43 不穏な風
「アイ、あのエフェクトはなに? それに地球的な妙な文言も聞こえたけど」
《新装備を構築するにあたり、どんな形がよいだろうとマスターの記憶や地球発の知識を参照しながら模索しました。その際にスカラが地球の秘術や呪法に強い興味を示しまして》
「俺の記憶?」
《はい。退魔師や呪術師が登場する創作物の影響を強く受けてしまったようです。それでですね。さきほどスカラを問いただしたところ「ヤッテミタカッタ タノシカッタ」という返事が返ってきました》
「……つまり、あの骸骨や九字切りはスカラの趣味?」
《全てがというわけではありませんが、概ねそうなりますね。スカラは戦闘特化といいますか、理律の攻略向きにカスタマイズしたため情緒に幼いところがあります》
「そうなんだ。成長を急がせたから仕方ないのかな。過剰演出にならないように言っておいて……っていうか、スカラと直接話はできないの?」
《言語学習が進んでいないのもありますが、性格的なものがあり、今は無理だそうです》
好戦的だと言ってたからそのせいかな?
「口調が喧嘩ごしになるとかだったら、俺は気にしないよ」
《いえ。そうではなく、マスターと直接話すのは、本人曰く「ハズカシイ ムリ」だそうです》
「そ、そうなんだ!? なんでだろう?」
厨二的で好戦的なのにシャイ? すっごく話してみたいけど、ごり押しして変に拗らせちゃってもマズい気がする。
《スカラはまだ生まれたてに近い状態なので、時間が経てば情緒面でも他の二体に追いつく……かもしれません》
「わかった。そのうち話そうねって伝えといて」
《了解です》
こんなやり取りもあったが、結局、職業に関わることなので詳しくは言えない――という建前で周囲には押し通した。理蟲の説明をするわけにはいかないし、こればっかりは仕方ない。
あの襲撃の後、現場処理に少なくない時間を割かれてしまったが、その後は順調に王都へ向かって進んで行った。
ところが、王都からひとつ手前の宿場町に着いたとき、フェーンが急に落ち着きがなくなって、苦情を漏らし始めた。
――イヤナ ニオイ スル
「それって、どの方向から臭う?」
――アッチ カラ ニオウ
東だ。やっぱり王都方面か。
嫌な臭いと聞いて、すぐにルーカスさんの話を思い出した。東から来た風の精霊たちが同じことを言っていた。人が多い場所から嫌な臭いがするって。
本音を言えば、予想が外れて欲しかった。
弟妹が住んでいる王都で呪術的な何かが仕掛けられている。その影響がこの街まで波及するほどの規模で。
確証を得るには実際に『視る』のが早い。果たして、臭いの素がどれくらいあるのか?
アイ、空気中の呪素を確認したい。臭う程度だから、呪素の密度は希薄だと思うんだよね。魔眼の感度を上げれば見えるかな?
《呪素感知用の高感度フィルターを搭載済みです。任意に感度調整を行えます》
了解。ありがとう、準備が良くて助かるよ。じゃあ、早速フィルターを通して見てみるね。
「……うわっ! ばっちい! えっ!? こんなに? これって、吸っちゃダメなやつだよね?」
フィルター越しで見ると、思ったよりくっきりはっきり呪素の存在を視認できた。
視界に黒い煤色の粒子がフヨフヨと浮かんでいる。例え微量でも、呼吸をすれば否応なしに吸い込んでしまうのだから、よくないよね?
アイ、身体への影響ってどうだろう?
《低密度ですので、ある程度吸ってしまっても、呼気から全て排出されるはずです》
この程度なら体内に蓄積されずに済むってこと?
《はい。この程度であれば。しかし、呪素が空気中に高密度に存在する環境で長時間過ごせば、摂取量が排出量を上回る事態もあり得ます》
だめじゃん。これから向かう王都は、まず間違いなくそんな場所なのだから。対策を考えないと。
そうだな。防毒マスク的なものが作れたらいいんだけど……こういうのは、専門家に聞くのが早いよね。
「空気を綺麗にする方法? なぜここで、そんな質問を?」
「魔眼で見えるんです。空中に汚いものが浮いているのが」
「魔眼で!? ちょっと待って」
バルトロメウス先生が、慌てて眼鏡を取り出した。あれで見えるなら説明を省けるけど、果たしてどうだろう?
