第五章 頡頏(ケッコウ)  10 優梨

 決勝戦のルール説明は続く。一回戦のように五人一組で一つの早押しボタンに群がるのか、そうではないのか。

「チームは二人、二人、一人に分かれてもらい、それぞれ先鋒、中堅、大将とします。大将はリーダーのみとします。先鋒、中堅はどのようにするかは各チームで相談して下さい。先鋒は三ポイント、中堅は五ポイント、大将は七ポイント持っております。先鋒から解答台に立ってもらい、ポイントを失ったチームから中堅に代わって下さい」

 と言うことは、大将と中堅、あるいは先鋒と戦う可能性もあるのだろう。いわゆる勝ち残り戦である。説明は続く。

「問題は、早押し問題と、早押しではなく解答一斉オープンの問題とに分かれております。早押し問題では、正解したチームは、他の二チームのどちらかからポイントを消し去ることができます。早押し問題のときのお手つきは、その問題の解答権を失います。またどのチームからも正解が出なかった場合はポイントは動きません。一方の解答一斉オープンの問題では、正解の人数によって、ポイントの動き方が代わります。三チームとも正解の場合はポイントは動かず、正解者なしの場合は三チームとも一ポイントずつ失います。一チーム正解の場合は、他の二チームが一ポイントずつなくなります」

 なるほど、想定範囲内のルールだと思った。

「ただし、一チームのみ不正解の場合は、二ポイント失いますので注意して下さい」

「えーっ」と、何人かから声が上がる。嫌なルールだ。一人だけ不正解で恥ずかしい思いをするだけでなく、ポイントも大きく失うというのだ。

「問題は、難問を取り揃えております。また、先鋒から大将戦に移ることを想定して、段々問題の難易度は上がってまいりますので、みなさん心して挑んで下さい!」

 なるほど、仮に早いうちに先鋒と中堅が敗れても、後半になるに連れて問題の難易度がアップし、リーダーに有利の問題になる、ということだろう。しかし、これはリーダーには最優秀の人間が務めるという大前提のもと成り立っているルールだ。優梨は成績に対する自負はあるが、自分が最後の砦であるということを再認識し、プレッシャーと責任を感じた。


「どうする。先鋒と中堅?」さっそく陽花が、意見を求めてきた。

「お、俺は先鋒で行かせてくれ! 後々難易度が上がるなら、最初の方が良い」真っ先に風岡が挙手して立候補した。それに対しては特に異論はなさそうだ。

 どんな問題が出るか分からないが、優梨は風岡の実力も認めている。彼は、早押し問題では結構思い切りが良いのだ。優梨はついつい不正解を恐れて慎重になってしまうが、風岡はその点勢いがあるので、決して捨て駒なんかではない。

「悠が先鋒なら、そのパートナーは河原さんか?」日比野が確認するように聞いた。

「いや、カップルがパートナーになるという制約はないから、もう少し戦略的に考えよう」優梨は一度制した。

 日比野なりの気遣いかもしれないが、それはこの場では不要である。例えば陽花と組むのが、影浦や日比野だって構わないはずだ。

「やはり得意分野が被らない組み合わせが良いんじゃないかな?」そう言ったのは影浦だ。同感である。

「ざっくり言うと、悠と影浦くんは文系、日比野くんとアタシは理系だから、『文理』での組み合わせかな」陽花はそう言って確認した。皆、うなずいている。

「じゃあ、中堅は自動的に影浦くんとなって、河原さんと俺、どっちが先鋒、中堅を受け持つかだな」日比野が言う。

「ア、アタシ、プレッシャーに弱いし、日比野くんの方が実力があるから先鋒で──」

 果たしてどうだろうか。先鋒は三ポイントしか付与されていないが、チームの勢いづけという意味では、確実性が欲しい。陽花に確実性が足りないわけではないが、銅海でも一桁の順位に食い込むらしい実力の日比野の精密さをもってすれば、易々やすやすと誤答することはない。したがってチームに勢いを与えるだろうと、推察する。

「いや、待って。敢えて、陽花は中堅でどうかと考えてる」

「まじで? どうして?」

「陽花、すごい賢いんだけど、あがり症なところあるから、瑛くんと組んでもらいたい」

「た、確かに、それはあるかな。悠と影浦くんなら、どちらの脳みそが頼れるかは歴然だよね……」

「おいおい、分かっちゃいるけど、露骨に言うな」風岡は苦笑いして言う。

「じゃあ、俺は悠と先鋒で行けば良いのか」日比野が再確認する。

「うん。それでお願いしたい。みんな、異論は?」

 異論はなさそうだ。皆、コクリと小さく首肯する。

「リーダー決裁で。俺は先鋒で良い流れを作ってくるよ」と言ったのは日比野だ。決裁なんて、高校生がよく使う発言ではないが、ここでは、私がある程度の決定権を持つのだろう。

「お願いします!」優梨は強く言った。


 どうやら他のチームも先鋒、中堅が決まったようだ。

 用意されたパネルの先鋒、中堅の欄に名前が書かれていく。もちろん大将の欄も……。

【札幌螢雪高校チーム】

先鋒:齋藤さいとう駿しゅんさわちか 

中堅:佐々木ささき泰世たいせいぎゃく光一こういち

大将:白石麗

【滄洋女子高校複合チーム】

先鋒:風岡悠・日比野五郎 

中堅:河原陽花・影浦瑛

大将:大城優梨

【蘇芳薬科大附属高校チーム】

先鋒:じき祐介ゆうすけなんすすむ 

中堅:たか江洲えすあさ砂川すながわよし

大将:桃原千里


「では! 各チームの先鋒のお二人は、解答台について下さい!」三塩アナウンサーの声が張る。


「じゃあ、行ってくる!」風岡は、右手で敬礼のような仕草をした。日比野も追従するように頷いた。

「頑張って!」優梨は肩を押した。

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