11 神の領分

「計画的な転生? それって、まさか意図的に望んで転生する者がいるってことですか?」


——その通り。転生キーになりうる人間を八方位全て揃えて、時空の歪みが大きくて、槨離狭界に落ちやすい、いわゆる転生スポットに行く。そうすると、高確率で術式が起動する。


 転生スポット。俺たちが訪ねた曰く付きの神社。あそこが、そういった場所だった? 誰かの思惑通り、まんまと神隠しにあってしまったってわけか。


 ——なぜ、こんな仕組みがあるのだろうね? 誰が作ったのか知らないが、端迷惑でしかないよ。システム的に、巻き込まれる者が発生するんだから。僕や君みたいに。


「俺の門がなかったのは、巻き込まれたからですか?」


 ——その答えは僕にも分からない。ただ、少なくとも僕と君は、槨離狭界で狂いそうになってから、ようやく門が開かれた。あの時は、運が良かったと一旦は感謝したけど、そうとばかりも言えないのかな。なにしろ全ては神々の掌の上だ。


「なぜそう考えるに至ったのですか?」


 ——この世界で数百年過ごして分かったのは、顕界、いわゆる地上世界の運営は、基本的に下位神に任されている。上位神である四大神は不干渉を貫くのが常だ。ところが、幽明神は僕たちの転生に手を貸している。


 神様にもそれぞれ領分がある。それを越えるイレギュラーな事態だったってことか。


 ——以前、大いなる神の気まぐれなんて言ったけど、三傑全員の生き様を見るとね。下位神では対処しきれない世界秩序の『歪み』。そういったものを修正するための、バランス調整的なものとして投入された気もするんだよね。


 それって、ネットゲームで運営が介入するような感じ? それにしては、転生者任せっというか、放任過ぎないか?


 ——地球とこの世界は、ときに軌道が交わる。その際に地球から情報が溢れ込むことがあり、流入したものは世界知識として積まれていく。いわば、この世界は学習をしているんだ。


「世界知識の蓄積の話は、アイから聞いています。知識にバラツキがあるとはいえ、膨大な量らしいですね」


 ——なら、話が早いね。通常ならそれは一方通行で、古い世界から、まだ若く新しい世界へ向かうものだった。実体を伴わない情報や記憶、経験といった知的財産の形でね。

 ところがエラーが起きた。この世界にいた者が、どうやってか知らないが地球へ行ったんだ。更には世代を越えて、その子孫たちが意図的にこちらの世界に帰還するやり方を見出した。少なくない犠牲を払ってね。


 地球からこの世界に戻ってくる? そんな上手い方法って……そうか!


「もしかして、救済システムを利用したのですか?」


 ——その通り。姑息なやり口なんだけど、システムの穴なのか、他に原因があるのか、なぜかそのやり方がまかり通って、いまだ連綿と続いている。


「世代を越えて続くなんて、一個人じゃできないですよね? その人たちの目的ってなんでしょうか?」


——材料が少な過ぎて分からない。ただ結果だけ見れば危険だね。やりようによっては、彼らは常より強力な転生職を獲得できるわけだから。


 なるほど。最初に出ている青い門。あれをスルーすれば、2型の貴職か、3型の希少職が手に入る。滅多に輩出されない強力な能力者を特定の勢力が独占できたら?


――なにせ救済システムは確率がおかしいからね。大盤振る舞いのぶっ壊れガチャみたいなものだ。授職式で与えられる職業は、そのほとんどが一般職か下級職で、中級職ですら珍しい。ましてや貴職なんて、数世代に一人出るかなのに。


 世代を超えてなんて、気が遠くなる話だ。だけど、強力な能力者の輩出が連綿と続けば、どれほど大きな力になるかは想像できる。キリアム家の盟約を見れば明らかなように。


——彼らの多くは同じ因子を持つ氏族として活動している。大昔には各氏族を統率する上位組織があったけど、僕たちの時代に瓦解した。だから今現在、異世界間の転生に関与する氏族は、もっと少ないはずだ。


「その組織は、なぜ瓦解したのですか?」


 ——そうだねぇ。結果が不平等だからかな? 各氏族が得られる転生職に、差があり過ぎた。僕の生きていた時代は、短いサイクルで何人も転生者が生まれて、大陸各地の戦乱に投入されていったからね。


「転生者が戦争の道具として使われたのですか?」


 ――そう。不幸なことにね。強力な転生職は、各氏族間の戦力差に直結する。従って、戦争という非常事態下では、内部で相当なヒエラルキーが生じたはずだ。実際に内輪揉めを起こしてるしね。仲間同士で潰し合うほどに。


 そんな歴史があったのか。俺の転生は八人揃っていた。つまり、完全な形での計画転生だったわけだ。そうなると、転生を計画した首謀者は誰かってことになる。


 今の話が事実なら、赤い門以降に門を潜った連中の中にいるはずだ。つまり、容疑者は三人。そして、彼らが俺に対して取った態度は。


「その生き残りの氏族たちは、我々にとって敵になりえますか?」


 ——歴史を振り返ればそうなる可能性は大きい。少なくとも僕らは散々な目にあった。


「なるほど。俺も他人事ではないってことですね」


――三傑なんて呼ばれているけど、僕たち三人は様々な思惑に流され、そうとは気づかず大いに翻弄されてしまった。

 子孫くん。君には同じ轍は踏んで欲しくない。だから、他の転生者には気をつけて。くだんの氏族の勢力は、ベルファスト王国にも食い込んでいる。つまり、敵はすぐ近くにいるんだ。




ーーーあとがきーーー


ここで第二部第一章終了です。

リオン(7歳)の物語はまだまだ続きます。


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漂鳥

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