第134話 氷の神殿を目指して

 ヒビキたちを乗せたトリップ号は、フローズン雪原にたどり着いた。

「やあ、久しぶりだな!」

「コウテイペンギンは、別名は、エンペラーペンギンである。全長百二十センチメートルである。体長は百十五センチメートル、体重は三十キログラムに達する。現生のペンギン目内では最大種で、頭部とフリッパーの外側の羽色は黒である。上胸じょうわんは黄色である。腹部やフリッパーの内側は白色で、側頭部の耳の周辺は橙色である。下嘴したくちばしに黄色やピンク色のすじ模様もようが入る。こうにはピンク色の斑紋はんもんが入る個体もいる。下のくちばしの根元にはくちばしさやという部分があり、ここも黄色をしている。外見はオウサマペンギンに似るが、オウサマペンギンは体長九十五センチメートルほどと小型で、頭部から胸にかけての黄色部分が橙色だいだいいろを帯びること、くちばしやフリッパーが長くて頭身が小さいことなどから区別する。生息域や繁殖地はんしょくちことなる。ひなの綿羽は灰色である。頭部は黒く、顔は白い。最大水深五百六十四メートルまで潜水せんすいした記録がある。一方で水深の浅い大陸棚たいりくだなの周辺に好んで生息し、水深百八十五メートル以上潜水するのは約五パーセントにすぎない。通常は二分半から四分潜水し、深い場所にもぐる際は十二分潜水することもある。最長潜水時間は二十二分だが、水深の浅い場所での記録で、氷の割れ目を探すのに手間取ったためと考えられている。寒さから身を守るため、輪になって体を寄せ合う群れを形成する。ハドルの中は絶えず移動しており、外側にいる個体が内側へ移動していく。マイナス十度で体がれ合わないゆるいハドルを形成し、マイナス二十二になると互いに体を寄せ合うハドルを形成するという報告例もある。氷山などで風を防ぐが、次第にハドルを形成すると風上に対して背を向けるように移動する。ワシントンみさきの調査では、食性の九十パーセントは魚類、九パーセントはオキアミなどの甲殻類こうかくるいとする報告例もある。他のペンギンと同様に肉食性で、魚類、イカ、オキアミなどを捕食ほしょくする。卵や雛の捕食者としてオオフルマカモメがげられる。弱った雛やえた雛はトウゾクカモメ類にも捕食される。一方で隣接する個体があばれ、約四十五パーセントのたまごこわれ、雌雄しゆうで受け渡す際などの同種同士の影響により、繁殖に失敗することも多い。繁殖に失敗した個体は別の親から卵や雛をうばおうとすることもあるが、この際に奪おうとした卵が壊れたり雛が死亡することが多い。成鳥の捕食者として、シャチやヒョウアザラシが挙げられる。ペアは繁殖期ごとに解消し、前年と同じ相手とペアを形成することはほぼない。冬季に氷上で繁殖し、巣は作らない。巣を形成しないため縄張なわばりがないため縄張り争いを行わない。五月上旬に、一個の卵を産む。卵や雛は後肢の上に乗せ、腹部にある皮膚ひふのたるみで覆う。産卵したメスは、オスに卵をたくし採食のために海へ向かう。オスのみが抱卵し、抱卵ほうらん期間きかんは六十四日である。メスがもどる前に卵が孵化すると、オスは食道からの分泌物を雛に与える。メスは七十日を採食に費やし、この間に抱卵・育雛を行うオスは百十五日も絶食に耐(た)える。メスが戻ると雛を託してオスも採食のために海に向かい、以後は雛がある程度成長するまでは交代で育雛を行う。雛は孵化してから四十五日で、雛だけで構成させる群れに合流する。