第33話 神殿詣
『授職式』に臨む前に、済ませておかなければならないことがある。ここに来て、そう告げられた。
「そもそも
「『授職式』及び『顕盤の儀』の前に、職神以外の神々へ祈りを捧げに行くことです。生家にご縁があるか、個人的に加護を望む神に参拝するのが習慣になっております」
『授職式』では、当人の適性を鑑みた職業を職神が授けてくれる。
"適性がある"="素質が大きい"とも言い換えられ、職業に付随する能力によって、強みを更に底上げしてもらえるわけだ。
でも、まだたった7歳でしかない。自分がどんな職業を貰えたのかなんて、大抵は自覚できない。そこで、『顕盤の儀』が抱き合わせになっている。
「『顕盤の儀』を受ければ、職業の他に加護や盟約も判明します。それにより、結果を人生設計に反映することができるのです」
いわゆるステータスオープンの簡易版。参考にはなるはずだ。でも、それだけで将来が決まるとも思えない。
「人生設計に反映するとは?」
「例えば、技術系の職業であれば、師匠に弟子入りをする。商売の素質があれば、商家に奉公に上がる。といった具合に、7歳から受け入れ先を探すのが一般的です」
「7歳で将来を決めてしまうのは、早過ぎない?」
現代日本生まれの自分にとっては、もう? って感じ。
小学校低学年。1、2年生の時点で、人生のコースが決まってしまう。そんな例は、伝統芸能の継承家くらいしか思い浮かばない。
人生効率を考えれば、無駄な寄り道が少なくて済むのは確かだ。何か一つのことを極めるなら、より時間を充てられる。
だけど、授けられた職業が、必ずしも自分の夢と一致するとは限らない。反発する子もいるんじゃないかな?
「能力は間違いなくあるのです。当人の心がけ次第ですが、低年齢での修行開始は、若い年齢での一人立ちを可能にします。男子であれば妻帯し、家族を養って行くことも十分にできるでしょう」
ああ、そうか。この世界は、結婚年齢が早いんだった。
社会保障もないし、親がいつまでも養ってくれるわけじゃない。夢がどうのなんて、二の次なのかも。
「グラス地方では、社会的な需要と利益が大きいという判断から、7歳時の『顕盤の儀』は、領民であれば誰でも無料で受けられます。しかし、二度目以降は有料になり、希望しても受けられるとは限りません」
「無料なのは、グラス地方だけ?」
「グラス地方は、儀式に関する神殿への寄進を、領民の代わりに領主が全額納めています。しかし、他の領地では、一部負担があるところが多いと聞いています」
「いつから、無料になったの?」
「二代目当主ノア卿のときに始まった制度です。収穫が上がり、この地で生まれる者が増えていきました。街が形成されていくに連れて、様々な職種に携わる者を育てる必要があったからです」
なるほど。開拓村から始まったグラス地方ならではの制度なのか。それにしても、費用全持ちだなんて、ノア卿は思い切りがいい為政者だったのかも。
「個人で寄進するとなれば、庶民には少なくない負担になります。ですから、『授職式』と共に『顕盤の儀』も、庶民にとっては人生に一度の特別なものと言えるでしょう」
ちなみに、貴族にとっても、我が子が後継者に相応しい資質を有するか否かを把握する、重要なイベントになっている。だから、式には子供だけでなく、親も参列するケースが多い。
「『授職式』の前に神殿詣をするのはなぜ?」
「加護は生まれつき備わっているもの。そう聞いていらっしゃると思いますが、実は、後天的に授かることもあります」
へぇ。それは初耳だ。どんな状況で貰えるのだろう?
「実例があるわけ?」
「はい。ただし、数は少ないですし、若年の内に限ります」
家の存続に加護の継承が関わっていると、みんな必死になる。なんとかして加護をという、藁にも縋る思いで、数え切れないくらい試されて実証された。
幼少期の神殿詣が特に効果的で、新たに授かるというよりは、生下時に何らかの理由で貰い損ねたものを、改めて授かる。そんな感じらしい。
万一加護が付いたら、『授職式』でより良い職業を授けられる。あるいは、職業選択の幅が広がる。
その期待を込めて、懐に余裕がある家は『授職式』と『顕盤の儀』の前に、験担ぎ的に、あるいは相当に力を入れて、神殿詣に行かせるのが慣例になっているんだって。
「それなら、神殿詣で加護を授からなくても、気にする必要はないんだね?」
「はい。リオン様のご参拝は形式的なものですから、気負われる必要はございません。ただし、公式に表に出られるわけですから、領主家のご嫡男として相応しい作法を身につけて頂かなくてはなりません」
はい。作法ですね。そう来ると思った。
貴族は体面がとても大事。例えそれが子供であっても容赦ない。
はぁ、面倒くさい。けど、仕方ない。抵抗しても無駄だし、必要なことでもあるから、ちゃっちゃとやるか! 俺だって、人前で恥をかきたくはないからね。
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