34 永遠の愛のあり方
外はまだ暗く、夜明けまでに時間がありそうだ。
蝙蝠を待宵に預けて肉体に戻り、とりあえず聞いてみようと初代様との交信リンクを繋げた。
「初代様、夜中にすみません。緊急事態なんです。お話できませんか?」
「もちろんできるよ。リオン、そろそろ他人行儀な呼び方じゃなくて、ルーカスって呼んでくれない?」
「えっ!? 名前呼びですか?」
「そう。世代を越えてはいるけど親戚じゃないか。元日本人同士、もっと気さくな関係で行こう」
初代様――ルーカス卿は、伝説的な超有名人で、ご先祖様でもあり、転生者としては大先にあたる。恐れ多いタグが幾つも付いている人なんだよね。だから名前呼びはハードルが高かった。
でも好意から言ってくれているのがよく分かる。だったら相手に合わなきゃ却って失礼か。
「そう仰るなら。では、ルーカスさん。あなたのお子さんかもしれない人……人といっていいのかは微妙ですが、それらしき蝙蝠? が見つかりました。ただ、様子が変なんです。確認してもらえますか?」
「えっ!? もう見つかったの? 君、まだ子供じゃない。いったいどうやって探したの?」
「実はこのところ、特殊な方法で大陸の西側に出入りしていました。そこで、人の言葉を喋る緑色の蝙蝠に遭遇して『ちちうえ』と呼ばれたんです。俺とルーカスさんに何か共通点があって見間違えたのかと思って」
俺は幽体姿だったし、子供でもある。でも、小さな蝙蝠は俺の中に父親の面影的なものを見つけた。幽魂には形があるみたいだし、そういうのが似ているのかな?
「大陸の西側かぁ。よくそんな場所に行ったね。で、レオらしき蝙蝠の様子がおかしいって、どんな風なの?」
「記憶喪失です。自分の名前すら忘れてしまっています」
「彼の精霊は側にいた?」
「いえ。精霊には会っていません。なにしろ蝙蝠の話が要領を得なくて。大事なものがないと繰り返すばかりです」
あっ、あとこれも伝えなきゃ。
「それと、無視できない出来事がありました。蝙蝠が冥廻人に狩られそうになった上に、嚮導神の神託が下り、人を逸脱しているから輪廻の輪には戻れないと告げられています」
「なるほどね。そんな状況でよく連れ帰ってきてくれた。心からお礼を言いたい。リオン、ありがとう。そして、その蝙蝠がレオだとすると、彼に何が起きたのか、今の話からだいたいの予想がついたよ」
「それはなんですか?」
何をどうしたら人が蝙蝠になるのか。凄く気になる。
「レオは精霊化に失敗したんだと思う」
「精霊化? 初耳です。どんな状態を指すのですか?」
「人と精霊は『存在』のあり方が違う。人の核になるのは幽魂だけど、肉体に縛られている以上、老化や寿命がある。寿命という短いサイクルで幽魂の洗浄を受け、肉体を乗り換えることを定められている――そう言い換えてもいい。でも精霊は違うだろう?」
「はい。彼らは長生きですよね。精霊には寿命ってないのですか?」
「人の基準からすれば、あってないようなものだね。精霊化とは、人の幽魂の形を変えて精霊と同化することだ。精霊の一部として生まれ変わって、永遠の時を共に生きることができる。その唯一の成功例が僕なんだけどね」
そういうことだったのか。
声が聞こえて確かな人格も感じるのに、ルーカスさんの姿を見たことはない。肉体を捨てて精霊になる。それも同化ときた。相当な覚悟が必要だったはず。
「レオさんが失敗した原因ってなんですか?」
「簡単に言えば、素質の違いかな? 僕は元々そうあるべく設定されていた。でもレオはそうじゃないから」
「それって、もしかして転生の際に?」
「そう。僕の転生職は【融皇】。潮解
「試作品的な存在って何人もいたりしますか?」
「うん。ここに二人いて、過去にはもっといた。ただ、全部が上手く育つわけではなくて、目的を遂げずに死んじゃうケースもあったんじゃないかな? 生き辛い時代があったからね」
俺は精霊を好ましいとは思うけど、さすがに同化したいとは思わない。
精霊化すれば永遠とも言える寿命が手に入る。でも、人としての生き方を全て捨ててまで生き続ける理由ってあるのかな?
そう思うのは俺が若いから? 年を取って寿命を目前にすれば、考えが変わったりするのかな?
「ルーカスさんが精霊化を選んだ理由を聞いてもいいですか?」
「いいよ。理由はひとつしかない。『愛』だね。僕が死んでしまえば、僕の精霊は一人ぼっちになってしまう。それが嫌だった。愛する相手と存在がひとつになれたら。僕はそれを究極の愛の形だと考えた。実際に後悔はしていないしね。愛する二人を分かつものは、最早なにも存在しないのだから」
な、なるほど。ルーカスさんって凄く情熱的な人なんだ。
「じゃあ、レオさんもルーカスさんみたいになりたくて同じ選択をしたってことですか?」
「そうだろうね。レオは不完全ながらも【融皇】の資質を受け継いでいた。ただ彼の能力では、精霊と融合できなかった。融合による負荷に耐えられなくて幽魂が壊れたのかもしれない。蝙蝠姿になったのは、存在を失う前に応急手当的なことをした結果かな?」
「どうしましょう? このまま放置すると冥廻人に狩られてしまいます」
「僕と僕の精霊をそっちに呼び出してくれる? 蝙蝠はレオである可能性が高いと思うけど、実際に会ってみたいからね」
「分かりました。でも今は深夜なので外に出られません。夜が明けてからになります」
「分かった。じゃあ、一旦リンクを切ろう。君もひと眠りしなよ。子供がよく育つには睡眠が欠かせないからね。おやすみ、リオン」
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