜った連中は、今頃どうしているだろう?
杵坂、柳、小酒部、御子柴。
転生職が早成型の彼らは、生まれつき能力が使えた可能性が高い。
といっても、能力次第だ。授職式までの七年間。目に見える形で人前で能力を使えば、注目を集めるはずで。それは、転生者であることがバレるリスクに繋がる。
四人の中では、何も分からないまま転生した杵坂が心配だ。あのとき、いったい何を思って、乾井は杵坂を門に押し込んだのか?
女子四人の実質的なリーダーは乾井だった。左坤は乾井の腰巾着的な同調仲間で、御子柴と杵坂は、そこまであの二人と仲がよかったようには見えなかった。だから、一緒に班を組んだのは意外だった。
乾井と左坤の二人が杵坂を振り回し、御子柴はそれに巻き込まれないようにと、軽口を叩きながらも保身に回っていた。だから、てっきり隙の多い杵坂が生贄に選ばれたと思っていた。あのときは。
でも、今にして思う。なぜその生贄が、俺じゃなかったのか?
よくよく考えたら、あの状況って不自然なんだよね。もう随分と前のことだから、記憶が曖昧になってきているが、乾井は最初から杵坂をターゲットにしていたように思える。
俺は男だから力任せに突き飛ばせない。それが理由か?
あるかもしれない。でも、ちょっと弱いんだよな。いつものやり口なら、乾井自身は直接動かない。他の男子を上手く丸め込み、損な役目は決まって俺に押しつけていた。
日頃から乾井は辰巳と仲がよかったから、二班合同で課題にあたることになって、警戒したんだ。また都合よく使われるなって。
ところが、転生門を前にして、乾井はまず杵坂に声をかけた。門を調べに行けと圧力をかけ、ついていってやれよと柳が俺に振ったときにも、珍しく同調せずに、自ら杵坂と一緒に門を見にいくと言い出した。
いつも違う動きだ。あの時に限って積極的だった。
にも拘らず、杵坂を犠牲にして情報を得た青い門は、先を越された体でスルーして、次に出てきた赤い門には迷わず飛び込んでいる。でも、一番問題なのはそこじゃない。
あのときの、乾井のセリフがおかしいんだ。
『せっかく有益な情報をあげたのに』
まるで情報が手に入ることを知っていたかのような口振りじゃないか。頭の隅で気にはなっていたんだ。でも、あの状況では、どうとでも解釈できる気がして、深く考えてこなかった。
勘ぐり過ぎかな? 異世界転生なんて非常事態だ。動転していただけかもしれない。
——いやいや。知っていた可能性はあるよ。やあ、久しぶり。ちょっと見ない間に、随分と健康そうになったね。
初代様! 唐突ですね。そして、お久しぶりです。今仰ったことって、どういう意味ですか?
——おっと、寝間着姿じゃないか。ごめん、君が子供だったのを忘れてた。こっちにいると、時間感覚がズレちゃって。良い子は寝る時刻だよね。出直そうか?
いえ。昼に寝だめしているので、まだ大丈夫です。それより、何か転生についてご存知のことがあったら、是非とも教えて頂きたい。
そうだよ、そうだった。初代様は転生者だ。それも大先輩だ。気になることを、もっと早くに聞いてみるべきだった。
—— 寝なくてもいいの? じゃあさ、一旦切るから、君の方から交信リンクを開き直してよ。その方が、世界秩序に気兼ねせず、落ち着いて話ができるから。
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