幕間その二

▲博愛の色▲


 ヒヤリとした。それが率直な感想である。

 何故に一回戦を突破できなかったのだ。


 揺さぶりをかけすぎたか。


 愛知県大会でも彼女たちは敗者復活戦を経験している。

 それは五人のチーム戦だから、足を引っ張る人物もいたかもしれない、と自分に言い聞かせていた。影浦くんや五郎くんはいいとして、河原さんと風岡くんは凡ミスを犯すことがあり得るかもしれない。


 しかし、一回戦は大城さんのようにぬきんでたメンバーが一人でもいたら、勝ち抜けるはずだ。

 現にチームワークは二の次に戦ってきた自分は、大城さんたちと対照的に鮮やかに勝ち進んだのだから。


 結果的に一回戦の敗者復活戦では本来の調子を取り戻したのか、大城さんたちは這い上がってきた。傍観していたが、見事な結束力である。


 ──結束力。そしてチームワーク。


 私には欠けている言葉だ。

 欠けているというのは、チームにそれが欠けているという意味だけではない。

 自分自身にもだ。

 これまでの人生で、一度たりともチームワークを意識してきたことはない。常に孑然けつぜんと戦ってきた。どちらかと言えば敢えて忌避してきた。

 五人一組でなくたっていい。参加要件がそうなっているだけだから仕方なく付き合っているだけだ。

 私以外の四人は、機械的に高校三年生の学年二位から五位を集めてきた。全員男だ。

 高校が県下一の進学校とは言え、彼らの実力は大城さんの足下にも及ばないが、最高の舞台で私が大城さんに勝つまでは、悪いが黒子に徹してもらう。



●平等の色●


 お手並み拝見させてもらった。


 短時間ながら、大城優梨と影浦瑛を『分析』できたと思っている。


 大城優梨は、高い知性を持っているが、過度のプレッシャーには弱く、衆人環視の環境においてその傾向は強く出る。つまり体裁を気にしやすい。

 影浦瑛は、高い知性を持ちつつ、環境の変化などによるプレッシャーに耐性があるように見える。一見柔和な性格のようだが、冷徹な一面もある。


 影浦は、実に魅力的な人だ。私という存在を、多面的に満足、充足させ得る数少ない存在だ。まさかこんなに早く見つかるとは予想外であったが。


 そして、一見完璧な知能を持つ大城優梨に、隙はいくらでもある。


 滄洋女子のチームとしての『分析』もなされた。一回戦では敗退したが、保険としてかけておいた敗者復活戦では勝ち進んだ。

 チームワークに優れている。三校寄せ集めの五人にここまでの結束力を育ませた、大城優梨のリーダーシップは、大きな強みになるだろう。


 大丈夫だ。放っておいても、このチームは決勝まで進み、我々と対峙することになる。そう確信できる。

 

 白と青のビコロールな舞台は、決戦の舞台となるあの地と配色が異なるのが惜しい。望みすぎなのは承知しているが、強いてやるなら、敢えてトリコロールにして赤を混ぜる手もある。赤を象徴するチームは、蘇芳薬科か。桃原という赤髪の彼女は、奇しくも大城優梨に因縁があり、打倒大城を掲げているので、彼女を利用してみても良い。



◆自由の色◆


 辛勝。何とか勝ち進んでいる。

 敗者復活戦に救われた。もともと狭き門で六十チーム中の十八チームに残れただけでも大したものかもしれないが、私がそれに甘んじるわけにはいかない。


 なにしろ彼の人生がかかっているのだ。


 言ってしまっては悪いが、桃原千里の因縁にかまけている場合ではない。彼女が私に勝って得られるものは、彼女の自己満足のみに過ぎない。

 私は、命を賭して救ってくれた彼に報いるべく戦っている。影浦瑛という天賦の才の持ち主は大学に行かねばならない。


「能力を持った者は、その能力を行使する責務があると思うんだ」

 チームメイトの日比野くんが二年前私にこう言った。非常に心に響く言葉で、私が医学部を目指すきっかけの一つとなっている。

 ならば、瑛くんは、私が医学部に行く以上に、大学に進学する責務がある。彼の能力は、一流大学、それこそ最高峰のT京大学レベルに匹敵する。それは間違いない。


 勉強する環境を与えれば、彼は水を得た魚の如く、その類稀な知性を活用してくれるに違いない。そうなれば、この日本にとって大きなヒューマン・リソースとして、能力を十二分に発揮するに違いない。

 だから、私は自己満足ではなく、将来の国益のためにこの舞台に望んでいると言えよう。


 桃原さんの頭脳は脅威だ。確かな実力を伴っている。さらに、随所で仕掛けてくる揺さぶりと見下すような視線。動揺してはいけない。彼女はあくまで自己満足なのだ。


 勝利は誰にも邪魔させない。

 桃原さんにも大会運営部にも、そして瑛くん自身にも……。

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