第四章 譎詐(ケッサ) 9 日比野
キーワードを提供されたときの漢隼高校チームのヒント提供者の三人(
確かに、分かりやすいヒントだ。
歴史上の人物。ヒントは出しやすいのではないか。それくらい特徴的ではある。
しかし、自チームにも相手チームにも同じくミスリードヒントが提供される。ハンディキャップは存在しない。知力だけでなく発想力、お互いの戦略の巧妙さ、洞察力などを総合して、勝敗を決するのだ。
風岡、影浦、陽花の三人は、先ほど同様に何やらいろいろ話し合い、書いては消しを繰り返している。
準決勝の一回戦では、絶妙なヒントで、銅海高校チームを見事に出し抜いた。『salmon(鮭)』と比べて一見イメージしやすそうなキーワード。しかし、彼らは名門校、漢隼高校チームに勝つために、
時間ギリギリになって風岡たち三人はヒントをひねり出したようだ。
そうだ。うかうかしていられない。
漢隼高校チームの提示したヒントをかき乱すミスリードヒントを考えなければならないのだ。
「はい。次は三分間のミスリードヒントのシンキングタイムです! はじめ!」と三塩アナウンサーが大きな声を発する。
漢隼高校の三人が出した三枚のパネルは『Queen』、『Japanese』、『Priest』。
日比野は意外に思った。あまり核心を突くヒントとは言い難い。しかし、よくよく考えてみると、このお題のキーワードを英単語三つだけで、しかもたった五分間で的確に指し示すようなヒントを導き出すことが難しいことが示唆された。
的確に、とは言えないものの
一方で、お隣の漢隼高校チームのミスリードヒント提供者である水野から、緊張の場に不釣り合いな噴き出すような笑い声が聞こえる。
風岡たちは何を書いた。意外性のあるヒントなのか、的外れなヒントなのか、いまはもちろん知る由はないが、前者ならば、おそらく影浦の案だろうか。
しかし、今はそんなことに意識を向けている場合ではない。気になるが、自分の目の前のヒントに目を向けなければならない。
『Queen』、『Japanese』、『Priest』。直訳すれば『女王』、『日本人』、『聖職者』。
『日本人』が大前提なら『女王』も『聖職者』も同列に並べるのはいささか相応しくない。『聖職者』は『僧侶』、女性なら『
漢隼高校チームの解答者、芝がどのくらい歴史をイメージできるか分からないが、彼も相当な頭脳の持ち主だ。日比野は全国模試の成績優秀者一覧で彼の名前と思われるものを見た覚えもある。
『Queen』、『Japanese』、『Priest』だけで、このキーワードを導き出せるという自信の表れなのか。日比野も真剣に誤誘導させるに足るミスリードヒントを考えなければ。
黙考すること二分三十秒。日比野が考えたミスリードヒントは『Oldest』。これを三枚のパネルの任意の場所に挟み込む。
「さあ、シンキングタイム終わりです! ではヒントを提示して下さい!」
四枚のパネルが提示される。漢隼高校チームの芝に提示したヒントは『Queen』、『Oldest』、『Japanese』、『Priest』。
肝心の、風岡らのヒントが気になるが、その前にまた素頓狂な声が聞こえた。
「今回もまた、何てヒント出してくれるの!」
紛れもなく、我がチームリーダー大城の声だった。
しかし、悩んでいる様子はない。すらすらと解答を書いていく。
最終的なポイントが告げられるまで、ヒント提供者およびミスリードヒント提供者には、解答者がどんな答えを書いたか見えない仕様になっている。
しかし、三塩アナウンサーら会場の声は聞こえてくる。そしてにわかに信じ難い声が聞こえてきた。
「滄洋女子高校連合チームの大城さん。解答は一個だけで良いですか!?」
「私はこれだけで充分です。自信あります!」
優梨は何と書いた。そして風岡たちはどんなヒントを提供したのだ。
日比野はひたすら気になって仕方がなかった。
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