第43話 第三の理蟲


 俺の身体には、理蟲レクス・トリニティという生命体が宿っている。


 真の性別は不明。言語的なコミュ力は、まだまだ発展途上。でも、その能力は間違いなく秀逸で、俺と共生しながら、能力を大幅に底上げしてくれる。


 大切な運命共同体である理蟲には、三つの基体シアがある。その内、既に二体が孵化済みだ。


 一体目は、蠱弦「アラネオラ」。

 魔導軌道の作成や修繕担当。俺との関係は、幽体を介しての二心同体で、アイと共に【理皇】の能力開発における相棒的な存在でもある。


 二体目は、蠱式「ルシオラ」。

 この子は分体として、主に情報収集や偵察に活躍している。俺と一体化する時は、メッシュのエクステみたいな見た目だけど、分離した時は、虫、鳥、蛇などに擬態することが多い。


 そして三体目。

 随分と時間が空いたけど、いよいよ最後の理蟲を孵化させる時が来た。


「三体目には、何をしてもらう予定なの?」


《魔装甲と破壊槌。つまり、攻撃と防御担当です》


 魔装甲は「理」の説明の時に出てきた言葉で、魔術版の身体強化だったはず。


「魔装甲って、『理漆』を修得すると手に入る魔術だよね?」


《そうです。その際、魔装甲の運用を理蟲と分担すると、安全性と拡張性が高まります》


「具体的には、どんなことができるようになるの?」


《ひとつには、自動迎撃システムを搭載し、死角からの攻撃に対応する役割を考えています》


 それは凄い。是非採用したいね。全方位で隙がなくなれば、奇襲を回避し、仕掛けられた罠にも気付きやすくなる。アイの言う通り、安全性は飛躍的に高まるはずだ。いずれ(ムッキムキになって)ダンジョンに潜る機会でもあれば、非常に役に立ちそう。


「他には?」


《もうひとつは、魔獣、あるいは人の魔力パターンを登録して、データとして蓄積・参照します》


 ふむ。それって、セキュリティ・システムとして利用できるってこと?


「蓄積したデータを、どう運用するの?」


《種族識別や個人識別を迅速に行い、位置検索や、遠隔からの奇襲攻撃を可能にします》


 へぇ。そこまでできるんだ。遠隔攻撃なんて便利過ぎるし、思った以上に用途が広いなぁ。


「でもそれって、今じゃなくてもよくない?」


 なにしろ、七歳になったばかりだ。まだまだ貧弱で、魔装甲を纏えるほどには、身体が出来上がっていない。使用に際して掛かる負荷を、受け止められないんだ。

 それに、俺には結構な数の護衛が付いている。戦闘訓練を積んだ大人たちが守ってくれるから、今すぐ自衛機能が必要とは思えないんだ。


《いえ。今だからこそです。「理伍」より先の「理」の扉には、強力な守護者ガーディアンがいます。それを撃ち破るのに必要です》


 おっと、初出情報じゃないか。そういう大事なことは、まっ先に言ってくれよ。


「守護者? それ、初めて聞くけど」


《守護者という言葉を出したのは、今回が初めてです。これまでは「一筋縄ではいかない」「試練」といった表現をしています》


 あー、なるほどね。それなら確かに聞いたことがある。


「理伍」——いわゆる超級魔術と、それ以降の「理」には、厄介な守護者がついている。

 撃ち破ると言うからには、俺たちの妨害者として相対することになる。それも、必ず戦闘を伴うような。そりゃあ難易度が高いわけだ。


「第三の理蟲なら、その試練を乗り越えられるの?」


《「理伍」「理陸」「理漆」までは、育成に時間をかければ、確実に乗り越えられると予想しています》


 おっ、そこまで行けるならいいじゃん。


「それ以降は難しい?」


 「理捌」以降は災厄レベルの魔術だと聞いている。

 迂闊に使ったら、当然、ヤバい事態を引き起こす。だから、もし使えなくても、おそらく困るような事態にはならないはず。


 ただ、「できるけど使わない」のと「できない」は、同じようで違うのだ。【理皇】が魔術職の最高峰であるなら、何もしないで、尻尾を巻いて逃げるなと、俺の中の面子、あるいは誇りみたいなものが訴えかけてくる。


《「理捌」は極級、あるいは竜級とも言いますが、マスターの成長次第では取得可能だと考えています》


「竜級? 竜ってドラゴンと同じ意味?」


《概ね、そう解釈して頂いて宜しいかと思います》


「ドラゴンって実在するの?」


《はい。人里には出てきませんが、この大陸には、様々な形態の竜種が存在します》


 この世界には、ドラゴンがいた。


 精霊の森の西に臥龍山脈という名前の山岳地帯があるから、ドラゴン的な存在がいてもおかしくないとは思っていた。

 空想上の生き物、あるいは地球みたいに、古代に生きた巨大生物の影響という可能性もあったが、ここに来て実在することが確定だよ。


「修得すれば、ドラゴンブレスみたいなのができたりは?」


《口からは吐きませんが、類似の現象を起こせます》


 そいつは凄いや。俺の成長次第というのがネックだけど、手が届くなら頑張るのもやぶさかではない。


《「理玖」は天級と呼ばれ、天地の世界機序に干渉します。「理拾」は神級、神の領域と言われています》


 あーっ、この二つはなんかやばい気がする。少なくとも、神級には触りたくない。


 だって、この世界の神様は、稀少な加護をポンポン付け外しできるような存在だ。下手に神の領域に踏み込んで、顰蹙ひんしゅくでも買ったらたまらない。神罰とか速攻で下されそうだ。


「だいたいは理解した。「理肆」が終われば次は「理伍」だから、もうあまり時間がないわけか。分かった。第三の理蟲を孵化させよう」


《では、早速、孵化の準備に入ります。孵化が終了するまで、しばらくお待ち下さい》


「アイに任せた。ちなみに、三体目の名前は?」


《蠱甲「スカラ」です》


「アラネオラ、ルシオラ、スカラ。どれも、いい名前だね」


《マスター、もう一点お知らせがあります。少し先の話ですが、ルシオラの機能拡張を行います。その際には、一定期間、本体からの分離を控えて頂くことになります》


「偵察や情報収集するなら今の内ってこと?」


《はい。この場所は何かと騒がしいので、周囲の状況を把握しておくことをお勧めします》


「教えてくれてありがとう。助かるよ。用心に越したことはないからね。ちょっと調べてみる」



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【あとがき】

 第六章終了!

 次章タイトル予告「もつれた糸」

 ようやく、主人公やその周囲が動き出します。

 

 いつも応援ありがとうございます。

 日間1位になっているのを見て、嬉しくてスクショを何枚も撮ってしまいました。

 第五章は下書きになかったエピソードを差し込んだので、毎回ギリギリで改稿が続く状態でした。

 その分ミスも多くて、誤りをご指摘下さった皆様、ありがとうございます。

 応援コメントで励まされ、皆様のご意見も参考にもさせて頂く毎日です。

 

漂鳥

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