クレイシに合流した雛は鳴き声をあげて、海から戻ってきた親鳥に食物をねだる。雛は孵化してから約百五十日で、産まれた集団繁殖地からはなれる。英国の海洋生物学者の観察から、コウテイペンギンの瞬間的しゅんかんてきなスピード泳力の秘密は、羽毛にたくわえた空気から気泡を発生させることで、海水と体の間の摩擦まさつ抵抗ていこうを減らすことにあったとわかった。ペンギンは南極にすむと思われがちだが、実際に南極大陸に主な繁殖地を持つのはコウテイペンギンとアデリーペンギンの二種類だけである。アデリーペンギンは夏に地面が露出ろしゅつした海岸で繁殖するが、コウテイペンギンは零下数十度の冬の氷原で繁殖を始めるためコウテイペンギンは世界で最も過酷かこくな子育てをする鳥と呼ばれることがある。厳しい冬に子育てを始めるのも、ヒナの成長と餌の量に関連したものと考えられる。南極では秋にあたる三月から四月の頃、群れは海を離れて繁殖地である氷原に上陸する。繁殖地は海岸から百キロメートルほど離れた内陸部である。これほど海岸から離れる理由の一つは捕食者からのがれるため、雛が成長する前に氷原が溶けてしまうからであると考えられている。求愛きゅうあい行動こうどうおよびそれに続く交尾の後、五月から六月にかけてメスは長径十二センチメートル、重さ四百五十グラム程度の卵を一個だけ産む。産卵により疲労ひろうしているメスは餌を求めて海へ向かい、繁殖地に残ったオスは卵を足の上に乗せ、抱卵ほうらんふくろと呼ばれる両肢の間のお腹のだぶついた皮を使って、抱卵を始める。抱卵は立ったままで行い、巣はない。オスはブリザードが吹き荒れてマイナス六十度になる極寒の冬の氷原上で身を寄せ合い、抱卵を続ける。卵は約六十五日で孵化するが、抱卵中のオスは雪を食べるしかない絶食状態に置かれるため、エネルギー消費量を抑えるため睡眠に近い状態で過ごすが、孵化する頃にはオスの体重は四十パーセント以上も減少してしまう。繁殖地へ移動した頃から数えると約百二十日間も絶食していることになる。八月頃にはヒナが生まれるが、メスがまだ戻ってきていない場合には、オスは食道から分泌した白色の乳状の物質を餌としてヒナに与える。メスが海から戻ってくると、ヒナの給餌はメスが行うため、オスはやっと海に出て行けることになるが、遠い海までの道のりで力尽ちからつき死んでしまうオスもいる。オスだけが抱卵するのはコウテイペンギン特有で、他のペンギンはオスとメスが交代で抱卵する。海へ行ってきたメスはヒナのための食物を胃に貯蔵しており、食物をき出してヒナに餌として与える。ヒナは最初羽毛も生えていないが、やがてヒゲペンギンを小さくしたような黒と灰色の綿毛が生える。海へ行ったオスは、やはり同様に食物を貯蔵ちょそうして、数週間後に繁殖地へ戻ってくる。以後、オスとメスが交代でヒナの番と餌運びを行う。ただ、戻ってきてもヒナがなくなっていたりしていると、メスは他のヒナを奪って育てようとする。ヒナの成長につれ、摂取せっしゅする餌の量が増えていくと、オスとメスが両方とも海に出るようになる。この頃、ヒナばかりが集まってクレイシという集団を作る。クレイシは子育てを行っていない若鳥などに守られながら徐々に海岸へと移動する。ヒナが充分に成長する頃にはクレイシも海岸に到達し、南極も夏を迎える。ヒナが成鳥の羽に換羽かんうするのと同時期に、成鳥も冬羽から夏羽に換羽する。なお換羽の間は海に入らず、絶食することとなる。換羽の終わった群れは餌の豊富な夏の南極海へ旅立つ」

