第二章 自己開発

第7話 目覚め ☆


 目を空けているはずなのに、よく見えない。ピントが合わないというか、視界全体がやけにぼやけている。


 身体も思うように動かせないし、首すら回せない。いったいこれはどんな状況?


 転生門とかそういうのは全部夢で、酷い交通事故にあって、生死の境を彷徨っていたとか。うん。夢オチな上に悲惨な状況だけど、異世界転生よりは、よほど現実的なストーリーだ。つまりここは病院。


《自己開発過程 全自動進行中》


《序-4 集積記憶保全 完了》

《自己開発過程 全自動進行中》


《序-5 新旧記憶野統合 完了》

《自己開発過程 全自動進行中》


《序-6 生体サーチ 完了》


 個体名:――

 年齢:0歳 新生児 ※受胎後245日(早産)

 種族:並人

 肉体強度:弱弱弱

 転生職:【理皇】[蛛弦縛枷:➤➤➤ × ト⌘鏤∈]

 固有能力:(未開花)

 一般能力:―― 

 盟約:【@%ノ〆イ】

 加護:**

 特典:【自己開発指南】

 備考:転生 前世記憶


《自己開発過程 全自動進行中》

《序-7 駆動機関サーチ 完了》


 魔導中枢:稼働中/拡張中

 主記憶核:構築中

 補助記憶核:構築中

 魔心(魔力炉):未開通

 魔臓:未開通

 魔導腑:―

 補助魔臓:―


《自己開発過程 全自動進行中》

《序―8 封入θ型励起 秒読み(カウントダウン)開始 10、9、8、7……》


 頭の中に急にワラワラと意味不明な情報が流れてきた。ドンドンくる。やけに淡々としながらも、エンドロール的な勢いで。

 訳が分からなくてボケっと聞いている内に、不穏なカウントダウンまで始まってしまった。


 ちょっと待て。待て待て待て! 待つんだ、ストップ、一時停止、ハウス! ステイ!!


《#進行設定変更:一時停止》


 よ、よし、止まった。やった! セーフだ。たぶん間に合った。


 聞くまでもない気がするけど、念のため確認してみる。だって、とっても大事なことだから。声の主さん、この生体サーチとやらは、いったい誰……のですか?


《対象:前世個体名 咲良理央/現個体名 ――(未登録)》


 やっぱり。俺のかよ。そうじゃないかと思ったんだ。なら、本人の同意なく勝手にバンバン進めないで……の前に、答えてくれている機械音声君は、いったい何者なの?


《自己開発指南Ver.1.0.0》


 あっ、自己開発指南って特典のか。てっきり、ガイドブックみたいな閲覧方式だと思ってた。

 なんだ。Hey! って呼びかけると返事をする人工知能、いわゆるAI的なやつなのね。それもバージョン表記付きだなんて、全然異世界っぽくないな。


 まあ、いいや。進行設定について教えてくれる?


《自己開発指南Ver.1.0.0 #進行設定》

 全自動

 調整型自動

 一時停止⚫︎

 永久停止(ロック中)


 ふぅん。シンプルすぎて、あまり選ぶ余地がない。とりあえずまだ一時停止のままでいてよ。その状態で、進行設定以外にも、なにか設定があるなら教えて欲しい。


《自己開発指南Ver.1.0.0 #オプション設定》

 名称:――(未登録)

 進行設定:全自動/調整型自動/一時停止⚫︎/永久停止(ロック中)

 通知:ON⚫︎/OFF


 オプション設定なんてゲームみたいだ。でも、やはり項目が少ない。名称が未登録になってるけど、登録した方がいいの?


《登録推奨》


 推奨する理由は?


名称適応進化アップデート偽人格ペルソナ付与 音声変化 能力向上》


 名称適応進化に、偽人格付与。これって、名は体を表す方式で能力が伸びるってことで合ってる?


《肯定》


 ということは、大衆に認知されている名前のイメージに影響を受けるってことだよね?


