第72話 滝の上のキョンシー

 ヒビキたちを乗せたトリップ号は、にじいろたきを登ろうとしている。

「さあ、行くぞ!」

すると、

「すごい!」

「気持ちいいわ!」

滝の上に上ることに成功した。

 そこに、

「誰か助けてちょうだい!」

キョンシーが見返り美人の絵画のモンスターにおそわれている光景を目撃もくげきした。

菱川師宣ひしかわもろのぶいた見返り美人図は、絹本けんぽん着色ちゃくしょくである。緋色ひいろ衣裳いしょうを身につけた美人の女性が、ふとり向く様子を描いたもので、世界的にも非常に著名な肉筆にくひつ浮世絵うきよえである。この女性像の人気さは、師宣の美女こそ江戸女としょうされるほどであった。一九四八年発行、および一九九一年発行の切手きって趣味しゅみ週間しゅうかん、一九九六年発行の郵便切手の歩みシリーズ・第六集の各図案にそれぞれ採用されている。師宣の代表作にして、彼の代名詞的一図である。美人画かつ肉筆画である。女性は、十七世紀末期当時の流行であった女帯の結び方吉きちむすびと、紅色べにいろの地にきくさくら刺繍ししゅうを施した着物を身に着けている。それらを美しく見せる演出法として、歩みの途中で後方に視線を送る姿で描かれたものと考えられる。同時代で年下の絵師・英一蝶はなぶさいっちょうは本作に刺激を受けてか対抗たいこうするかのように、構図等に類似点の多い一図・立美人図を描いている。文化七年の山東京伝による箱書があることから、おそらく幕末には好事家の間で知られていた可能性が高い。また博物館に収蔵された時期も早く、六十番という若い列品番号がそれを物語っている。 現代の日本では、昭和二十三年十一月二十九日発行の記念切手の図案に採用され、これが日本の記念切手の代表的かつ高価な一点となったことも本作が大衆に周知されるに少なからず影響した」

「行こう!」

「うん!」

現場に向かうと、見返り美人の絵画のモンスターにキョンシーの救出作戦が始まった。

「よし、やってみよう!」

カナタは、ペリドットのマジカルジュエルを魔法まほうの筆にセット。それをモンスターに向けてると、

「どくどくこな!」

ジョンの魔法によって、モンスターは毒状態になった。

「決めるなら、今しかない!」

ヒビキは、サファイアのマジカルジュエルを魔法の筆にセット。それをモンスターに向けて振ると、

「ジュエリーレイン!」

チララの魔法によって、モンスターは絵画の姿にもどっていた。

「キョンシーは、硬直こうちょくした死体であるのに、長い年月を経ても腐乱ふらんすることもなく、動き回るもののことをいう。広東語読みはキョンシー、普通話読みはチアンシーである。日本語の音読みできょうしである。もともと中国においては、人が死んで埋葬まいそうする前に室内に安置しておくと、夜になって突然とつぜんうごきだし、人を驚かすことがあると昔から言われていた。それが僵尸きょんしである。僵という漢字は死体が硬直こうちょくすると言う意味で、動いても、人に知られたり、何かの拍子ですぐまた元のように体がこわばることから名付けられた。ミイラのように乾燥かんそうした尸体は中国でも出土しているが、これはいぬいしかばねと呼び、下位分類あるいは別種として区別される。僵尸となると尸体であるにもかかわらず一切いっさい腐敗ふはいせずに生前同様にふっくらとしていて、かみの毛も長く生えている。性格は凶暴きょうぼうで血にえた人食い妖怪ようかい(ようかい)である。さらに長い年月がたつと、神通力を備えて、空を飛ぶ能力などももつとされる。清朝の野史である『じゅつ異記いき』も湖南省の村で出たという記録を残しているが、伝説の域を出ない。中国湖南省西部よりの出稼でかせぎ人の遺体を道士が故郷へ搬送はんそうする手段として、呪術じゅじゅつで歩かせたのが始まりという伝承があり、この方法をかんしかばねと称する。清の徐珂じょか清稗類鈔きよしひえるいそう方伎類かたわざるいの送尸術では、貴州省の材木商人が林業従事者の死体を運ぶ際、先導する者と、加持かじ符咒ふまじないした水を満たしたわんを持った者に付き従わせて家まで送るという。文学作品としては明代から清代にかけて多くが存在するが、有名なもので清代のこころざしかい小説しょうせつ袁枚おんまいの『子不語』・畫工畫僵屍他二十作あり、『続子不語』第四巻、きのあかつきあらしの『閲微えつび草堂そうどう筆記ひっき』、『いさささい』一巻尸變がある。また、『西遊記』でもきょうしかばねが登場し一行に三度おそいかかり、二度偽の死体を残し逃げ去り三度目に孫行者の如意にょいぼうに打殺された後に行者道 他是個潛靈作怪的僵尸在此迷人敗本被我打殺他就現了本相他那脊梁上有一行字叫做白骨夫人《ぎょうじゃみちほかぜこぜんりょうさくかいてきこうしざいしめいにんはいほんひわださつほかじゅげんりょうほんしょうほかなせきりょうじょうゆういっこうじきょうつくはっこつふじん》と孫行者が僵尸であると説明し、背骨に白骨夫人という名をもつ本相をあらわした」

「助けてくれてありがとう!あたしはキョン!」

キョンはヒビキたちに挨拶あいさつすると、

「さあ、ハミングタウンに帰ろう!」

「うん!」

ヒビキがスマートフォンで転送アプリを起動して、ハミングタウンに帰ったのであった。

 すると、

「でっかいトンネル完成間近!」

と書かれている看板に、洞窟どうくつへの入り口があった。

「でも、赤いスプレーでバツ印がつけられている」

「工事はどうなってしまったのか?」

しかし、トンネル工事は頓挫とんざしてしまった様子。

「そのなぞを解明しよう」

「うん」

ヒビキたちは、謎がひそんでいるという岩石の洞窟に入るのであった。

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