第98話 みんな、同じ世界で生きている

 死にかけているアラシは、ヒビキたちとの戦いで傷だらけになってしまった。

「彼も、人生を楽しみたいと思っている」

「今すぐに助けなきゃ!」

アラシの近くにやってきたバニラとココアの呼びかけに、

「僕が君を助けて見せる。待ってておくれ」

心肺停止状態しんぱいていしじょうたいから、早く回復しないと!」

「ボクとお姉ちゃんが、何とかして見せる!」

ヒビキは、チララとコロンとともにアラシを蘇生そせいする。

「心の中の思いよ、君に届け!」

ヒビキは、にじいろに光る魔法の筆を構えると、

「オール・フォー・ワン、ワン・フォー・オール!」

と、力強く振ってアラシは意識不明の重体から回復した。

「ここは…。一体、どこなのだろうか…」

アラシは、魔王まおうからさずかっていたやみの力は完全に消失し、過去の記憶もわすれている様子。

「お前はいったい、誰だ…」

「やっと意識がもどったんだね!」

「よかった…」

「赤と白、青と黒か…」

「僕と」

「私のことを」

「知ってくれるなんて!」

バニラとココアが近くにいることを、アラシは気づいた。

「アラシ…!」

そんなアラシにヒビキが声をかけてみると、

「ひ、ヒビキ…。ここにいるのか…」

と、反応した。そう、ヒビキの名前だけはおぼえていたのだ。

「命があるから、この世界で生きている。命があるから、みんなと一緒にいられることができる。命があるから、やりたいことが自由にできる。だから、ここは素晴らしい世界ということを…」

「キミが今、心の中でかがやいている命は、たった一つしかないかけがえのないものだ。大人や若者だけではなく、男の子、女の子、高齢者こうれいしゃ、心身に障害しょうがいを持っている人、遠い国に住んでいる人、はだが黒い人、肌が真っ白な人、まずしい生活を余儀なくされている人、亡命ぼうめいされてしまっている人、これから生まれてくる赤ちゃんまで、一人に一つずつ持っている」

「それを、ずっと忘れないでちょうだい」

ヒビキ・チララ・コロンの温かいメッセージに、

「ありがとう…」

と、アラシは感謝の言葉を述べた。そう、闇の力を持っている人々はその言葉を口にすることさえ禁じているのだ。

「あっ!」

「体中が傷だらけになっている!」

すると、ケンタとナツは、アラシの体が傷だらけになっていることに気づいた。

「ケンタ、出番だよ!」

ケンタは、エメラルドのマジカルジュエルを魔法の筆にセット。それをアラシに向けて振ると、

「ヒーリング・キュア―!」

ナツが持っている傷をいやす魔法によって、アラシのケガはみるみるうちに回復していった。

「生きていて、本当に良かった…」

ヒビキは、復活したアラシについて、静かにそう思うのであった。

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