幕間その一

▲博愛の色▲


 あの娘は予想どおり第一関門を突破してきた。


 セルラーパークの特大モニターに、『大城優梨』という文字を確かに見た。

 その瞬間、歓喜ではなく武者震いが私の身体を駆け抜けた。ひさびさの感覚だ。


 愛知県大会の優勝チームは別のチームだった。さすがにそのときはショックだったが、敗者復活でのし上がったのだ。


 敗者復活? 何故?

 不測の事態でも起きたのか?

 納得はいかないけどそんなことはどうでも良い。 

 愛知県でどんな問題が出たのか分からないが、どんな形であれ役者は揃った。


 あの娘と晴れ舞台で戦いたい。勝ちたい。できる限り大きな舞台で。

 勝利して栄光よりも大きな充足感を獲るべし。

 それが私の原動力であり、私が私である所以ゆえんなのだから。


 磨き続けた論理的思考能力と刻み込んだ豊かで確かな知識。

 加えて、私の第六感シックスセンスは今も冴えまくっている。まるでキャンバスに描いたとおりに、現実となっていくようだ。


 ──勝てる。

 あのときは負けてしまったけど、今なら絶対勝てる。


 あの日の夢が正夢になるまで、あと少し。

 最高の檜舞台はすぐそこだ!



●平等の色●


 調査報告書に記載された、輝かしい数字。

 慎重な作戦が功を奏し、彼女を誘導することに成功した。

 そして見事標的ターゲットを携え、全国大会の舞台へ……。


 長い道程みちのりのようで、案外順調に事は運んだように思える。

 知力と行動力と財力、さらには狙った獲物は逃がさない執念は、我ながら誰にも負けないと思っていた。


 あとは、彼女に順調に勝ち進んでもらうだけだ。必ず決勝まで。

 相手が才媛なら、私もそのインテリジェンスをもって迎え撃つまで。


 大城優梨 IQ 166のMENSAメンサ会員。上等だ。

 私も英才だ。否定することが嫌みになるくらい周りにもてはやされてきた。しかし、実際それだけの実力を備えていると思う。知力で私に勝る人間を生で見たことはない。

 この高校は全国でも有数の進学校だというが、外国から編入学の私であっても、他の生徒の追随を許していない。もともと語学に対する興味で日本語も多少は知っていたが、本格的に勉強し始めてからは一年に満たない。


 面白い。

 彼女は優勝に向けて、躍起になっているはず。

 ダイヤモンドのようなきょうを掲げただかい彼女の眼には、前しか映らないはず。

 まさしくシナリオどおりだ。

 

 私は、必ずや欲しいものは手に入れてみせる。

 "Impossibleアンポッシーブル n'est pas françaisフランセ."

 私の辞書に不可能の文字はない。



◆自由の色◆


 彼は、私を命をして生死の境から救った英雄ヒーローである。たとえ児童養護施設に入所している不遇な身であれど、私にとっては最も高尚にして高雅な存在。家族以外で、いちばん愛していて、いちばん尊敬している存在だ。


 『愛』とは一言で言うと何ぞや、という哲学的な問いを出されたことがある。忘れもしない約十一か月前のあの日に。

 当時高校二年生だった私には分からなかった。どんな難問にも答えを導いてきた私が、こんなシンプルな問いの返答に窮したのだ。しかし、その解は非常に美しく鮮やかで、かつ溜飲が下がる思いがしたものだ。


 彼と同じけつみゃくを有するくだんの出題者は、『慈しみ』もしくは『自己犠牲』と答えた。


 彼は、私に最大級の『慈しみ』と『自己犠牲』を提供している。つまり、彼が私に『愛』を与えているとするならば、私は彼に『愛』をこれっぽっちも与えていない。そんなのは耐えられない。


 エゴと言われればエゴかもしれない。そのエゴに彼や友人を大いに巻き込んでいる後ろめたさはある。

 それでも、みんな満足している。そこには確固たる結束力という絆があるという自負がある。

 無事優勝できれば、私には彼を大学進学に導く確約がある。彼が拘泥こうでいする『親の力を借りない』という条件もクリアできる。


 予選大会では敗者復活での全国大会進出を決めることができた。一瞬ヒヤリとしたが、まだ運は味方してくれている。

 その運を手放さないようにして、全国大会の開催される東京に臨みたい。

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