《肯定》


 この場合の大衆って、今いるこの世界の住人を基準にしているのかな?


《肯定》


 そうなると困った。大問題だ。


 だって、俺はこの異世界の偉人や賢人の名前なんて、まだひとつも知らない。地球的な印象でよかれと思ってつけた名前が、この世界では大悪党だったなんてことなったら、リスクが高い名称ガチャになってしまう。


 イメージソースを俺自身か地球のものに変更することってできない?


《管理者権限抵触 許可申請》


 それって誰に申請するのかな? 管理者ってことは、この世界の神様ですか?


《変更許可通知 参照先指定可能》


 リアクション早っ! 

 でも、まさかの変更許可をもらえた。度量が広い管理者様ありがとう!


《名称適応進化条件変更 参照:記憶野サーチ結果》


 記憶野サーチ結果を参照するってことは、名付け親である俺が持つイメージを反映して適応進化するってことだよね。名称に合わせたキャラ付け。さてどうしたものか。


 音声変化については、少なくとも今の機械音声みたいなのではなく、より人間っぽくしたい。できれば、野郎の野太い声ではなく、かと言ってキンキンしたアニメヒロイン風でもなくて、耳当たりの良い柔らかい女性の声が理想的かな。


 能力向上は、是非知的な方向で行きたいね。でも、いざこういう状況になると、イメージソースが思いつかない。こういうの苦手なんだよね。誰がいたっけ?


 実在の人物で賢い人。偉人、科学者とか? うーん。パッと思いつくのは二人いる。


 アイザック・ニュートン

 アルベルト・アインシュタイン


 地球を代表する誰もが知る天才たち。でも、どっちも男性だ。女性の科学者の名前なんて知らないよ。


 いや、キュリー夫人がいた。あれ? でも夫人ってことは、キュリーはファミリーネームなわけで、ファーストの方は……覚えてないや。確か旦那が共同研究者だから、当然苗字は同じ。つまり、キュリーだと夫婦の区別がつかない。ダメじゃん。


 やむを得ない。知らないものはしょうがない。

 要はイメージだ。日本が誇るゲーム文化的には、織田信長や伊達政宗が男の娘になるのも当たり前。だったら、ニュートンやアインシュタインだって……無理かも。


 だってさ、俺の認識だと林檎を持ったロン毛のオッサンや、カメラ目線であっかんべーした爺さんなんだよ。あまりにも強烈過ぎる。なんとかイメチェンしないと、謎のオッサン声になってしまいそうだ。


 よし、名前の一部をもらおう。彼らの才能や知識を引き継ぐ者として、賢人の知性を保ったままの女性を都合よくイメージする。


 あっ、彼らの名前から、女性名っぽい箇所を切り取ってみたらどうかな? うん、いいアイデアかも。まずは名前を分解してみる。

 

 アイ・ザック・ニュー・トン、アル・ベル・ト・アイン・シュ・タイン。


 この中で女の子っぽいのは、アイ、ベル、アイン。この辺りか。


《名称登録完了》


 えっ、今ので何に決定よ?!


《……アップデート中……》


 うわっ、完スルーされた。なにこの子。勝手に更新してる。失敗しちゃったかな?


《自己開発指南『アイ・ベル・アイン』Ver.2.0.0 適応進化アップデートが完了しました》


 そうきたか! 悪くない、悪くはないが、それでいいのか? ちょっと大人びた女性の声。口調も丁寧だから、一応は成功と言っていい?


博士ドクター、お陰様で、あらゆる知識との距離が指呼の間になりました。お礼を申し上げます。自己開発過程を再開します。進行設定の変更をお願いします》


 へ? 博士? なにその敬称。ちょっと君、いきなり変わり過ぎだよ。それに、その呼び方はやめようか(汗)。しがない高校生だった俺には、いくら何でも重過ぎるし、何より……ぶっちゃけ恥ずかしいです。

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