そこに、コウテイペンギンのダニエルが待っていた。

「この向こうに、氷の神殿しんでんがあるそうだ!」

ダニエルに案内されたヒビキたちは、

「ちゅぴ!」

「ちゅる!」

「クレバスがある!」

「気をつけろ!」

クレバスに注意しながら雪原を進んでいく。

「おーい!」

「この声は?」

「ダチのキャシーだ!」

「フンボルトペンギンは、全長六十五センチメートルである。頭部から上面は黒い。眼から頸部にかけて半円状の白い斑紋が入る。胸部から腹部は白く、黒い斑点が入りこれには個体変異がある。胸部に一本のみ黒い帯模様が入る。虹彩こうさいせき褐色かっしょくである。嘴はマゼランペンギンと比較すると太くて長い。嘴は黒く、灰色の筋模様が入る。嘴基部にはピンク色の皮膚が裸出する。後肢は黒く、白やピンク色の斑紋が入る個体もいる。幼鳥は頭部から頸部・上面は褐色やのう灰色はいいろで、帯模様は入らない。野生での知見は限られ、主に飼育下での知見に基づいている。協調性はよく、集団繁殖地でも激しく争うことは少ない。飼育下での敵対行動としてかがみながら頸部をじって片目で交互に相手を見るか頭部の片方を相手に見せる・前のめりになり嘴を相手に向けるなどがある。主にペルーでは一月、チリでは二月に換羽を行い、約二週間を、風を利用するために海岸の岩の上に集まり消耗をけるためにほぼ眠って過ごす。遊泳速度は平均時速三キロメートルだが、最高時速十一キロメートルで泳いだ例もある。ペンギン類としては浅い水深までしか潜水せず二十七メートル以上潜水することはまれで、最深潜水記録は五十四メートルである。主な潜水時間は一分から二分半で、最長潜水時間は百六十五秒である。チリではサンマ類Scombresox、カタクチイワシ類Engraulis ringens、マイワシ類Sardinops sagaxなどの魚類を食べていたという報告例がある。アルガロッポでは主にカタクチイワシ類を食べるが、マイワシ類・ミナミスルメイカTodarodes filippovaeも食べていたという報告例がある。卵や雛の捕食者としてセチュラギツネ、ペルーカモメ、ミナミトウゾクカモメ、クロコンドルなどが挙げられる。特定の繁殖期はないが、主に四月に繁殖を開始することが多い。飼育下では周年繁殖することから、野生でも周年繁殖している可能性も示唆しさされている。南部個体群では通常年に一回のみ繁殖するが、北部個体群では繁殖・育雛に失敗したペアと約半数の繁殖・育雛に成功したペアが九月に二度目の繁殖を開始することもある。婚姻様式は一夫一妻制だが、飼育下では性比に偏りがある飼育環境では一夫多妻・一妻多夫となることもある。死別しなければ前年のペアを解消することは少なく、同じ巣を利用する。飼育下の観察例ではオスよりもメスの方がペアを変更する傾向けいこうがあるとされる。ペアの形成・維持の決定権がメスにあることが示唆されている。繁殖行動として単独で頭部をやや反らしつばさを広げ鳴き声をあげながら前方に移動する・ペアで向き合い前方に移動せずに同様の行為を行う・オスがメスを翼で叩いたり、翼をふるわせる・互いにおじぎをするなどが報告されている。 日差しを避けるためにグアノの斜面しゃめんに穴を掘り、巣をつくることもあるが、グアノが採掘さいくつされた場合は海岸の砂地や海岸の洞窟どうくつで繁殖することもあるが海岸では高波による浸水しんすいなどにより繁殖成功率は低下する。野生ではメスの巣材集めをした報告例はなく、飼育下では約八十一パーセントの巣ではオスのみが巣材を集める。二個の卵を産み、産卵さんらん間隔かんかくは二日である。雌雄共に抱卵し、抱卵期間は平均四十日である。繁殖成功率は環境による変動が大きく、平均で一つの巣で一羽である。エルニーニョが発生すると獲物の回遊かいゆう範囲はんいが変化することで繁殖地周辺に獲物がいなくなり、親鳥が獲物えものを探すために遠方まで移動し帰れなくなるほどの距離まで移動してしまうと残された片親が繁殖を放棄ほうきし雛が餓死してしまう。エルニーニョ発生時には繁殖成功率が一羽以下まで激減することもある。北部個体群では最大で年あたり四羽の個体が巣立つ可能性もあるが、四羽全てが巣立つことはまれとされる。雛同士で群れを形成しない。一生を巣と海を往復して過ごす。トンネルを掘り巣にするほか、海岸の洞窟や丸石の間などを利用するが、時には地表面にも巣を作るときがある。卵を二個産み、四十日ほどで孵化する」

