スパイダーマンの謎 4-②

 チェーリオは、ズボンの後ろポケットを弄って、携帯を取り出し、平賀に差し出した。


 そこには、下のアングルから捉えた、木の枝の上に立つ蜘蛛男の姿が写っていた。


よく見ると、手首から白い糸が噴射されている。


「この写真を撮った後、蜘蛛男はどうしました?」


 平賀が、目を丸く見開いて写真を見ながら訊ねる。


「映画で見るのと同じように、手首から出した糸を使って、凄い勢いで木から木へと飛び移って、直ぐに姿をくらましました」


 チェーリオは真剣な顔つきで答えた。


「クラーラさんは、蜘蛛男を見たことは?」


 平賀の問いかけに、クラーラは少し面食らった顔をした。


「私? 私は無いわ。随分と話題になっているようだけど、神父様方は、どうして蜘蛛男のことなんか、お調べになっているの?」


「一寸した、好奇心ですよ」


 ロベルトは受け流した。


「この神父様方は、バチカンで奇跡の調査をしている方々なんだよ。だから、今回の蜘蛛男の件も、奇跡のように本当かどうか確かめに来られたんだ」


 それまで寡黙だったアンニョロが、初めて口を開いた。


「まぁ……。そうなのね……」


 クラーラは納得したような、していないような曖昧な相槌を打った。


「この写真、コピーを取らせてもらっても構いませんか?」


 平賀の問いかけに、チェーリオは頷いた。


 平賀は、早速、カバンからノートパソコンを取り出し、携帯の写真データを受け取った。


「私はまた、アンニョロが無理を言って、神父様方を呼んだのだと思っていたわ」


「どうしてそう思われたのです?」


 ロベルトが訊ねると、クラーラは含みのある目つきでアンニョロを見た。


「だって、アンニョロは昔からこの手の話題が好きだったんですもの。前にも、森にフライング・ロッドがいるって大騒ぎしていたのよ。あとは、怖い伝説とか、幽霊話も好きだもの。でも子供達は、そういうホラー話が好きだから、アンニョロは子供達に人気があるのよ」


「フライング・ロッドとは?」


 ロベルトが思わず問い返す。


「スカイフィッシュのことですよ」


 平賀が横から答え、言葉を継いだ。


「長い棒状の体を持ち、空中を時速二百八十キロ以上の高速で移動すると言われる、未確認動物です。

 その全長は数センチから二メートル。或いは、三十メートルとも言われ、側面に帯状のひれを持つとされます。そして、ひれを波のように動かして、空中を超高速で飛行するのです。

 一説によりますと、古代カンブリア紀に棲息していたバージェス動物群の一種、アノマロカリスの生き残りが進化したものだとか」


 平賀は怪しげな説を、真面目な顔で語った。


「本当なんですよ。フライング・ロットは森の中に棲息しているんです。私は何と言うか、子供の頃から、不可解な現象によく出くわすんです。そういう運命なんでしょう」


 アンニョロはそう言うと、話から逃げるようにミートボールを食べ始めた。


「フライング・ロッドのことはよく分かりませんが、蜘蛛男は僕も見たので、存在すると思います」


 チェーリオは助け船を出すように言った。


「チェーリオさんは、蜘蛛男の主張をどう思うんです?」


 ロベルトは訊ねた。


「ごみ処理場の建設反対の件ですよね。蜘蛛男は正義のヒーローですから、彼がそう主張するのであれば、それが正しいと僕は信じます」


 チェーリオの言葉にアンニョロは、こくこくと頷いた。


「ああ、それにね。もう一人、有力な証人がいるんですよ」


「有力な証人ですか?」


「ええ、村役場に勤めているフェデリーゴ・ドメニコという男です」


 アンニョロが言うと、クラーラは、「フェデリーゴは真面目な子よ。あの子の言うことなら本当だわ」と、頷いた。


「明日は、フェデリーゴを紹介しますよ」


 アンニョロはそう言うと、コップに入ったミネラルウォーターを飲み干したのだった。




 続く 


                     ◆次の公開は7月20日の予定です。

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