第一章 蹶起(ケッキ) 5 優梨
「
翌日の学校で陽花は優梨に話しかけた。
「本当に?」優梨は嬉しくなって晴れやかな反応する。
「うん。まずは得意な日本史を頑張ってみるって!」
非常にありがたい。最初は諦めていた風岡だが、心境の変化だろうか。ひょっとしたら陽花や影浦が説得してくれたのかもしれない。
「風岡くんは偉いよ。普通だったら諦めるか、せいぜい体力作りに徹するのに、ちゃんと勉強もやるって」優梨は素直に感心し、風岡を讃えた。
「全国のお茶の間に、恥は
「私はともかく、瑛くんの実力は確かだからね。風岡くんもそう思うだけでも偉いもんだよ」
優梨自身、高校生にしては博識なほうだと自負しているが、それでも影浦の知識量に舌を巻かされることが多々ある。本人は、児童養護施設や図書館で本ばかり読んでいるからと謙遜気味に言うが、あの博学さを手に入れるには、かなりの数の書籍を
「ところで、作戦とかはあるの?」陽花は優梨に問う。
「そうだね。まずは顔合わせと、できれば二週間に一回はミーティング。うちも、あとたぶん
「結構具体的に考えてるんだね!」
「もちろん! だって優勝狙うんだから!」優梨は力強く言った。
「すごい意気込み! でも何だか実現してしまいそうなオーラがあるから、怖いわ。優梨は……」
「急かもしれないけど、今週土曜日の夕方は空いてる? 風岡くんも含めて」
「土曜日の夕方? だって土曜日はいつも一緒に『千種進学ゼミ』じゃん」
『千種進学ゼミ』とは、優梨、陽花、そして日比野が大学受験対策のため通っている予備校である。彼/彼女ら三人は理系EHQ(Extreme High Quality)と呼ばれる理系で最も優秀なクラスに属している。
「だから、きっと大丈夫と思って聞いてるんだよ。予備校の後なら私と陽花と日比野くんは一緒にいるじゃない? 瑛くんはその時間大丈夫って確約取ってるし、あと、風岡くんが大丈夫なら五人集まるでしょ? 教室だって借りずとも、そのままEHQの教室を使わせてもらえば良いじゃない? ここは私のリーダー権限を行使させてもらうけど」
「なるほど。さすがだわ、優梨は」陽花は呆れとも感心とも取れるような反応を示した。陽花は続ける。「悠は大丈夫だよ。どうせいつも暇してるんだから」
「勝手に決めつけてるし!」優梨は笑った。
「最初は顔合わせだけ? 瑛くんと風岡くんをわざわざ呼び出しておいて、顔合わせだけってのも悪いし、もうちょっと考えてるよ」
「どんな?」
「うん。願掛けをね」
「願掛け……? 優梨らしくないね」
「そうかなあ」あくまで優梨は平静を装った。怪しまれているのか。
「だって、優梨くらいの実力者が、神様の力を借りるなんて思わなかったもの。だって、優梨は血液型占いですら信じないくらいだから、間違いなく非科学的なものには興味ないと思ってた。お参りするくらいなら勉強に時間を割いた方が合理的だって、思ってそうだったから」
「確かにそうなんだけど……、他のみんなはそうじゃないかもしれないから!」優梨は、取りあえずそう言ってお茶を濁した。
再び痛いところを突かれた。実はその通りなのだ。優梨は典型的な理系的思考で動いている。非科学的なものは信じない。『神頼み』という至って非科学的な要素は、優梨の肌に合わない。そんな優梨の性分を陽花はよく知っている。
全員神頼みしたら全員合格できるのか、と言ったらそんな訳がない。もし論理的に考えるなら、それが気休めとなって、過度の緊張から解放させることだろうか。しかし、メンタルだけをサポートしても合格できるものではない。苦難を乗り切るのは、その人に備わった能力であって、努力によって裏打ちされるものだ、と考えている。
ただ、『高校生知力甲子園』はやはり水物だ、と感じている。運による要素は多分にある。また、チームプレイである以上、自分だけの努力ではどうにもならないと思っている。では、精神的にも一致団結を図るため祈願を提案したのだ。
といいながらも、『高校生知力甲子園』にただ参加するだけであれば、わざわざこんなことしない。やはりこの大会には並々ならない意気込みがある。それは、言わずもがな、影浦を進学に導くことだ。
その情報を、陽花、風岡、日比野の三名には共有していない。現段階で共有して良いものなのかどうか、迷っているのだ。学業で優秀な成績を修めても、このような選択には迷わされている。数学の難解な公式は瞬時に理解できても、人情の繊細な機微には平均的な高校二年生と
ゆえに、いつかは打ち明けたいと思っているが、いつがその時機なのか、よく分からずにいる。最初に言うのがベストなのだろうか。しかしながら、優梨の自己満足とも取れる身勝手な理由と言われればそれまでだ。特に日比野に至っては影浦のことはまったく知らないはずである。そんなことを打ち明けられて彼らの気勢が削がれてしまっては、せっかくの計画が
取りあえず、まずは状況を窺おうと思っている。少なくとも今それを言うのは得策ではないような気がしていた。
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