ダニエルの友達であるキャシーが待っていた。

「樹氷があるわ!」

「樹氷は、冷却れいきゃく水滴すいてきからなる濃霧のうむが地物に衝突しょうとつして凍結とうけつ付着ふちゃくした氷層のうち、白色でもろいものをいう。気温マイナス五度以下の環境で風の弱いときに顕著けんちょに発達し、気泡きほうを多く含むために不透明ふとうめいで、白色を呈する。小さな粒状つぶじょうの氷が無数に凝集する構造で、手でさわると簡単にくずれるほど脆く、樹氷が付着している物体をらすと簡単に落ちる。風上側へ向かって羽毛状に成長し、風が強いほど風上に成長するが、この様を俗に海老えび尻尾しっぽとも呼ぶ。弱風時には地物の全ての方向に付着する。日本では蔵王ざおうで一九一四年二月十五日に発見された樹氷林が観光資源にもなっており、樹木が完全に樹氷や雪によって覆われたものはアイスモンスターあるいは地元では雪のぼうとも呼ばれる。アイスモンスターの南限および西限は長野県のすがだいら高原こうげんとされてきたが、二〇一八年一月に白山で発見されて国内最南端、最西端を更新した。他に八甲田山はっこうださん八幡はちまんたい伊吹山いぶきざん、氷ノ山、富士山のものが知られていて、九州の中央部、宮崎県みやざきけん五ヶ瀬町ごかせちょう熊本県くまもとけん山都町やまとまち周辺しゅうへんにまたがる九州山地の高山地帯や、長崎県の普賢岳でも樹氷を見ることができる。黄砂こうさが到達し始める春先には、冬季に白色だった樹氷林がやや黄色味を帯びる。ドイツのシュヴァルツヴァルトでも見られる。樹氷は本来海老の尻尾を指す気象用語であるが、一九二〇年代前半に蔵王でスキー合宿を行っていた学生らが雪の坊を巨大な樹氷と勘違かんちがいして呼んだことが発祥はっしょうであることが樹氷発見から百年の節目に当たる二〇一四年に判明した。映画の蔵王ロケのシーンでも樹氷の呼び名が使われたため、全国的に広まったという。近年の調査で、現代で樹氷と呼ばれる気象現象は、一八七三年の国際会議で決定された気象用語ではsilver thawで、ほぼ透明な付着氷がglazed frostであった。しかし一八七七年に内務省地理局が英語から気象用語を翻訳する際、二つの英文が入れ替わったため、silver thawは樹氷にglazed frostはぎょうしもと訳された。凝霜は後に雨氷に変更された。一八九二年には中央気象台の職員があやまりに気づき、訳語の交換を提案ていあんしたが受け入れられず現在に至ったとされる」

「ここを抜けると、氷の神殿だ!」

ダニエルとキャシーに導かれて、ヒビキたちは氷の神殿にたどり着いた。

「神殿は、神をまつる建造物である。寺院が宗教者による修行の場、教会が民衆に対する布教の場であることを強調した言葉であるのに対して、神殿は神に対する祭祀さいしの場であることを強調した言葉である。日本の神社、仏教の寺院、中国の廟宇びょうう、キリスト教の教会、イスラームのカアバ神殿、古代ギリシア・ローマの宗教しゅうきょう施設しせつ、古代エジプトの宗教施設、古代オリエントの塔状建築物とうじょうけんちくぶつの上に付随ふずいする宗教施設などが含まれる。英語ではテンプルの語も当てられるが日本語の寺院に合わない物も多い。現在知られている最古の神殿はギョベクリ・テペであるとされている」

神殿の内部に潜入すると、

幻想的げんそうてきな世界だ!」

「氷で覆われている!」

そこは、氷でできた迷路だった。

「足元に気を付けて!」

「うん!」

ヒビキたちは、慎重しんちょうに迷路を進んでいくと、

「着いた!」

「氷でできた虎の像だ!」

と、最深部にたどり着いたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る