「……駄目だな。特に何も見えない。汚いものって、ずばり何か分かる?」
「呪素です。王都から吹く風に呪素が含まれているみたいです。これから先、王都に近づくにつれて、どんどん汚染が酷くなることが予想されます。大量に吸い込むとマズいので、なんとかならないかと思って」
「それが本当なら……君がそんな嘘をつく理由がないか。分かった。対策には心当たりがある。僕がなんとかしよう……といっても、全員の分を用意するには労力と時間が多分にかかる。あと材料も集めないといけない」
「材料ってなんですか?」
「魔封石と、加工した魔封石を嵌める魔銀製の台座だ。魔法陣を刻むための工具や溶媒は、当面は僕の手持ちで間に合うと思う」
「魔道具を作るのですか?」
「そう。風魔術を利用した魔道具だね。材料は、そう珍しいものでもないので、魔道具工房に尋ねれば手に入るはずだ」
「すぐに手配します」
「出来上がった魔道具を装身具に仕立てて身につければ、周囲に清浄な空気を纏うことができる。ただ有効範囲が狭いから、首元に下げるような形で、一人につき一つ魔道具が必要になる」
「じゃあ、装身具用の鎖、あるいは飾り紐なんかも必要ですね」
「そうだね。作らなければならない数が多いから、リオン、君にも手伝ってもらうよ」
「えっ!? 全くの初心者ですよ!?」
「大丈夫、大丈夫。魔法陣自体はそれほど複雑じゃない。これも実践的な魔術の授業の一環だ。失敗してもいいように、材料は余分に揃えてもらおう」
そこから、三日間街に逗留し、先生と俺とでペンダントタイプの魔道具を作り続けた。
他の人たちには、出来上がった魔道具を吊るすための飾り紐や革紐を編んでもらった。貴金属製の細鎖は宝飾品の類いになり、かなり高価なのと人数分揃えるのが難しかったため、紐で代用することにしたのだ。
材料をかき集めて内職に徹した結果、なんとか予備を含めた人数分を用意することができた。
銀色のシンプルな台座にカボションカットの丸みがある石が嵌っている。最初は透明だった石の色は、魔素を充填したら艶のある緑色に変化した。
「リオン君は案外器用だね。ここまで正確に魔法陣を刻めるなら、魔道具技師にも適性がありそうだ」
「ご指導ありがとうございます。細かい作業だったので、最初はかなり緊張しました」
魔銀に特殊な塗料で魔法陣を描き、これまた特殊な溶液に沈めると、塗料を描いた部分を残して魔銀が腐食していく。要はエッチングに似た表面加工だ。
地図トレース職人として鍛えた集中力で、小さな魔法陣を幾つも描いた。並列思考と俯瞰投影を駆使して頑張ったからね。
「当面はこれで足りるだろうけど、王都に行ったら増産するようだね」
「はい。王都邸には結構な人数が詰めていますから」
出来上がったペンダントを全員に配布した。肌身離さず、寝るときも身に着けているようにと念を押して。
「ジャスパーも、ジェイクも、ルイスも、絶対に外しちゃだめだからね」
「はい! 絶対に外しません!」
「うん。外さないよ!」
「これ、姉ちゃんたちが見たら絶対に羨ましがる」
「そう? 見た目は綺麗だけど、この石は宝石ってわけじゃないよ」
パッと見は翡翠に似ているけど、シンプルなデザインだから、若い女の子が欲しがるかな?
「十分に綺麗です。それにリオン様のお手製っていうのが姉ちゃんたちに知れると、それはもう大変なんです!」
えっ!? 大事なのってそこ?
「そうなんだ。じゃあ、材料が増えたらマイラとエマの分も用意するよ」
「本当ですか! ありがとうございます。姉ちゃんたち、絶対に喜びますよ!」
――代償θ 明日12/25発売です! 早いところでは書店に並んでいるかも――
ご購入のご検討をよろしくお願い致しますm(__)m
売れないと編集さんが大魔神(知ってる?)と化してしまうかも。
ぜひぜひ、お願いいたします~!!
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