幕間その五
▲博愛の色▲
やっと、待望の瞬間がやって来た。
苦節十年というほど実際には長い年月ではないが、私にとってはそれくらい長く感じた。
大城優梨と決勝戦最後の舞台で対峙する。あのときの明晰夢はやはり予知夢だったのだ。
白石麗という邪魔者もいるが、過去の大会で二チームだけの決勝戦というのはなかった。
だから、そこだけは目を
早いところ白石さんを解答台から引き摺り下ろしたいが、あまり彼女にかまけすぎて、大城さんにポイントを奪われてしまってはならない。
自分のライフ残量に余裕があれば、白石さんのライフを削り取り、ライフに余裕がなくなれば、大城さんとの一騎打ちに出る。
きっと、大城さんは、私との因縁に燃えているはず。だから大城さんは、私のポイントを消しにかかるだろう。もしくは、大城さんも私の意図を酌んで、白石さんを始末してから、私と一騎打ちを買って出てくれるのだろうか。
何とも言えないが、リーダーは7ポイント付与される。油断は禁物だが、戦況を読む余裕はある。
白石さんは確かに強い。でも、私の目標はあんたなんかじゃない。
私の中で崇高なまでにもっとも美しく輝き続けた遥かなる憧憬、大城優梨だ!
ふと、そう言えば、モナコ進出を決めた後、テレビ局の記者は、私に優勝をお願いしたいと言っていたことを思い出した。確か灰谷という名だったか。少し考えてみたが、洞察力の鋭い私でも、灰谷の意図がよく分からなかった。ただ、私が優勝し、他のチームを優勝させないことに意味があるというのなら、他のチーム、つまり滄女、あるいは札幌螢雪高校チームのメンバーに、その団体の関係者がいるということなのだろうか。そう考えてみたとき、どうしても大城さんが、何か不正に関係しているとは考えられなかった。そう期待しているだけかもしれないが、なんとなくそのような気がしていた。
●平等の色●
今頃、番組運営スタッフ、殊にディレクタークラスは笑いが止まらないだろう。
ミスコンやそこらのアイドルのイベントを遥かに凌駕する、美しい才媛たちの鼎立。
彼女らは美しいドレスを着飾ったり、歌や踊りを披露するわけではないものの、知力という最高に優美で壮麗な装身具を披露することで番組を彩ることができる。
こんなことがこれまでにあっただろうか。
桃原千里も思いどおりに動いてくれた。桃原千里は、大城優梨には程遠いものの才媛だ。大城優梨を宿敵として、この知力甲子園に懸けているが、美貌は、確かに現代人受けするアイドル然、女優然とした美貌だ。
我が社が、番組の共催に名乗り出たときに言われたのは、視聴率だ。テレビ局は、視聴率至上主義と言った感じで、そればかり考えていると言っても過言ではない。であれば、決勝戦では、いままでの先入観を覆すくらいような、絶世の美女高校生三人対決を実現化してみせますよ、と言ったら、それなら視聴率が稼げると言って、安直に喜んだ。
桃原千里はそのためのアイテムに過ぎない。悪いが、大城優梨への対抗心もすべて利用させてもらった。
そして、本来の私のミッションである、影浦を我が社に引き込む。ヘッドハンティングなんて甘っちょろい言葉ではない。彼の染色体ごと『NOUVELLE CHAUSSURES』に格納する。
そのために、大城と桃原が勝った場合には、影浦瑛獲得権を
ただ、テレビ局的には三人同時に映っている
一応、こちらもフェアに戦いたいから、どんな問題が出るかは番組に一任している。ここからは
◆自由の色◆
本当に本当に、日比野、風岡、陽花、影浦の四人には感謝している。
私のわがままと言えば弁解の余地もない。しかも、白石さんの宣戦布告まで受けて、物々しい緊張感を与えてしまっている。これだけ巻き込んでおきながら、精一杯ベストなパフォーマンスをしてくれている。
結果として、この私の登場時にはまったくのイーブンな状態である。
桃原さんは、きっとこれを夢にまで見た最高の
白石さんも、ようやく瑛くんを手中に収める
懸案事項は、桃原さん、白石さんの両者からライフを奪われるかもしれないということだ。
私も相当勉強してきたが、この両リーダーからの集中砲火を浴びて、耐え忍ぶ自信はさすがにない。
ライフを消されないようにするためには、誰よりも先にボタンを押して、誰よりも確実に正解するしかない。
私の戦略は、言うまでもなく正答して白石のライフを減らすこと。もちろん千里にも負けたくないが、優先度が違う。
白石さんの言うことが本当だとするならば、瑛くんが大学に行く夢は叶ってしまっている。しかし、白石さんの勝利は、それ以上に瑛くんそのものを相手に引き渡すことになる。それは、大学に行かせる行かせない云々以上に大きな問題なのだ。
問題は徐々に難しくなってきている気がする。先鋒、中堅、大将と少しずつ難易度を上げてきているようだ。
加えて相手は強敵だが、私だって持ち前の写真記憶で、知識を蓄え続けてきた。東大生だってなかなかいまの私には勝てないくらいの自負はある。
あとは、戦略と早押し問題で押し負けない思い切りだ。
自慢の集中力を、ダイヤモンドのように光らせて、この勝負、正面から受けて立つために、私は解答台に向かった。
「ファイト! 優梨!」陽花の声は私の背中を押す。
「任せて。必ず、優勝を届けるから!」
現在──。
札幌螢雪高校チーム:大将・七ポイント。
滄洋女子高校複合チーム:大将・七ポイント。
蘇芳薬科大附属高校チーム:大将・七ポイント。
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