第3話 消えた門
あっという間に、四つの門が全て消えた。
消えてしまった。
杵坂が消えてから、ドミノ倒しのように三人が門を潜った。
光源だった門が消えたせいで辺りが一気に暗くなり、今は闇に閉ざされている。
これって初動が全てなのか? 後手に回った残りの四人はどうなる? 転生できなければ、ずっとここから出られないことになる。まさかそんなことって。
「せっかちな奴らだ。速攻で飛び込みやがって」
「ひっどいよね。でも『早成型』なんて、弱キャラ臭プンプンだよ。せこい職業に当たって、異世界に行ってから後悔すればいいよ」
「本当にね。せっかく有益な情報をあげたのに」
暗いから他のクラスメイトの表情は見えず、声だけが聞こえる。
せっかちだという呆れが辰巳。
ひどい、後悔しろと責めているのが左坤。
恩着せがましいディスりが乾井か。
そもそも乾井はなぜ杵坂を突き飛ばした? まさか、誰かが潜れば門の情報が手に入ることを知っていた? 妙に落ち着いているのも変だ。肝心の門は、全て消えてしまったというのに。
何か知っていそうな乾井が有益だといった門の情報。
『飛燕門』
【職業】早成型
【基礎能力】◎
【応用能力】◯
【技能】◯
特典:
これから分かるのは、あの青い門は『飛燕門』で、もらえる【職業】は早成型、特典として解説書がついてくることくらいだ。
字面を素直に受け取れば、早成は成長が早いって意味になる。ただ、それがいいのか悪いのか、残念ながら俺には判断がつかない。
女子二人のコメントから憶測すると、あまりよくなさそうな感じなのに、◎や◯など一見良さげな記号がついているのは何故か? そこが腑に落ちない。
うーん。
このわずかな時間で門を潜った彼らは、いったいどこまで情報を判断できたのか?
「なあ、ちょっと話をしな……」
「やった! きたきた。そうこなくっちゃ!」
話をしないかと他の三人に声をかけようとしたら、周囲が再び明るくなった。
「赤い門か。さっきとは光の色が違うな」
「今度のは期待してもいい?」
新たに門が出てきた。夕陽のように輝く二つの赤い門が。
「なんだ。あれで終わりじゃなかったんだ」
ほっとして思わず声が溢れた。この調子で次々と門が出てくるなら、我先にと焦らなくてもいいはずだ。他の三人はどうするんだろう?
杵坂、柳、小酒部、御子柴の四人が、青い門を潜って消えた。
今ここにいるのは、左坤、乾井、
それに対して、出ている門は二つしかない。
赤い門の名前と、もらえる職業が気になる。だけど、おそらく誰かが潜らないと情報は出てこない気がした。
さて、ここで賭けに出るか否か。
「どうしよっかなぁ。なんてね!」
「これは行くでしょ!」
あっ!
セリフとほぼ同時に、乾井と左坤の女子二人が、それぞれ別の門に駆け込んでいた。即断即決過ぎるだろ、お前ら。
――『蹴豹門』残0/2
【職業】順成型
【基礎能力】◯
【応用能力】△
【技能】△
特典:
すぐに情報が頭に浮かんだ。『蹴豹門』で順成型。これは、順調に成長するって意味か? 記号は◎がなくなり、◯だったところが△になっている。
もらえる特典も違う。さっきは技能解説書。今回は系統職解説書というもの。
これは当たりか、あるいは外れなのか。記号だけ見ると劣化版に思えるが『蹴豹門』という名前からは、最初に出ていた四つの門よりも強くなれそうな気がした。
今回、乾井は門の情報を手に入れる前に、躊躇なく駆け込んだ。そこが不思議だ。まあ流石に、さっきみたいな真似はできないから、賭けに出たのかもしれない。
俺はまた出遅れた。……まあ、いいさ。次に出てくる門から選べば。
残光が消え、再び辺りが暗くなった。残りものには福があるっていうし、もっとチートな門が出てくるといいな。
「おいっ、
ふいに名前を呼ばれて、反射的に振り向いた。その瞬間、身体がフワッと宙に浮いて、直後、軽い衝撃と共に床に引き倒されていた。
「痛いだろ! 辰巳、なにすんだよ……これ外せよ」
なぜか辰巳が、鍛えられたゴツい腕を俺の首に回している。これって、たぶん絞め技の体勢だ。さすが古武術をやっているだけの……じゃなくて。
「ふざけている場合じゃないだろ。外せったら」
拘束を外そうとしても、ピクリともしやしない。辰巳を見上げると、なぜか余裕がある表情で薄ら笑っていた。
「いや。こんなことしている場合なんだよ。まあでも、予想と違って、もし門が二つ以上出てきたら外してやってもいい」
二つ以上出てきたら?
「何を言っているのか、意味が分からない」
「ははっ。お前、勉強はできる癖に案外知恵は回らないんだな。単純な数の計算だ。八人いた時は四つ。四人いた時は二つ。じゃあ、二人いるなら、門はいくつ出てくるでしょうか?」
そういうことか。
言われてみれば、四つ、二つと、これまではその場にいる人数の半数の門が現れている。門の数だけに注目しても、新たに現れた門は半数に減っていた。
今ここにいるのは、俺と辰巳の二人。
もし門が出現するたびに数が半減するような規則性があるなら、次に現れる門はひとつしかない。
こいつは、そう考えたのか。
悔しいが、その視点には欠けていた。でも、だからって。
「門がひとつしかないなら、二人同時に潜ればいいだろう?」
「なんだ。やけにのんびりしていると思ったら、咲良は一番肝心なことに気づいていなかったのか」
一番肝心なこと?
「なんだよそれ」
「おかしいと思わなかったか? 単細胞な柳や小酒部はともかく、普段は他人の顔色を見てから動く女子たちまで、競うように怪しい門に飛び込んでいった。それはなぜだと思う?」
「……なぜって、慌てていたから?」
「正解。じゃあ、なぜ慌てていたんだ?」
「それは、こんな超常現象に巻き込まれて……」
「残念、大ハズレ。頭ん中に流れてくる声に聞いたんだよ。転生門一門につき、利用できるのは一人だけってな」
「一人だけ?」
「そうだ。あの門は、お一人様限定ってわけ。二人同時に利用なんてできない」
辰巳の言葉を理解した瞬間、顔から血の気が引いた。
門を潜れるのは一人だけ。次に出てくる門がもしひとつなら。そして、半減の法則が合っているなら、さらに次々と門が出てくる保証はない。
次の門を潜れなかったら……この空間に取り残される?
「おいっ、離せよ」
「恨むなよ。親友だろ」
「親友がこんなことするか。恩を仇で返しやがって」
「恩か。まあ確かに世話にはなった。お人好しで友情に厚い咲良のお陰で、随分と楽ができたよ」
「だったら、これはないんじゃないか」
散々親身になって面倒を見てきた結果がこれかよ。なんだよ、楽ができたって。
「門が出てきたぞ。予想通りだ。咲良、残念だったな。やっぱりひとつしかない、ってことで、ここは先に行かせてもらう。運良く異世界で会えたらいいな!」
「よせっ! やめろよ!」
「安心しな。酷くはしない。俺があの門を確実に潜れるように、ちょっとばかり寝てもらうだけだ。恨むなよ。あれは元々俺の門だから」
くそっ! 本当に絞めやがった。なにが俺の門だ。勝手言いやがって。暗くなっていく視界に、滲んだ月のように輝く白い門が映る。
あの門は?
その正体が分かる前に意識を失くした。
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