貧血の令嬢 4ー②


「平賀、ブロッコリーのスープを飲んでみてくれ」


 夢中で手作業をしている平賀の目の前に、スープを入れたカップを置く。


 平賀はそれを一口飲んで頷いた。


「あっさりしていていいです。アンチョビの味がアクセントになっていて、飽きがきませんね」


「チェレスティーナ嬢は、スープ類は一様に好きだと答えてくれていたからね。好きなもので栄養を取って貰うのがいいと思って、ブロッコリーのスープにしてみたんだ」


「牛乳の脂肪と、アンチョビの脂肪は、いいカロリー源にもなってくれます」


 平賀は手作業をしながら頷いた。


 平賀が細かな作業をしている間に、ロベルトは次の料理に取り掛かった。


 オートミールのリゾットだ。まずはスープ作りからである。


 ベーコン、香味野菜をざく切りにして、湯の中に入れてコトコトと煮込む。


 スープに火が通って、薄く色味が出たら完成だ。


 そして塩コショウで味を整える。


 次にオートミールを片手で取れる分だけ、スープに入れる。


 これはそのまま煮込んでいき、その間に主役となるハンバーグを仕込むことにする。


 鶉肉うずらにくをフードプロセッサーで、荒めのミンチ肉に挽いていく。


 それらを、牛挽肉と一対一の比率で混ぜ合わせ、微塵にしたタマネギとともに、塩コショウをして、よく練り合わせる。


 さて問題は此処からだ。


 ハンバーグは可愛いテディベアの見た目になるよう、成形しなくてはいけない。


 ロベルトは、キャラ弁のスケッチを参考にしながら、五十グラムほどの種を成形していった。


 そこの点の器用さには自信がある。


 種は上手い具合に、寝ている子熊の形になってくれた。


 その形を崩さない様に、フライパンで裏表を軽く焼く。


「平賀、ブランケットは出来たかい?」


「はい。自信作です」


 平賀は星形の並んだ幾何学模様になった白身魚とサーモンの合体物を、皿の上に載せていた。


「へえ、上手いもんだね」


 ロベルトは、それを手で取り、子熊のハンバーグの胸元に掛けた。


 生魚の合体物は、しんなりと子熊の形にそって、ちゃんとブランケットらしくなっている。


 それを予熱したオーブンに放り込んで、二十分ほど焼いた。


 その間に、オートミールのリゾットは出来ている。


 ロベルトはそれを器に取り、上から粉チーズを少量かけた。


「こんなに少ない量で、本当にいいのかな?」


 ロベルトは不安になって平賀に訊ねた。


「はい。カロリー計算では十分です。ご令嬢には、胃を大きくして貰いたいですが、一度には無理です。少しずつ食事の量を増やしていくことをお勧めして下さい」


「うん。分かったよ」


「さて、リゾットの味見です」


「そのリゾットは、君にもよく作る奴だよ。ことに味見する必要はないさ」


「いいじゃないですか。このリゾットの味わい、私は好きなんですよね。あっ、オートミールで作っているせいか、完全にとろりとして、スープと一体化していますね。流動食みたいで、食べやすいです」


「流動食だなんて、余り褒められた感じがしないな……」


「そうですか? 流動食の方が、ご令嬢の胃に負担がかからないからいいですよ。ハンバーグも肉の塊より、一度挽肉にされていますから、随分と胃に軽くなっているんです」


「まあ……。そうだな。病人食を作っている様な気持ちでやればいいんだものね」


「そうです。小食の人間のことは、優しい目で見て下さい」


「いつもそうしているよ」


「いいえ、時々、厳しいです」


「それは余りに食べない時だけじゃないか」


 二人の話を黙って聞いていたベルトランドが、ぷっと噴き出した。


「なんだい、ロベルト神父と平賀神父は仲がいいんだね。なんだかまるで親子喧嘩をしているみたいだ」


「確かに」


 平賀とロベルトは顔を見合わせた。


 さて、オーブンの中でハンバーグはいい具合に焼けている。ブランケットにもしっかりと火が通り、柔らかそうな形のまま完成していた。


 上々の出来具合だ。


 ロベルトは、ハンバーグをブランケットごと皿に取り移した。


 そうして調理用のピンセットを手にすると、白ごまを一粒一粒摘まみ出し、寝ている子熊の顔を描いていった。


「出来た……」


 ほうっとしたロベルトの両脇からベルトランドと平賀が覗き込む。


「可愛いですね」


「うん。これなら食わず嫌いの子供でも食べそうだな」


「じゃあこれらを、適切にワンプレートにしよう」


 ロベルトはそう言うと、仕切りのあるワンプレート用の皿を探し出した。


 皿は三つに仕切られている。


 一番大きく仕切られた、皿の下部には、ハンバーグとサラダを置いた。


 上部は、縦に二つに仕切られていたが、その右部分に小さなカップに入れたブロッコリースープを置き、左部分には小皿に入れたリゾットを置いた。


 最後にレバーのシャーベットは、カクテルグラスに入れて別置きする。


「順番は変だけど、シャーベットを先に出した方がいいね」


「そうですね。シャーベットが溶けてきたら不快に感じるかもしれませんから、先に食べきって貰ったほうがいいでしょう」


「ふむ。意外とコンパクトになったな」


 ベルトランドが興味深そうに言った。


「何と言っても、食べ物感が余りしないところがいいですね」


 平賀は弾んだ声を出した。


「その感想は、次に君の食事を作る時に、参考にさせて貰うよ」


「はい。そうして頂くと助かります」


 三人は、それぞれ気になった品から、取り分けて食べていった。


「全体に淡泊な感じだが、美味しいよロベルト神父」


 ベルトランドが感想を述べた。


「ちょっと熊さんを切断する時に、心が痛みますが、美味しいです」


 平賀の感想は、相変わらずだ。


「魚で作ったブランケットは、それだけ食べても、ハンバーグと一緒に食べても、良さそうだね」


 三人はそれぞれ感想を言いながら、もう少し改良を重ねてもいい点を話し合い、料理の栄養価のバランスを確認していった。


(続く)

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