第39話 顕盤の儀 ☆
またしても、長々と時間がかかってしまった。
幸いなのは、今回は付き添い人も同じ部屋にいたから、健康不安を抱かせることはなかったはず。でも、違う意味ではハラハラしたかもね。
他の子供よりだいぶ遅れて、『顕盤の儀』を受ける部屋に移動する。今度はさすがに個室みたいだ。一応、個人情報的な配慮なのかな?
「付き添いの方は、このまま通路を真っ直ぐ進んで、突き当たり奥にある待合室でお待ち下さい」
部屋の前で爺と分かれて、一人、中へ入った。
室内には神官が二人いた。
一人は正面の石柱の脇に立ち、もう一人は、その向かって右隣にある長机の向こう側に立っている。
「この台座に顕盤が置かれています。台座の前までお進み下さい」
手招きされて石柱に近づいた。
丸い
「これが顕盤なのですか?」
「そうです。正確には、中にある金色の円盤が顕盤ですね」
近くで見た装置は、一見すると地球ゴマによく似ていた。ただし、ずっと大きい。直径が20センチはありそうだ。
微妙に大きさが異なる銀色の二つの円環。それが直角に重ねられている。
外側の円環の中に、ひと回り直径が小さな金色の円盤があり、その中心と内側の円環をまとめて、透明な心棒が貫通していた。
「台座に置いたまま、左右に飛び出している棒を、両手でしっかり握って下さい」
言われた通り、台座から拳ひとつ分ほど飛び出している心棒をしっかりと握りしめた。その瞬間、手に微量な魔力が流れ、身体を一周して棒に戻っていく。
これって魔道具の一種なのかな?
「まず、右手だけ棒から離します。次に、左手は棒を握ったまま外側へゆっくり引いて、円盤から棒を抜いて下さい」
言われた通りに棒を引き抜くと、顕盤が円環と共に回転し始めた。
二つの円環とひとつの円盤は、台座の凹みの中で不規則に回転していたが、しばらくして、円盤を水平に保つ位置でその動きをピタッと止めた。
「これで顕盤に結果が記録されているはずです。これから、記録を転写板に写し取ります」
神官が手袋を嵌めた手で、上から銀色の円環を掴んで持ち上げる。すると、金色の円盤がその周囲の円環ごと、くす玉のようにパカッと二枚に割れた。
台座に残った方の円盤と、持ち上げた方の円盤には、鏡合わせのように文字が浮き出ている。
「どちらの円盤にも、同じ内容が記されていますが、こちらを記録用に用います」
例えるなら、大きな印章。つまり、判子みたいだった。
隣の机の上に置かれた四角い黒い板に、持ち上げた円盤を載せると、円盤がピカッと光った。
神官が円盤を台座に戻す間に、もう一人の神官から説明を受ける。
「お名前をご確認下さい」
黒い板に、金色の文字が浮かんでいる。
個体名:リオン・ハイドラ・バレンフィールド・キリアム
年齢:7歳
種族:⁂
職業:【理皇】【門番】
盟約:【精霊の鍾愛】
精霊紋:【水精王】
加護:織神【糸詠+】
加護:嚮導神【悉伽羅】
「はい。確かに自分の名前です」
「では、この結果を更に記録紙に転写します。転写後の内容に相違がないか、ご確認下さい」
紙に写しとってもらった結果を顕盤と見比べて、同じ内容であることを確かめた。
「大丈夫です。間違いはありません。あの、ひとつ質問してもよろしいですか?」
ずっと気になっていたし、生体サーチと似たような結果だったから、この際、聞いておいた方がいいと思った。
「はい。私に答えられることでしたら」
神官さんの表情が、ちょっと緊張して見える。気のせいかな?
「ここの種族のところには、なんと書いてあるのですか?」
「ああ、これですか。私も実物は初めて見ました。記録上では、人並み外れた加護に恵まれた者に表れる印とされています。神々に愛されている証のようなものです。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
よかった。この文字化けは、神殿的にはアリなんだ。本当によかった。異端認定とかされなくて。
「お疲れ様でした。こちらの台紙に挟んでお持ち帰り下さい」
おそらく貴族用なのだろう。箔押しで飾り模様が入った台紙を渡されたので、転写した紙をそっと挟んだ。
これでおしまい?
爺や他のみんなが待つ待合室に向かいながら、先程見た結果を思い浮かべる。
名前、年齢、そして一番心配していた種族は、とりあえず大丈夫だった。
盟約と精霊紋は、ちょっとした騒ぎになるかもしれない。だけどそれは、ある程度は予想されているはず。
だから、問題は二つの職業と二つの加護になる。通常の倍。いや、加護が珍しいことを考慮すれば、それ以上か。これが、大人たちからどういった反応を引き出すかだな。
それと、あれっ? と思ったことがあるので、みんなと合流する前に、チラッと確認しておこう。
さっきの授職式で、職業を三つ分もらえたはずだ。【門番】はあった。しかし、【虫使い】と【先見者】は、どこに消えてしまったのだろう?
アイ、生体サーチをお願い。
《了解です》
個体名:リオン・ハイドラ・バレンフィールド・キリアム
年齢:7歳
種族:〆⁂
肉体強度:微弱
転生職:【理皇】
固有能力:【究竟の理律】
理律:理壱/理弐/理参/(理肆)
派生能力:【魔眼+++】【超鋭敏】【並列思考】【感覚同期】【倒懸鏤刻】【蟲使い@】【並列起動】【幽体分離】【俯瞰投影】
職業:【門番@】
固有能力:【施錠】【開錠】【哨戒】【誰何】
盟約:【精霊の鍾愛】
精霊紋:【水精王】【精霊召喚(封印中)】
固有能力:【精霊感応】【愛され体質】
派生能力:【指揮】【水精揺籃】【甘露+】
加護:織神【糸詠+】
固有能力:【織神の栄光】【柩蛇】【蚕蛛】【明晰翅】
派生能力:【万死一生】【先見者@】
加護:嚮導神【
固有能力:【裂空】【幽遊】
一般能力:【痛覚制御】【精神耐性++】【飢餓耐性】【不眠耐性】【速読】【礼儀作法】【写し絵】
特典:【自己開発指南】
備考:転生 前世記憶
時間がないから、どこがどう変わったのか説明してくれる?
《新たに職業の項目が増え、【門番@】とその固有能力が追加されています。【虫使い】が【理皇】の派生能力に組み込まれ、【式使い】と統合されて【蟲使い@】に変化しています。また、【先見者】が加護:織神【糸詠+】の派生能力に組み込まれ、【先見者@】に変化しています。以上です》
ありがとう。他の二つの職業は、既存の職業や加護の派生能力に組み込まれていた。そういえば、既得能力と重複するから再編すると言っていた。
だから、こうなったのか。どうやら、@記号がついたやつが、再編を受けたものっぽい。
【門番@】の横にある記号や、新たに組み込まれた能力は、幸いにも顕盤に表示されなかった。その点は、上手くいったと言える。
しかし、領主の息子の立場はさておき、こんなひ弱な子供が門番だってさ。
今現在の姿からすると、我ながら似合わなさ過ぎる。だけど、職業適性があるってことは、もしかしたら、将来は屈強な男になれるのかも。だったら嬉しい。
ムッキムキになって、バシッと鎧や剣を身につけて、「グラスブリッジへようこそ!」なんて言っちゃったりして。
うわぁ、楽しそうだ。そうなるといいなぁ。
(※投稿後に能力の記載の誤りに気づき、修正致しました)
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