書籍発売記念 クリスマス番外編SS
(※この回は書籍の内容に準じたSSになります。登場人物がWEB版とは異なりますのでご注意ください)
バレンフィールドは精霊の影響なのか比較的気候が温暖で、冬でも雪が降ることはめったにない。従って、湖が凍ることもないらしい。
その湖に小舟に乗って出かけて行ったウッド姉弟が、先ほど屋敷に戻ってきた。
「リオン様、採ってきました! ルミの実です!」
防寒具を身に着けたままの姿で、ルイスが籠一杯のルミの実を差し出してきた。
「たくさん落ちていたので、なるべく綺麗なのを選んできました」
「でもこれ、何につかうのですか?」
少し遅れてやって来たマイラとエマの双子姉妹も、両手に実がぎっしり詰まった大きな籠を下げている。
「まずは殻を割ろうか。中身は炒って直接食べてもいいし、お菓子に入れてもいいね。でも、今回は殻を使うから、なるべく綺麗に割って欲しい」
ルミの実は地球の胡桃とよく似た木の実で、大きさが一回り以上大きい。直径は5-6センチくらい。
殻にはくるっと一周するように筋が入っているのも同じで、割り器を使えばパカッと二つに割ることができる。
だけど、殻の表面は地球のそれよりツルッとしているから、色を塗ったり絵を描いたりするのにぴったりだった。
ルミの実を初めて見たときにピンときた。飾りに使えるんじゃないかって。
「このネジを回せばいいの?」
「はい。まずは、この窪みにミルの実を置いて、上下に実を挟みます。ネジを巻いて圧力をかければ割れるはずです」
プライヤーみたいな形の割り器だったら大人に頼もうと思っていた。ところが、ルミの実はバレンフィールドでは冬の間の大事な食糧であることから、力が弱い者でも容易に割れるようにと専用のナッツクラッカーが常備されていたのだ。
「じゃあ、始めよう! 割って割って割りまくるぞ!」
「おおっ!」
「「お任せ下さい!」」
役割を交替しながら子供四人でルミの実を割り、中身をくり抜いた。一人だと作業になるだろうけど、こうして集まってやれば遊びみたいで結構楽しい。
ルミの実割りはすぐに終わった。殻に紐を通すための穴を開けるのは、危ないので大人にバトンタッチだ。
その作業を待つ間に、皆で暖炉で炒ったルミの実を食す。
「香ばしいです。それに美味しい」
「本当に美味しいね。いくらでも食べれそう」
女の子にはかなり好評だ。ルミの実からは油が採れるらしいから、おそらくカロリーは高め。でも成長期だから沢山食べても大丈夫だよね。
「でもちょっと苦い」
ルイスそう言って、ちょっとだけ眉をひそめた。実は俺もちょっと苦みを感じる。二人とも、まだお子ちゃま舌だからかな?
苦みの原因はナッツの周りを覆う薄皮だと思うんだよね。これって……おっ! 剥がせるじゃん!
「ルイス、この薄皮をぺりっと剥けば苦くなくなるよ」
「リオン様がそんなことをなさらなくても!」
「わたしたちがやります!」
「いいのいいの。これも遊びの内だから」
おやつタイムの後は、穴を開けた殻の外側にペタペタと色を塗ったり、模様を描いたりした。
そして、一晩十分に乾かした後、中にひとつずつ何種類かの日持ちのするお菓子を入れたら、紐を通して殻を閉じる。
手作りオーナメントの完成だ!
「沢山できましたけど、これをどうするんですか?」
「あの木にぶらさげて飾りつけるんだ」
「木を飾る? 面白い思い付きですね」
あれ? グラス地方には、そういう習慣ってないのかな?
「まあね。あの木は冬でも葉を落とさずに、頑張って緑を茂らせている。だからお礼に綺麗に飾ってあげようかと思って」
光庭の中で天井に向かってピンと幹を伸ばし、円錐形に枝を張る常緑樹。
ずっとモミノキみたいだなって思っていた。
この世界にはキリストもいなければクリスマスもいないので、木を飾るのに宗教的な意味合いは持っていない。
だけど、元々はゲルマン民族の冬の祭りで一年中葉が枯れない樫の木を、永遠の命のシンボルとして扱っていたのがツリーの由来だと聞いたことがある。
だからいいよね。こんな異国……じゃなくて異世界で、似たような冬の祭りをしても。
「うわぁ、思ってた以上に綺麗ですね」
「お花がなくて景色が寂しかったのに、一気に賑やかになりました」
「ねえ、中のおかしはいつ食べるの?」
ははっ、ルイスは色気より食い気か。まあ、それも楽しいんだけどね。
「殻の中のお菓子を食べるのはまだ先だけど、今日はフワッフワの焼き菓子がおやつに出てくるらしいよ。それも凄く大きいのが」
「ほんとう! ……じゃなくて、ほんとうですか?」
「うん。せっかくだから、ここにテーブルを出してもらってみんなで食べよう」
「わーい!」
ツリーにケーキに、実は鳥の丸焼きも頼んでいる。異世界クリスマス。知っているのは俺だけだけど、こうしてみんなで楽しめるのっていいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます