第七章 訐揚(ケツヨウ) 5 日比野
見事、大会で優勝を飾ったものの、帰国してからリーダーである優梨からは音沙汰はなかった。せめて祝勝会でもやるかと思っていたが、その様子はない。
日比野が祝勝会を期待していたわけではないので別に良いのだが、どこか落ち込んでいるのではないかと思った。いま思うと、優梨は帰途につく間も明るく振る舞っていたが、どこか無理しているようにも見えた。
数日後、陽花から電話が鳴る。
『最近、優梨が元気ないんだよね……』
陽花もそう思っていた様子だ。『千種進学ゼミ』の夏期講習で優梨とは取っている講義が違ったので、予備校で顔を合わせることはなかったが、陽花はどうやら同じ講義を取っているようだった。そんな彼女が言うくらいだから間違いなかろう。
そして、その理由は最近テレビで話題になっているNOUVELLE CHAUSSURESの代表取締役社長が藍原議員に不正に政治献金していたのではないのか、というニュースが関係しているのだろうということだった。
白石に勝つことによって、影浦の大学進学に係る費用が担保される。大手車メーカーにとっては
そして、翌日急遽、陽花、風岡、日比野の三人で、
ただ、会う目的は明確であった。影浦の進学をどうにかこうにかしたかった。
優梨も誘うべきでは、との意見が風岡からあったが、陽花はそれは止したいとのことだった。今回、三人寄ったとして、
同時に、影浦に対するチームメイトの優しさを感じた。今回、影浦は優勝に大いに貢献した。いくら優梨がいたとしても、彼がいなかったら、優勝を手中に収めることは叶わなかっただろう。
そんな前途多望な人間を、経済的な理由一つで高卒で就職させざるを得ない状況は、日比野にとっても悔しい。一方で、第三者の金銭的援助を固辞し続けるという影浦に、何とか大学進学をさせる妙案なんてあるのか。知力甲子園で優勝するくらいの豊富な雑学を身に付けていても、社会経験のない高校三年生にアイディアが生まれるのか。少なくとも日比野にはすぐには思い付けなかった。
ここで、優梨や影浦の知恵があれば良かったかもしれないが、それは借りられないのは痛い。それでも、一人で手を
そして翌日。夏休みなので私服である。我ながら相変わらずダサい洋服だが、それでもいま持っている中では
「よう、五郎ちゃん、久しぶり……でもないな? 元気か?」
「急に呼び出してごめんねぇ」風岡と陽花は元気そうに言う。
「全然、構わんよ」
一同は、栄のスターバックスに入った。正直、このようなカフェには日比野は
店内は、昼間でありながらかなり混雑していた。大学生あるいは高校生、ビジネスマンだけでなく、主婦らしき人もいた。どの人もオシャレに見えるのは、日比野が見た目に引け目を感じ始めているからだろうか。
注文の仕方すらよく分からない日比野は、無難にアイスコーヒー(正式な商品名は異なる)を注文する。陽花は、いかにも甘そうなパフェ然とした飲み物を頼んでいた。風岡は、そんな日比野に配慮してか、日比野と同じものを注文した。
「大城、そんなに元気ないのか」
席に着いて、風岡はさっそく陽花に問うた。
「うん。飛行機乗って帰るときは元気に振る舞っていたけど、帰ってからは、連絡もあまり返してこないし、予備校でもどこか上の空だし、お茶しに行こうって言っても理由をつけて断られるし……」
「そうか。陽花と大城は一心同体のように一緒にいるもんな」
確かに、陽花と優梨は常に一緒にいるようなイメージがある。互いのスケジュールもおそらく熟知しているくらいの関係で、陽花の誘いを断るというのは重症とのことだ。
再び風岡は口を開く。
「原因は議員の不正献金のニュースか?」
「優梨は何も言わないんだよ。でもそれしかないと思ってる。影浦くんを進学させる目標が、この一連のニュースがもとでおじゃんになったんだと思う」
しかし、詳しい約束の内容が、この三人は誰も分からない。分からない以上、どうすることもできないというのが、本音だ。やはり、優梨がいないと始まらないのでは、と思い始めた。
「どうやって夢を叶えるんだ?」日比野はさっそく問うた。
ところが、陽花に方策がないわけではなかった。
「地道かつポピュラーな方法だけどあるよ。そして、それにはみんなの協力が必要なの」
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