隠しエピソード2 二つ目の依頼

「それは、いったい何ですか?」


「聞きたい? そう言ってくれると思った。やっぱり君いいよ」

「とりあえず、どんな依頼なのかは伺っておきたいです」


 いや、さっき「どっちを先に聞きたい?」って言ったじゃん。だから聞き返したのに。


「疑問符がつく方の頼みはね、僕の代わりに探して欲しいものがあるんだ」

「探しものですか。いったいなにを?」


 この世界に来たばかりで、地理の把握どころか右も左も分からない。そもそも、屋敷の外に出たことがない。そんな俺に探しものを頼む理由。それが気になった。


「僕には三人の子供がいた。でも、手元に残ったのは一人だけなんだ」


 えっ、それってどういう意味? もしかして、めっちゃ重い内容だったりする?


「えっとそれは、残るお二人は遠くに行ってしまわれた、ということですか?」

「ほぼ正解。ただ、自分の意志じゃなくてね、攫われてしまったんだよ」

「攫われた? 犯人は見つからなかったのですか?」


 子供が二人も攫われるなんて。かつてこの地は不毛の荒野で、人の出入りが激しい開拓地でもあったと聞く。当時は、そういう事件が横行してたのか?


「一番上のレオについては見当はついている。連れ去ったのは風の大精霊級の子でね。愛情が極まった上での拉致だった。あっという間に、手が届かない遠くに連れ去られてしまった」

「遠くに。ここではない土地にですか?」

「そう。結局は、レオが絆されて一緒になったと、それこそ風の噂で聞いている。だから、そっちは探すと言っても現状確認程度でいい。問題は、もう一人のテオの行方なんだ」


 誘拐犯は精霊だった。ヤバいな精霊。それに愛され体質。俺も気をつけた方がいいのかな?


「かなり昔の出来事ですよね? 言ってはなんですが、とうに寿命を迎えられているのでは?」

「それがね。どんな形かはよく分からないけど、テオはまだ生きてはいるらしい」


 生き方に形があるの? なんかホラー的なものを想像してしまう。


「なぜそれが分かるのですか?」

「小さな子たちが、テオを見たって言うんだ。彼らは『存在』が小さいだけに自我が希薄で、得られる情報は断片的なのだ。だけど、集めればだいたいの居場所の見当はつく。あとは君次第かなぁ。誰もが辿り着ける場所ではないから」


 俺次第って言われても。攫われた子供の行方なんて、とても大事なことだと思うのに、それでいいのか?


「あの、達成イメージが湧かないです。何度も命を助けて頂いて、俺にできることなら力になりたいと思っています。でも、まだ自分のこともままならなくて。恩知らずかもしれませんが、最優先にはできません」

「うん、正直でいいね。それで構わない。もちろん、君は君の好きなよう生きていいんだ。だから、余力ができたらでいい。その時は、僕に力を貸して欲しい。今すぐじゃない。君がもっと大きくなったらね」


 時間の縛りがないのなら。要求の完全クリアでなくてもよければ、俺でも力になれるかもしれない。少なくとも、やってみるくらいはしてもいい。


「それなら。自分ができる範囲内でしたら、お引き受けします」

「ありがとう。じゃあね。君には恙なく成長して欲しいから、先払いで対価を渡しておくよ」


 対価の先払い。このタイミングでですか? ぶっちゃけもらうのが怖いです。


「依頼をどこまで達成できるか分かりません。だから、現時点で対価をもらうわけにはいきません」

「そう言わずにさ。もらっておいて損はないよ。なにしろ、君はまだまだ虚弱な上に、特殊体質でもある。絶対に役に立つから」

「というと、健康に関するものですか?」


 掌を返すようだけど、それだったら是非欲しい。今まで散々助けてくれていた温かい力。もしあれに準ずるものであれば、相当な助けになるはずだ。


「そう。君は身体を大改造しちゃったから、不具合が起きたときに困ると思うんだよね。自分で治療メンテナンスできた方がいい。いずれ君が、この地を離れた時にも役に立つ能力だし、精霊紋を刻むついでに渡しておくよ」

「ご配慮に感謝します。そういうことであれば、ありがたく頂きます」

「君はどうも厄介なものに好かれるみたいだから、その点でも心配なんだよ。だから過保護なくらいで丁度いい」

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