幕間その六

▲博愛の色▲


 大城さんが優勝した。悔しさがないと言ったら嘘になるが、不快な感覚はない。むしろ爽快感すら覚えている。


 途中から、大城さんと白石さんには、太刀打ちできないような気がしてきた。あの二人は本当にすごい。一回戦で私は、一問目から二問連続正解で出し抜いたが、ビギナーズラックとも言える現象だった。

 いざという場面で、彼女たちには底力がある。

 特にあのブラックホールの大きさを答えさえる問題では、恐れ入った。誰かが、優勝してほしいと、私に託してくれたが、限界を感じた。

 でもせめてもの望みは、私が幼稚園以来、憧憬の的として一方的に近づきたい、そして超えたいとこいねがってきた大城さんに、最後のライフを消し去って欲しかった。そして、その願いを彼女は聞き入れてくれた。


 その後、新企画の問題で、大城さんと白石さんはデッドヒートを重ねた。そのとき再び、ある男性に呼ばれた。今度は運営スタッフの一人だったが、あの灰谷から連絡を受け取っていたらしい。

 どうやら、件の黒幕の団体というのは、今大会の共催のNOUVELLE CHAUSSURESだそうだ。そして、灰谷らが意図するのは、団体の関係者である白石の優勝を阻止したいとのこと。


 しばらく、『デュアルアンサー早押し』で尺を伸ばす。白石さんと大城さんの実力なら、きっと両者正解し続けるから、その間に、大城さんに有利な問題を出したい、とのことだった。テレビ局としてもいけない考えだって分かっているが、不正を働いている企業が共催で、その企業とテレビ局が癒着をしているようなことが明らかになってはいけない。その疑惑を解消するために、札幌螢雪高校チームが優勝を阻止せねば、とのことだった。

 何と無茶苦茶な考えかと思ったが、滄女のメンバーたちの誕生日に関連した問題なら、大城さんの閃きを呼び起こすには充分ではないかと思った。さりげなく情報提供した。

 運営スタッフは考えていたが、何とかしてみると言って、辞去した。

 クイズ問題を作るのは容易ではない。尺を伸ばしてまで新しい問題を作ることに、彼ら、いや局全体の執念を感じる。実は遠目で眺めていたが、五節句に関する閃き問題を作っていることに驚愕した。実はそんな話題を、大会の日の夜、葛西臨海公園で五郎くんと話していたからだ。

 特定の誰かに有利な問題を出すことは是認しかねるが、大城さんの優勝は私も望むことだ。

 休憩時間を使って、私が突然河原さんの誕生日を聞いたときは、皆不審がっていたが、結果的にはうまくいった。

 まさか、こんな大茶番劇を誰にも知られるわけにはいかないな、と思って私は、フフと鼻で笑った。



●平等の色●


「白石さん、さあ、覚書のとおりにしてもらいますよ。ちゃんと絶対してくれるんでしょうね!? ここで契約放棄は許しませんから!」

 大城優梨は得意げにそんなことを言った。


 未だ信じられない。最後の問題は私だって分かった。

 タイミングもほぼ同時だったはず。なのに、間一髪で押し負けた。


 手中に収めかけた影浦瑛を、こんなところで逃すなんて。いままで狙ったものは一切逃さなかった。すべて私の思惑通り誘導し、思い通りに操ってきたし、今回もその自信があった。


 問題の作成はテレビ局に任せていたが、最後の方は何か挙動がおかしかった。

 スタッフは忙しなく動いているし、大城さんと両者一歩も譲らない、言い換えれば差がつかない問題を延々と出題してきた。


 これは何かテレビ局側の意図が働いているのか。その意図は、概ね私の意向に反する何かが。私は何か不穏な空気を悟った。何が起きているのか、いや起ころうとしているのか。



◆自由の色◆


 私が勝ったのは執念の賜物なのか、ただの幸運なのか。おそらくその両方だったと思う。

 しかし、何かしら追い風が吹いているような感じが途中からしていたし、最後の問題は、桃原さんが予言したかのような問題だった。


 桃原さんは、洞察力を超えて予知能力があるのか。

 今考えてみると、彼女は、高校一年生のとき、私と陽花に、いい出会いがあると予言していた。実際それ通りになったのだが、今回こんなにズバリ来られると恐ろしさすら感じた。


 ただ、いまは、あの白石麗に、約束を破棄されてはならない。

 覚書どおり実行するよう念を押しておいた。


 その矢先だった。瑛くんから、意外かつ驚愕な発言を聞くことになる。

「僕の勝手な心配事かもしれないけど。これ、放映されない可能性もあるかもしれない」


 彼が嬉しそうな表情を一切しなかったのはこれが理由だったのだ。

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