素敵な上司のお祝いに 3ー②


「そうした歴史が間もなく動く。私も動かねばならん。さしあたっての私の望みは、私の手駒を次期大統領にすることだ。この国の大統領権限は、やはり強大なのだ。連邦準備制度理事会の任免権も、ひとまずは大統領にある」


「ルッジェリ、ひとつ質問です。貴方が大統領候補を選ぶとすれば、どのような人物を選びます? お好みはありますか? マニフェストに対するご注文などは?」


「いや。私は下らん主義だの主張だのに興味はない。時代によってものの価値などいくらでも変わる。私にとって都合のいい政策が通るか否かが肝要だ。マニフェストなど、ポエム以下の戯言たわごとに過ぎん。適当に聞こえのいい文句を書かせておけばいい」


「成る程、貴方らしい」


 ジュリアはくすっと笑った。


「それより問題は、私の道行きを邪魔するやつらがいることだ。昨今、派手に政界へ働きかけ、アメリカで最も注目すべき大富豪ファミリーなどと呼ばれている、コーク一族だよ」


 ルッジェリは不満げに、眉間にしわを寄せた。


「目障りなのですね」

「当然だ」

「彼らは非常に政治的主張が強く、好戦的です。家族間で裁判闘争に明け暮れているぐらいですから、元々の性格なのでしょう。アメリカの支配団体を構成する我ら組織の不穏分子ではありますね。

 あの一族が経営しているのは、非上場企業では全米第二位という規模の総合企業で、グループ全体の売上げは一一五〇億ドルでしたでしょうか。彼らが選挙にかけた金は、その年間売上げ額にほぼ匹敵しています。


 そうして彼らが仕組んだ策というのが、民主党のオバマ大統領を追い落とす組織、ティーパーティの設立でした。そこで自分達よりも社会階層が上にいるエリートに反感を持つように仕向け、自分達より下の社会階層によって仕事が奪われるとして、危機感をあおり、ルサンチマンと政治不信に火を付けたのです。その結果、二〇一〇年の中間選挙では、共和党が大勝利し、下院では過半数の議席を取り返した訳です。


 政治理念としては極端なリバタリアニズム。自由市場を推進させ、政府の役割を極限まで削減しようというものですが、所々に愛国主義の悪臭がします。

 ルッジェリ、政治に理想を持つ人間は厄介ですよ。下手に戦えば、勝っても負けても大火傷やけどを負うでしょう。それに第一、貴方は政治資金について、どうお考えなのです?」


「デフォルトは間もなく起きる」


 ルッジェリはたかのような目をして答えた。


「アメリカ政府の、連邦準備銀行に対する国債の利払いが遅延する、もしくは元本の償還が不能となるシナリオですね。となれば当然、それを仕掛けるのは」


「金貸し達だ。今や消費欠乏が衰弱した社会情勢に、加速するドル離れ。加えて、中央銀行制度からの脱却の動きも見えてきている。

 金貸し達は、これまでの銀行制度が限界に来ていることを、充分理解しているはずだ。彼らは、来るべきアメリカ発のデフォルトに向けて着々と準備している」


「デフォルト時、ロスチャイルドが発行しなければならなくなる新紙幣を考えますと、恐らく彼らの新通貨の構想は、電子マネーというところでしょう。裏付け用の金を買い占めているのも、そのせいでしょう。こちらとしては、バルボアナの金を流出させる予定はありませんが」


 ジュリアは余裕の笑みで続けた。


「彼らは金を安値で買い付けたいがために、金の空売りをしてきましたが、それもいよいよ限界です。アメリカの毎年の貿易赤字だけでも六千億ドル。その支払い代金の決済用に、どうしても金を使いますから。昨今は、ドイツがアメリカに預けている金の在庫確認を拒否し、預かり証を発行するだけにしているのです。要は、彼らの手元に金が無いという証拠です」


 ジュリアの言葉に、ルッジェリは大きくうなずいた。


「ああ。そう見るのが妥当だろう。だが、デノミにしろ新通貨発行にしろ、一旦ドルが信用を失った後、代替貨幣が信用される為には、その裏付けとなる金が必要だ。それが足りないとなれば、アメリカ内における新通貨政策の実現性は極めて疑わしくなる。

 金貸し共は必死になって新たな案を画策しているが、今のところ上手うまくは行っていない。こちらの情報操作も効いている」


「ええ。現状での仮想通貨の価値には疑わしい点が多いという情報発信は、続けませんとね」


「ああ。そして、揺るぎない仮想通貨発行の先駆者が、このゲームの勝者となる。

 金とダイヤモンドの市場を掌握する我々にその可能性は充分にあるし、そうでなくてはならない」


 ルッジェリは野心に燃える目をして、拳を握った。



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